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アンバランス・ワールド  作者: がおー
第5章 〜白毛の強者達〜
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究極無名怪物と異次元大怪獣

おまたせしました

「…」


 無惨にも複製を捕食してゆく大怪獣の様を1人の怪物は歩道橋の柵の上からジッと眺めていた。


 しかし怪物は喰われ行くその複製のことを助けるようなことはしない。というよりも、出来なかったのだ。


 怪物が神気(じんぎ)を追って現場に駆け付けた時にはもう複製の体はほとんど喰われており、(したた)る血が大怪獣の喉を通っていたからだ。すでに手遅れ、とうに異変の元凶と思われる複製の肉体は大怪獣の腹の中だった。


 そして怪物は何処か寂しげに吠える大怪獣を見て静かに割れた道路の上に降り立ち、スタリスタリと歩み寄った。


「グルルッ…! き、君は…ッ」

「話は美月(みづき)から聞いているよ」


 大怪獣の前に現れたななしは寄り添うような態度でそう言うが、大怪獣はスッと顔を伏せてななしから目線を背けてしまう。


 何しろ先程まで大怪獣の怒りの根源にあった者が目の前に現れたのだから。しかしそれは全て自身の誤解、大好きなお父さんを殺した相手はすでに喰い殺してしまった。けれども大怪獣の胸の中は未だに晴れない、かと言ってどう晴らしてよいかも分からない。しかもそんな大怪獣の前に現れたのはついさっきまで恨んでいた相手。


「…ウゥ…ヴゥ…」


「…」

(怒り狂ってる…。でも怒りのやり場が分からなくて困惑してるのか…。多分怒りの根源にある相手はさっき喰い殺した奴だろうし…)


 そんな大怪獣の心を静かにななしは読み、怒りの根源にある存在を殺してしまったからそのやり場が無くて困惑していると悟る。激情に駆られるまま殺してしまったから、精神が不安定なまま恨む相手を喰ってしまったから、やり場を失った負の感情が大怪獣の体中に溜まってしまっている。


「…ねぇ、君」

「ガルル…」


 ななしは1歩、また1歩とそんな大怪獣に近づき、そして、



「混乱してるんだね…。どうしたらいいかも分からない、感情のやり場を失ってる。そうでしょ?」



 落ち着き払った口調でそう言った。すると大怪獣も落ち着き払ったその様子にフゥフゥと息を荒らげながらも、ゆっくり言葉を(つむ)ぎ話し出す。



「グフゥ…フゥ…わ、分かんない…分かんないよ…ッ! 僕は…僕はどうしたら…この…フゥッ、湧いて来る()()を…どうしたら……教えて…よぉ…お父さん……ッ」



 もはや大怪獣の心は臨界状態にあった。怒りはいくらでも湧き出て来るのに、それを何処へ向ければいいのか、どうしたらこの胸の想いは、苦しみは取れるのか、大怪獣には何1つとて分からなかったから。しかも自身の分からないことを教えてくれる存在はもういない、自分を導いてくれる者は死んでしまった、だからどうしていいのか大怪獣には全くと分からないのだ。



 そんな大怪獣のことをななしはジッと見つめながら、



「分からないのなら…分からないなりに吐き出してみたら? 言葉で言い表してもいいし、それも出来ないのなら気の済むまで暴れたっていい。とりあえず胸にあるとっかかりは全部吐き出さないと」



「大丈夫、全部僕が相手をするから」



 更に1歩歩み寄ってそう答えた。



「……ッ」



 その言葉を聞いて大怪獣の顔は呆気に取られたかのようにななしの方を見る。この感情を吐き出すなんて、想いのまま暴れていいだなんて、そんなことをして本当にこの想いが晴れるのだろうか。それだけでこの張り裂けそうな苦しみが除けるのだろうか。


 

