戦禍爛爛
★★★★★★
ショットガンに弾を込め、予備の弾を引っ提げたベルトを巻きつける艦長へ、肥え太った副長が不安げな視線を投げかける。
「艦長、本当に行かれるのですか?」
「"ワイルドギース"は私の艦だ。見捨てることはできんし、そもそもな、機関室に火が回っている以上じきに墜落するだろうし、侵入者によって脱出艇が破壊されたのだ。行くところは戦闘の場しかないのだよ」
艦長はニヤリと笑って、通路を駆けていく乗組員達へ合流する。
ただ、副長にはその笑みが虚勢にしか見えず、ますます嫌な汗を垂らすばかりであった。
★★★★★★
甲板をぶち破り、カルロスに組みつかれたベロニカが艦内へ落ちる。
喉を喰い破るべく襲いかかるカルロスを盾で押し除け、即座に反撃。
人狼は壁を突き破って反対側の通路へと飛び出す。
ベロニカもそれを追ってさらに壁の穴を広げてすっ飛んでいく。
すぐにシグマも穴から飛び降りて、ベロニカの後に続いた。
絶え間ない盾の打撃と、槍の突き。
それらを爪でいなしながら、カルロスは執拗な攻撃を繰り出す。
飛行船の狭い通路は、カルロスに有利に働いた。
力でゴリ押すよりも、スピードを活かして四方八方に動き回り相手を翻弄する戦法が得意なカルロスにとって、床、左右の壁、天井それぞれの距離が近い廊下は己の支配する領域に等しい。
バスケットボールが壁や天井に当たって跳ね返るように、多数の足の踏み場を得たカルロスは、目にも止まらぬ速さでベロニカとシグマの身体をズバズバと切り裂いていく。
通路の手すりや電灯が、闘いに巻き込まれて次々に破壊される。
それと同時に、2人の少女から吹き出した鮮血が、通路を汚していった。
「撃ちまくれ!」
いきなりそんな声が響いたかと思うと、通路の奥の曲がり角から白い制服を着た乗組員が複数人飛び出し、ライフル銃を乱射してきた。
しかし、ベロニカ達にとって彼らの存在は心底どうでもいいものだった。
せいぜい、小蝿が乱入してきた程度の認識であった。
飛んでくる銃弾もお構いなしに、激しい戦闘を繰り広げながら通路を走り抜ける2人と1匹。
ライフルの銃弾で止められないとわかると、乗組員達は機関銃やロケット砲を撃ち始めたが、それすらベロニカらは意に介さなかった。
ロケット弾の爆炎から鎧の少女が飛び出してきた時、彼らの戦意は完全に打ち砕かれる。
「た、退避ィィィ!」
「巻き込まれるぞ!」
退却を促す叫びはすぐに、死の悲鳴へと変わる。
ある者はカルロスの爪に引き裂かれ、別の者は盾に殴り飛ばされ壁に激突し、頭が叩きつけられた果実のように潰れる。
一瞬にして全滅した乗組員達の死体には目もくれず、ベロニカはシグマと連携しつつ果敢に攻める。
シグマの槍の突きを受け、よろめいたカルロスへ吶喊するベロニカだったが、彼女は兜の下の瞳で、人狼がニヤリと笑うのを確かに見た。
咄嗟に攻撃態勢から防御態勢へ切り替えた直後、カルロスの蹴りを受けた盾がぐにゃりと歪み、凄まじい衝撃がベロニカを襲った。
言うことを聞かない身体は、床を削りながら後退し、壁にぶつかって止まった。
「くっ……!」
「あそこだ! 撃てェーッ!」
「!」
右に伸びる通路から、わらわらと現れた乗組員達が、容赦なく銃撃を浴びせてくる。
慌てて盾で防ぐが、いくつかの銃弾が盾も鎧も貫通し、身体に穴を増やしていく。
「ああ、もうっ!」
「ベロニカちゃん! ……あんたら全員死刑よ! 吹っ飛んでくたばって死ねええ!」
怒り狂ったシグマが、飛行船の乗組員へ突撃し、蹂躙を始める。
急接近することで、仲間に当たる危険性から発砲を躊躇わせ、その隙に惨殺するというやり方だ。
が、シグマの怒りに任せた行動は、気づかぬうちに最悪の状況を生み出していた。
銃撃を受けて怯んだベロニカに、カルロスが再び襲いかかる。
「!」
「強さは認めるが、やはり未熟よッ!」
カルロスが魔力を込めて繰り出した蹴りは、ベロニカの盾をも粉砕し、彼女の腹部へもろに命中した。
先程とは比べ物にならない衝撃とダメージを受けたベロニカの身体が吹っ飛ばされる。
数秒の間で壁を何枚も突き破り、薄暗い部屋の厚い壁に激突してようやく止まった。
どうやら、自分達が入ってきたハッチの部屋に戻ってきたようだ。
──ヤバい、離れ過ぎた……! このままだとシグマが……!
