焦燥
おまたせしました
「アイツらねぇ…活動資金なんてどっから湧いてんだか…」
仕事帰り、俺はロボから聞いた話を思い出していた。
思えば、やつらは生前、世界を我が物にする一歩手前まで行っていた気がする。ロボはあくまで試作機なだけであって、俺らが駆け付けた時には当時のロボ以上の性能を持った兵器はかなり製造されていた。実際に戦ってみれば、パワーも性能も桁違いに強かった。
当時の俺は『究極生命体』はおろか、『金の瞳の戦士』にさえ目覚めていなかったから、まともに戦い続けたらマジでヤバかった記憶がある。そんな高い科学技術を持ち、俺らに野望を打ち砕かれたやつらがまた集まってるってなるとやはり何かあると考えてしまう。やつらは俺なんかと比べたらずっと人間に近い生物なのだから、それなりに恨みもあるだろう。
「たーっいま」
「お帰りー。仕事おっつー、早速夕飯作りなさーい」
「…どうした、なんか上機嫌だな」
家に帰るやいなや美奈は普段より明るい声で俺を出迎えた。彼女は感情の浮き沈みが分かりやすいから、良いことがあれば機嫌は凄く良くなるし、悪いことがあればズーンと沈んでいる。いったい何があったのか聞いてみると、
「いやぁ、実はさ、今日街を適当にぶらついてたら穏雅の知り合いって人に会ってさぁ。ちょっと質問に答えただけで、5万もくれたよっ!」
「いやいや、怪し過ぎんだろ。大丈夫か? 何もされてないよな?」
「大丈夫だよ、特に住所とか私の名前とか聞かれなかったし」
「じゃあなんて聞かれたんだよ」
アイツらが何かを企んでいると噂が入って来た途端、美奈にそんな変なことを聞いて来るやつが現れたなんて。展開が急過ぎるし、怪し過ぎる。俺はどんなことを聞かれたのか尋ねると、彼女はうーんと思い出しながら答えた。
「穏雅の強さとか、あとは私とどんな関係なのかってのも聞かれたわ。それと…穏雅を手懐ける秘訣とかも…」
「…なんだそりゃ。とにかくそんな怪しそうなやつらに絡んじゃダメだろ。でも5万はでかした。美味しいから懐にしまっとけ」
「いや、ごめん。もう化粧品とか洋服買うのに使っちゃった」
「おい」
そこで美奈との会話は終わったが、 どうも引っかかることばかりだった。何故唐突にそんなことを尋ねるやつが現れたのか。相手は彼女が俺と何らかの付き合いがあるから、彼女に狙いを定めたのだろう。
実際、俺と彼女は休みの日を使って何度か一緒に買い物とかをしているから、それなりに噂にはなっているだろう。しかも俺を名指しで彼女に色々聞いて来たとなると、ますますやつらとの関連性を疑ってしまう。
(明日あたり…探ってみるか)
「美奈、分かってるだろうけど、もし今度ソイツらに会ったとしてもついてくなよ。金貰ったら玉金蹴っ飛ばしてとっとと帰れ」
「あーうん、そのつもり」
俺は念のため美奈に釘を刺しておくと、ちゃっちゃと食事の用意を済ませた。噂になってるやつらと彼女に関与して来たやつが同じでないことを願いながら。その日、寝る前に俺は『金の瞳の戦士』になってみた。今のところただなるだけなら破壊欲の制御は出来ているし、力のさじ加減も多分問題ない。しかしいざ戦闘に入ってしまうと、欲望の赴くままに振るってしまいそうな気がするのだ。
もし自我を失うほどの暴走を引き起こす力ならどれほど気が楽か。自我を保ててしまうからこそ、気の向くままに使ってしまいそうで、それが大きな犠牲を生み出しそうで、生前は誰もいなかったから躊躇無く振るえたけれど、今は違う。もしもこの力で彼女を傷つけてしまったら、俺は自分自身を今度こそ許せないだろう。
そんな爆弾を抱えたまま、俺は翌日を迎えてしまった。俺はその日の仕事を早めに切り上げると、ロボや同僚に噂の火の出所を聞きまくった。そしてその情報を片手に、怪しいと睨んだ場所に向かった。