 でも、それでも、だからといって自分には解決策なんか浮かばない。なら、だったら、そうするのが正解なんだろうか。気の済むまま暴れ狂うのが、答えなのだろうか。



「……僕は…僕は…ただ…お父さんと一緒にいたかった…。お父さんは……僕の全てだったから…」



 それでも大怪獣は口を開き、ほんの少しずつ胸の中の想いを語り出した。お父さんが自分の全てだったのに、それら全てを失った自分はどうしたらいいのか。大怪獣は自身の中にドロドロ渦巻く感情を懸命に言葉へと変えながら吐き出した。



「お父さんと見る世界は……すごく綺麗だっ…た……。でも……お父さんのいない世界なんか…綺麗じゃあ……ない……。そんな世界なんかいらない……。こんな世界…僕には……耐えきれない…よ」



 すると口にして吐き出すことで感情は少しずつ外へ外へと溢れ出し、次第に口数も多くなる。大怪獣自身もどうしてこうも言葉が出て来るのかと不思議に思ってしまうくらいに。しかしそれ以上に止められない、溢れ出すこの感情を。


 だったら更に、止められないのなら止めずにもっと吐き出さないと。



 この想いが、空っぽになるまで。



「僕は……僕は……こんな世界…いらない。だからッ……思い切り暴れたいッ…!! 暴れて…ぶち壊したいッッ!! 僕自身ごとッッ!!!」



「そっか…。なら、カモン。僕が全力で相手してあげるよ。気の済むまで思う存分暴れるんだ」



「ヴンッ…!!! グバァルルルルルルルッッ!!!!」



 しかし溢れ出す感情は全て、自身が今いる世界を破壊したいという衝動へと変わる。自分自身の望まない世界、耐えきれない世界。ならそんな世界破壊してやると、大怪獣は口にした。

 その言葉に対しななしはそうかと笑顔で(うなず)くと静かに構え、暴れるのなら僕が全力で相手をしようと言う。抑えきれない破壊衝動ならむしろ吐き出せ。体内に溜め込んだままだと逆に害にしかならない。暴れたければ存分に暴れるがいい、全て僕が受け止めてやる。



 そんなななしの想いに触れた大怪獣はうんっと力強く(うなず)くと、勇ましく(たけ)りながらななしに襲いかかった。



「ほっ!!」



 スルッ!!!



「グヌヴッ!!」



 ななしは襲い来る大怪獣の猛進を回転しながらいなしつつ、大怪獣を自身の後方へとやると、



 ガッ!!!



「ぬぁああああッ!!!!」



 ズンッ!!! グォンッッ!!! ブゥオンッ!!!



 その巨大な尻尾を両の腕でしっかりと掴み、体の重心を思い切り(ひね)ってぶん回した。


 大怪獣の巨体は遠心力とななしの腕力によって持ち上がり、グォングォンと大きく空を切りながら、ななしを中心にグルングルンと回転を加える。



 そしてある程度反動がついたところでななしは、


「どらァッッ!!!」


 戦いの場所を変えるため、大怪獣を思い切り空の彼方へとぶっ飛ばした。


 と同時にすぐさまななしは大地を蹴って空へと飛び上がると、大怪獣が空中で態勢を立て直す前に追撃の蹴りを喰らわせる。ななしの蹴りは大怪獣の胸元に突き刺さり、メリメリと深くめり込んだ。


 だが由美ヰ(ゆみい)美月(みづき)という強者達との死闘を繰り広げて来た大怪獣はその一撃を耐え抜き、反撃と言わんばかりに爪を勢いよく振るう。

 しかし即座にななしは自身に向かい来るその爪を即座に受け止めながら一気に大怪獣の(ふところ)に潜り込むと、


「ディヤァッ!!!」


 ドドドドドドドドッッ!!!!


「オゴガッ!!」


 腹目掛けて連続パンチを喰らわせた。


「グヌヌゥッ!!」

「むっ!」


 けれども大怪獣はその拳の連打に耐え、(ふところ)に潜り込んでいるななしを止めようとその拳を硬く握りしめ、



 ドゴォッッ!!!!