傷口だけでなく、口や鼻からも大量に血が流れていく。
何ヶ所か骨が折れたようで、身体が思うように動かない。
いつもは難なく着こなせているはずの鎧が、ただひたすら重い。
──立て! 立つんだよバカ女!
ベロニカが己と格闘する間に、複数の人間が部屋に飛び込んでくる。
大勢の武装した乗組員と、ブリッジで一瞬見かけた艦長だ。
「いました!」
「き、貴様ぁ!」
「ちっ……!」
思わず滅多にしない舌打ちをし、更に身体へ鞭を打ち、なんとか立ち上がる。
しかし、艦長らは容赦なく銃を構え──
────轟音
同時に船体が激しく揺れ、ベロニカは再びその場に崩れ落ちた。
乗組員達もバランスを崩し、転倒。
艦長を含む何人かは手すりを乗り越え、閉まったハッチの上に落下する。
「エンジンが爆発した……! この船は落ちるぞ!」
怒りに満ち満ちた表情で、艦長が睨んでくる。
あまりに憎悪が溢れ過ぎて、浮き出た血管が弾け飛んだ程であった。
「こいつは地獄への手土産だ!」
銃を拾い上げて構える艦長。
危機を察知し、壁にもたれながら立ち上がろうとするベロニカだったが、壁を這うように伸ばした手が棒のようなものに触れた。
ベロニカには知る由もなかったが、それはハッチを開くためのレバーであった。
ベロニカが思い切り体重をかけたので、レバーはがくんと下がり、ベロニカは三度崩れ落ちる。
「! 待っ──」
己の身に迫る危機を悟り、艦長が叫んだのも束の間、無慈悲にもハッチが開き、艦長と何人かの乗組員達を燃え盛る地上へと投下した。
「艦長!」
「もうダメだ! 逃げろ!」
「脱出艇はもうないって聞いてただろ!」
「知らねえよ! とにかく脱出準備!」
統率者が消えたことで、乗組員達はたちまち混乱に包まれ、逃げ惑い始める。
だが、慌てふためく彼らの声も、一瞬のうちに乗組員全員の首がごとりと落ちたことで聞こえなくなる。
爪にべっとり付着した血を振り払いながら、壁の穴から侵入したカルロスはベロニカの前に歩いていく。
「……」
「会いたかったんだろう?」
そう言って、右手で引き摺っていた何かを投げつけてくる。
シグマだった。
全身を斬られに斬られ、赤黒いローブでも纏っているかのような有様の、相棒。
仰向けに倒れた彼女の顔には、鼻がなかった。
それを目にした瞬間、ベロニカは自分の中で何かが崩れ落ちるのを感じた。
かっ開いた目は閉じることを許さず、震える身体を静める手立ても見つけられず、鼻のない相棒の血まみれ顔を黙って見つめることしかできなかった。
「……!」
「どうした? 怒りが湧いてくるか?」
カルロスは鼻の穴から大きく息を吐き出した。
そして、ベロニカに向かって再び何かを投げつける。
ベロニカの眼前に滑ってきたのは、半分程の長さに柄が折られた、シグマの槍。
「心が躍る展開だ。死んだ相棒の想いを背負い、遺された武器を手に取って、強敵に立ち向かう。男女問わず、燃えるだろう?」
震えが、止まった。
今気づいたが、カルロスはすっかり冷静さを取り戻していた。
荒ぶっていた先程とは打って変わり、相手を言葉と行動でおちょくる余裕がある。
……それが非常に、腹立つ。
──ああ、どれだけ頭を下げたっていいから、奴に頼みたいな。さっさと金持ちの足に踏まれるカーペットになってくれって。早いことこの世から永久退場してくれって。
壁に体重を預けながら、ベロニカはゆっくりと立ち上がる。
バケツの水をぶち撒けたように、吐き出した血が床へ落ちた。
「僕には……必要ないよ」
ベロニカは、手ぶらであった。