「ここか…怪しい臭いがプンプンするな」
そこは地獄から外れた辺境にある森で、よっぽどの物好きで無い限り来ないような場所だった。しかしそういう場所だからこそやつらがいるのではという噂が立つのだ。俺はガシャガシャと草木を掻き分けながら辺りを散策するが、一向にそれらしき影は見えない。
究極生命体の力を使って五感をフルに研ぎませてもいいのだが、それだと万が一の時に満足に使用出来ない可能性がある。なにせたった30分しか使えない力だから、使いどころを間違えたらいざという時に役に立てない。
待てども待てども変わらぬ現状、そうなるとだんだん間違ってる場所にいるんじゃないかとさえ思えて来た。そもそもこの森全てを捜索するとなったら、丸1日は潰すくらいじゃないと無理だ。こんな風にピンポイトで捜索していたって見つかる可能性はかなり低いだろう。しかしだからといって大きく動いてしまったらやつらはもっと隠れ、より捜索は困難なものとなるだろう。
「くそっ…」
せめて、せめてやつらに関する手がかりさえ、尻尾の一部でも捕まえたらそこからなんとか探し出すことが出来るのに。しかし悩んでいても物事は進まない。そろそろ地獄の陽も落ちるだろうから家に帰らねば。捜索はまた後日に別の場所を狙ってみよう、と俺は山を下山した。
「…っあれ、美奈いねぇのか…」
家に帰ると意外にも家の灯りは点いておらず、暗いままだった。普段なら彼女は家の中でゴロゴロしながら夕飯を待っているので、灯りは点いているはずなのに。俺は玄関の開けて中を見ると美奈が普段履いてる靴が無かったから、恐らく外出中なのだろう。いつもは帰って来るなり夕飯をくれーっとせがむくせに。
もしかしたら、昨日言ったやつらに絡まれたけど大金だけ奪い去り、それを一生懸命消費中なのかもしれない。あれでも美奈は強く、並大抵の人間には滅多に負けない。それに大金を頑張って使い切ろうとする姿も、なんとなく想像出来てしまう。俺ほどでは無いが、彼女の物欲はかなりある方だからな。
とはいえど、やはりいつもの食べ物くれくれコールが無いってのは不安になる。とはいえ前者の可能性も捨て切れない俺は仕方なく夕食を2人分作り、洗濯物を回しながら風呂を沸かしながら美奈を待った。彼女のことだからこちらが洗濯物をしてる中、玄関のドアをギィーッと開けて、おかえりと言う間も無く夕飯をよこせって言うんだろうな、なんて想像しながら。
しかし短針が10を刺しても彼女は帰って来なかった。ここまで来ると流石に最悪のケースが脳裏をよぎり始める。もしもロボを作ったやつらと美奈に接触して来たやつが同じやつで、俺とロボを倒す計画を練っているとしたら。
そして美奈に何か手を出していたら。
そう考えた瞬間、俺は家を飛び出していた。街灯すら無い真っ暗な夜道を飛ぶようにひたすら走り、全力で昼間に探索した森を目指す。
嫌な予感よ、どうか外れてくれと願いながら。
ズザァッ
森の入口に到着したとほぼ同時に、俺は鼻の一部分にだけ究極生命体の力を使い、嗅覚の探知能力を底上げした。その瞬間、俺の鼻の奥を強過ぎる刺激がツゥンと貫いた。嗅覚を研ぎ澄ますということは、とてもわずかな臭いだったとしても、神経が過剰に反応してしまうことだ。森という自然の中で使えば、多種多様の植物やそこに生息している獣臭が混ぜ合わさって嗅覚を刺激するわけだから、脳に直接汚物をねじ込まれる気分になる。
それを我慢しながら俺は数多ある臭いの中から、彼女の臭いだけを嗅ぎ分けた。この中に美奈の臭いが無いことを祈りながら。
しかし俺の期待虚しく、美奈が先日買った化粧の臭いと共に、彼女の臭いが森の奥から匂っていた。
次回の投稿もお楽しみに