「おっ…!」



 バギィンッ!!!



 咄嗟に防御したななしの腕目掛けて吹き飛ばす。その威力は神気(じんぎ)(まと)って防御したななしの腕を痺れさせ、骨を折るまでには行かないもののギシギシと軋ませる程であった。



 そんな大怪獣の強さを前にななしは臆することなく、



(流石だな…。美月(みづき)が言うにはこの子も僕の複製(コピー)らしいけど…、もうそんなの関係ないな)



 吐き出される激情による攻撃を全て受け止めていた。



(この子の心を読んで分かった…。いくつもの心が1つの体にあるんだ。それらが全部融合して…ただ1つの愛を求めてる…)



(そう、かつての僕みたいに…お父さんに、家族に愛されることを望んでるんだ。ただ1人の人間として…誰かと一緒に笑っていたい。それが僕の望みであって…この子の願いなんだ)



(そして今…この子は今、一生懸命自分の感情を吐き出してる。かつての僕は師匠と会うまでずっと抑え込んで来たけれど…この子にはその時の僕のような辛い想いはさせない…ッ! 今ここで、全部吐き出させてやるッ!!)



 かつての自分と姿を重ねながら、ななしは大怪獣と戦い続ける。怒りに身を任せ復讐を果たした後、何もすることも見つけられず、師匠に会うその時まで生きてるように死んでいた日々



 その時の虚しさをこの大怪獣には味わわせない。負の感情は今ここで全て吐き出させる。



「グゥアアアアッッ!!! 何もかも、消えちまえェェエエッッ!!!」



 ズァッッ!!!!



「これで全て終わらせるッッ……!!! はぁああッッ!!!」



 それから激しき戦いの果てに遂に戦いの場は広い荒野へと移り、大怪獣は自身の怒りを始めとした全ての激情が込められた神気(じんぎ)の巨大な塊、『ネイ・ブラスター』を目下にいるななし目掛けてぶっ放す。



 それを地上にて迎え撃つななしは両の手の中にありったけの神気(じんぎ)(みなぎ)らせ、そして一切の雑念なく敵を倒すという純粋な想いと神気(じんぎ)のみを手の中で超圧縮し一気に解き放つ大技、『イノセンス・ネオ』をその手から放った。



 ドォアッ!!!!



 ズンッッッ!!!!!



 それぞれの両者の想いが込められた大技は空中で激突する。ブォンブォンと放たれる衝撃波でさえ荒野に並ぶ岩を粉々にし、地形が変わる程の威力であった。


 両者の技の威力はほぼ互角、一歩も譲らない状態だ。



 しかし、



「グゥッ…ウゥ…!!」



「だぁああッ!!!」



 戦いの経験、神気(じんぎ)なるものをどれだけ扱って来たか、そして単純な強さだけでなく動き続けるという体力の差。


 

 それから何より、大怪獣は美月(みづき)との連戦と、怒り続けることによる疲労によって体のエネルギーがほとんど尽きかけていたということによる差が時間と共に浮き彫りになり始める。



 そして遂に、



 ドバァンッ…!!!!!



「……ッッ!!!」



 大怪獣の全ての想いを乗せた大技『ネイ・ブラスター』はななしの大技『イノセンス・ネオ』によって打ち砕かれ、



 ドンッッ……!!!!!



「グァアアアアアアアアッッ!!!!」



 『イノセンス・ネオ』の奔流(ほんりゅう)にその巨体は呑まれ、吹き飛ばされてしまう。



 やがて空中では凄まじい威力を持ったななしの大技のエネルギーによる大爆発が起き、戦いの終焉(しゅうえん)(いろど)った。



 そして……



「……」



 グラァ……



「ほっ…」



 トッ…



「よいしょっ」



 ドスッ



 己の感情を全て吐き出し終え、気を失い落下して来る真音(ことね)のことをななしは優しく受け止める。

次回の投稿もお楽しみに



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