カルロスの言うところの心が躍る展開に必須な、シグマの槍を手にせず、丸腰でカルロスに相対しているのである。
怪訝な顔をするカルロスへ、ベロニカは笑みを向ける。
それは、奴に初めて真正面から見せる、不敵な笑顔。
「だよね、シグマ」
「!」
反射的にベロニカの足元を見たカルロスは、小柄な少女と折れた槍が消え失せていることに気づく。
そして横を振り向いた瞬間、ベロニカから見て右へ超速で回り込んでいたシグマが手すりを蹴って空中に飛び出し、血を撒き散らしながら槍を突き出していた。
咄嗟に両腕で槍を受け止めるカルロスだったが、シグマの勢いを殺し切ることはできず、そのまま壁に叩きつけられる。
「ぐううぅぅぅぅうううッ!」
「こ、こんのおおおおおおおおお!」
既に全身がズタボロで、鼻も切り落とされた。
それでも、シグマは最後の力を振り絞り、カルロスの胸を刺し貫かんと、思い切り吼えた。
力の差は歴然。
だが奇襲が成功した今が、最大のチャンスなのだ。
「いい加減死ねってのおおおおおおおおッ!」
「っ……!」
ベロニカは、即座に自身の役割を見出した。
おぼつかない足取りで攻防を繰り広げる2者の元へ歩き、槍の柄を掴む。
そして、自身もまた在らん限りの力を込めて、カルロスの胸へ槍を押し出す。
2人分の力が加わったことで、カルロスが両手で押し返していた槍が、掌を削りながら徐々に胸へ近づいていく。
天秤が、傾き始めた。
「ぐうぅぅうううおおおおおああああああッ!」
「「はあああああああああああああああああっ!」」
槍の先端が、ズタボロのタキシードに触れる。
「うおおおおおおおおおおおっ!」
艦全体を震わせる叫び声と共に、カルロスは槍を押し返す。
ベロニカとシグマの足が床を擦り、身体ごと押し戻される。
しかし──
「「ぐあああああああああああああああああッ!」」
──天秤は、傾いたままであった
槍はずるりとカルロスの手をすり抜け、その胸板を叩き割って体内に滑り込む。
勢いは衰えることなく、そのまま背中を破り、壁に突き刺さった。
「っ…………!」
信じられない、とカルロスの目が言っている。
槍に貫かれた胸を、まじまじと見つめている。
そんな人狼を、一気に力が抜けて尻餅をついたシグマは指さし、嗤う。
「これで……お終いよ…………ケダモノ!」
その時だった。
大きな爆発音と共に、船体が激しく揺さぶられる。
震災に遭遇したかのような揺れであった。
ベロニカはその場にすっ転び、シグマも身動きが取れなくなる。
「シグマぁ!」
それでも、ベロニカは立ち上がった。
相棒の腕を掴んでだき抱え、開いたハッチへと走り出す。
ハッチから下を覗いてみて分かったが、かなり高度が落ちているようだった。
中央広場の真上を飛行しているようで、入り乱れて戦う人間と異形種が見える。
「ベロニカちゃん⁉︎」
「掴まってて! シグマ!」
「へ……いや、ちょっと待って!」
ベロニカの意図を察したシグマが待ったをかける。
それはまさしく、決死の飛び降り。
パラシュートもつけない、9割の確率で死を迎える(シグマの勝手な確信)スカイダイビング。
そんなものに、ベロニカは挑もうとしているのだった。
★★★★★★
飛行船"ワイルドギース"が通過しようとしている中央広場は、まさに大乱戦という言葉が似合う程の激しい戦闘が繰り広げられていた。
異形の兵士に下手な構えの剣で戦いを挑む村人。
丘のように巨大なひとつ目巨人に立ち向かうゴーレム。
別のゴーレムは弓矢を弾きながら、密集する魔王軍を蹴散らしていく。
4本の腕が生えた敵兵を迎え撃つ王都の冒険者達。
辛うじてハインツを助け出し、追撃してくる敵へ銃撃を加える黒鯨の降下猟兵。
あちこちで剣と剣がぶつかり合い、血潮と火花が散る。
誰かが死に、別の誰かが殺し、叫ぶ。
今この場で敵の返り血を浴びていないのは、柱に縛り付けられた少女──トゥピラだけだった。
そのトゥピラは、戦場の1点を息をのんで見つめていた。
グラヴァ・ニーツェとの戦闘で斧を失い、突然乱入してきた軍人のような男達に素手で挑むゾーリンゲン。
はっきり言って戦況は最悪であった。
「ヒャッホォォウ! いくぜワッケン!」
「おうよジンクシー!」
ナイフを手に猛スピードで動き回る黒服のジンクシーに、ゾーリはただ翻弄される。
いつの間にか体のどこかを切られ、それに気づいた時には別の部位を切られている。
その繰り返し。
「く、くそ……! くそがよおおお!」
ゾーリはおちょくるように立ち止まったジンクシーに殴りかかるが、すぐに背後に回られ蹴り飛ばされる。
よろめいた先には、褐色服の巨漢ワッケンが待ち構えており、奴の拳がゾーリの頭に振り下ろされた。
「ふんぬっ!」
岩が凹む程の威力をもろに受けたゾーリは、悲鳴をあげることもできずに地面に叩きつけられ、自身を中心にクレーターを作った。
が、朦朧とする意識の中で何とか立ち上がる。
「弓使いよかタフだなあ!」
指を鳴らしながら、ワッケンは笑った。
彼の背後には、首の骨を折られて生き絶えた新人弓使いがいる。
そして、まだ死んではいないだろうが、ゴアンスとウィルも倒れたまま。
それが尚更ゾーリの怒りを掻き立て、立ち上がる理由となっていた。
「テメェらは……何度殺しても足りねえぞおおお!」
「……ゾーリ…………」
親友の名を、トゥピラは呟く。
彼を援護することもできず、ただ見守ることしかできないのが、たまらなく悔しかった。
このままでは、ゾーリもゴアンスもウィルも死んでしまう。
だが、トゥピラの非力な腕は縄を引きちぎることはできなかった。
──やっぱり、力がないと……。
──弱いままじゃ、ダメなのに……!
──お願い。死なないで…………!
「きゃああああああああああああああっ!」
トゥピラの思考は、突然空から降ってきた叫び声で遮られる。
反射で空を見上げたトゥピラの目に飛び込んできたのは、黒煙と炎を纏いながら低空飛行する巨大な飛行船と、そこから落ちてくるごつい鎧だった。
あんな鎧を着込む人物は、彼女しか思い当たらない。
「ベロニカ⁉︎」
飛行船は高度を落としているとはいえ、地上からはかなり離れている。
そんなところから飛び降りるなど、文字通り自殺行為だ。
なんてことを考えているうちに、ベロニカと地上の距離はぐんぐんと縮まり、遂に激突する。
轟音と共に、土煙が立ち上る。
やがて煙が晴れると、そこには大の字になって倒れる血まみれの鎧と、これまた血まみれの小柄な少女だった。
「うっ……うう…………」
「シグマ!」
小柄な少女ことシグマは、死んだように動かない相棒を必死に揺さぶり、顔の血を涙で流していく。
2人がカルロスと繰り広げた戦いの壮絶さは、鼻のない彼女の顔を見れば明らかだった。
「ベロニカちゃん! しっかり! ねえ!」
懸命にベロニカの肩を揺するシグマ。
トゥピラはどう言葉をかけるべきか迷ったが、いやそもそも言葉をかけて良いのだろうかと躊躇いが生まれ、結局何も言えなかった。
その時だった。
炎に焼かれる村がほんの一瞬だけ、目も眩む程の明るさに包まれた。
直後、先程とは比べ物にならない轟音が戦場の空気を激しく振動させる。
トゥピラが瞬時に理解できたのは、上空で大爆発が起こったこと。
