オスロ防衛戦 5
「巴ちゃん、先導頼めるかしら」
「了解です」
俺たちは戦闘に巻き込まれないよう、アーロンを抱えて避難しようとするが、体躯が大きいアーロンを運ぶのは骨が折れる。ミーシャとウォルフと協力し、なんとかアーロンを持ち上げ、搬送する。
巴ちゃんが先頭を行き、搬送しやすい道を先導してくれているが、あたりはすっかり瓦礫の山と化している。走りにくく、足も取られやすい。
目の端にはエステル達の戦闘の様子が否応なく目に入ってくるが、瓦礫まで飛んできていよいよ身に危険を感じ始めた。今目の前で戦っているのは異世界における指折りの実力者同士の戦いだ。
「あっ、痛い!」
ウォルフは飛んでくる瓦礫が足にあたり、バランスを崩してしまった。つられて俺とミーシャもバランスを崩し、なし崩し的に全員転んでしまい、アーロンも投げ出されてしまった。
「あああぁぁ!ごめんなさい!」
「・・・私は大丈夫です。それより、早く防御結界を。戦闘が激しすぎます。巻き込まれないように」
アーロンが弱々しく話している間も、どんどん瓦礫が飛んでくる。ウォルフは剣を抜き、飛んでくる瓦礫を払い落としていき、ミーシャは結界を張ろうと魔法を唱えている。巴ちゃんはアーロンに覆い被さり飛んでくる瓦礫から庇っている。
俺も体制を立て直し、二人を守ろうと立ち上がるが、その時、巴ちゃんの頭部に向けて一直線に瓦礫が飛んでくるのが見えた。
「危ない!!」
必死で巴ちゃんを庇おうと、身を乗り出した。鈍く重い衝撃が俺の頭に響いた。視界が一瞬暗くなる。聴覚もおかしい。何も音が聞こえなくなった。しばらくして、耳はかろうじて聞こえるようになったが、巴ちゃんが泣き叫ぶ声が聞こえる。
腕もなんとか動く。どくどくと脈打つ頭をおもむろに触れると、べっとりと赤い血が手についた。あぁ、これは、この出血量はよろしくない。意識も、どんどん遠のいていく。巴ちゃんは、俺の手を握って何かを叫んでいる。だが、もう、何を言っているのかすら、わからない。
・・・
・・・
・・・
閃光が走り、ハッと目が覚める。
空は綺麗な青空が広がり、雲が流れて行く。ガバッと起き上がり周囲を見渡すと、そこはどこかの川べりの原っぱのようだった。あたりには真っ赤な彼岸花が川べりを埋め尽くすように咲き誇り、目の前には川が流れていて、霧がかかった対岸が見える。
俺は自分の体を確認するが、どこも痛くもなければ、怪我や傷も消えていた。服すらも小綺麗になっている。
「・・・くっそ。これはまさか・・・」
俺は頭を抱えた。目の前の川を見た時点で嫌な予感がしたが、これは三途の川というやつじゃないのか?立ち上がり、さらに周囲を確認するが、人っこ一人いやしない。
「巴ちゃん・・・みんな・・・ごめん」
うなだれるしかなかった。ハルモニアにいる以上、いつかこんな日が来るかもしれないと覚悟はしていたが、あっけない最期だった。
しばらく、茫然自失となり、俺は花が咲き乱れる川をただじっと眺めていた。
「美しいだろう、ここは。死後に見る最初の景色としては、悪くないと思わないかい?」
完全に一人だと思っていたから、声をかけられ死ぬほど驚いた。声がした方を見ると、そこには頭から角を生やし白い装束を着た背の高い男と、洋装に身を包んだ美しい女性が立っていた。
「君たち日本人にとっては馴染み深いだろう、この川は。本来、死ぬことは命の循環の一過程に過ぎないのだが、命の知識を忘れた現代人、特に日本人にとっては生と死の境界を象徴することとなり、死後の魂にとって、この川を越えることは己の死を受け入れることを意味する。なかなか興味深い現象だ」
男は、しみじみと語っている。
「あなたは誰ですか?それにここは・・・、死後の世界なんでしょうけど、一体どんな場所なんですか」
「ここは生と死の間の世界。そして私と彼女は、世界を統べる女神と、その女神を守る龍の神、とでもいおうか。本来であれば、いちいち死んだ者に私たちが語りかけることはしないが、君は特別だ。折入って話したいことがあるので、わざわざこうしてやってきた」
「現世でのお役目、誠にご苦労様でした。ですが、あなたにはまだ果たしていただきたい務めがあります。ご協力いただけるのであれば、この黄泉の国から帰る手伝いをいたしますが、いかがでしょうか?」
状況が状況で全てを飲み込めていないし、突然の申し出にも困惑するが、提案された話は俺が生き返る可能性があるという話だ。これは、話を聞かざるをえない状況のようだ。