遅れて理解したのは、爆発したのが飛行船であることだった。
炎を纏った残骸が、真夏の流星群の如く中央広場に降り注ぎ、何人もの村人、そして異形の兵を潰していく。
乱戦から打って変わって皆が逃げ惑う中、ゾーリンゲンと戦いを続けるジンクシーとワッケンが何故か楽しそうな口調で喚いた。
「おいワッケン、船が爆発しちまったぞ⁉︎」
「帰るの大変だぜ、これ! だが大変は楽しい!」
「全くだ!」
ベロニカとシグマにも無数の破片が降り注ぐが、それらは空中で跡形もなく爆散し、2人に届くことはなかった。
杖を振りかざして魔法を放ちながら、ゴードンが2人へ駆け寄る。
「大丈夫か! ……全く無茶をしおって! 後先短い老人より早くあの世に近づくんでない!」
「…………ごめん。でも……」
「わかっとる。その様子を見る限りじゃと、カルロスはあの船の中なのじゃろう。大幹部とはいえ、ただでは済むまい」
ゴードンがそう漏らすのが聞こえてくるが、トゥピラの中にはほぼ確信に近い嫌な予感があった。
カルロス程の男が、飛行船の爆発如きで死ぬとは到底思えない。
死ぬどころか、大した怪我すら負っていない可能性もある。
それを伝えようと、息を吸い込んだ時だった。
首元に剣のように長く鋭い爪が押し当てられ、トゥピラは反射的に吐き出そうとした言葉を喉の辺りで押し留める。
カルロスだった。
炎に焼かれたことで毛はちりぢりになり、あちこちから流血。
さらには胸にシグマの槍が突き刺さっている。
それでもなお、奴は特に痛がる様子もなく、トゥピラが縛られた柱の隣に立っている。
「……僅かだが効いたぞ。だが残念だったなゴキブリ共。俺はこの通りだ」
理不尽なまでのタフネス。
先程までの戦いが無駄であったとでも言わんばかりの仁王立ち。
シグマやゴードンを絶望の淵に叩き落とすには十分過ぎた。
「嘘…………でしょ……?」
「……主よ、我らを救いたまえ」
一方、魔王軍の兵士達の間からは、歓喜の叫びが上がり始める。
「カルロス様が戻られた!」
「我々の勝利は近いぞ!」
「「「カルロス様! カルロス様! カルロス様!」」」
上官の名を叫び、勢いづく魔王軍。
応戦する人間達は、明らかに戦意が失われつつあった。
「そうだ、兵士達よ。もっと殺すのだ。もっと焼き払うのだ。人間への憎しみはそんなものか!」
カルロスの声は、勝利を確信している者のみ出すことを許される、強かな音色であった。
配下を鼓舞し、勝利をさらに確実なものとするために、彼は声を張り上げる。
夜空へ勝利の雄叫びを響かせる、明るい未来のために。
「破片もこの少女も我らの手に落ち、ハッピーエンド! 我々のみが得をする、素晴らしい結末を迎えよう! さあ、皆! 敵は目の前だ! 皆ご──」
──パァン
いきなりそんな音が響いたかと思えば、トゥピラの首に押し当てられたカルロスの爪が根本からへし折れ、地面に落下した。
この僅かな時間の間に彼が理解できたのは、何かが遠くから飛んできて、爪を折ったということだけ。
だが、その次の一瞬でカルロスは、その何かを飛ばした者の正体に気がつく。
中央広場の入り口付近。
建物の残骸を盾にして、黒い武器を構える坊主頭の男。
あちこちが破れて肌を晒しているのは、緑色でまだら模様の服。
ストエダに追わせていたはずの、人間。
それがわかった瞬間、カルロスは吠えた。
怒りに任せて。
憎悪を込めて。
「今度は貴様か! 緑色ォォォォォォオオオオッ!」
悪感情に満ちた叫び声の後に続くのは、冒険者トゥピラの涙声だった。
「……トシヤぁ!」




