大怪獣襲来
お待たせしました
ドスンッ…ドスンッ…ドスンッ…
「フゥーッ、フゥーッ、フゥーッ…」
傷ついた大怪獣はフゥフゥと息を荒らげながらも、膝を砕かれて動けないお父さんの友達こと複製を連れて、街をすぐ側までやって来た。だがその表情は怒りと殺意に満ち満ち、荒く漏れる息はその激情を溢れ出させているようだ。
「今はここでいい。次の敵はすぐに見つけてやるさ」
(…にしてもこの役立たず…。美月相手にこうも一方的にやられるなどと…。だが次はこうはいかない、次こそはななしや美月を殺し、あの出来損ないにも出来なかった世界征服を果たしてやるのだ…)
そんな大怪獣の側に複製は腰を下ろすと、すぐ側にある街に目をやりながら次なる敵が見つかるまで待つよう大怪獣に言う。しかし必ず勝てると思っていた美月相手に大怪獣は惨敗するなどとある筈がない状況に、複製は顔を曇らせていた。
何しろ自分の目的はあくまで世界征服で、ななしや美月はその弊害となるから強者の複製を作って倒そうとしたのだから。だがいざ実践すればことごとくその計画は失敗し、あまつさえ自分の支配から逃れた裏切り者さえ出る始末。しかも何処から来たのか分からない水のような怪物によって自分の代わりも複製を作り出す装置も何もかも全て破壊された。
結果複製の手元に残ったのは、格下であった者にさえ勝てない大怪獣が1頭のみ。本来ならばななしをも超える存在の筈なのに、圧倒的なパワーで何者も寄せ付けない強さの持ち主である筈なのに。
それもこれも全てこの大怪獣に穏やかな心などという下らないものを植え付けたあの出来損ないの複製のせいだ。アイツさえいなければ大怪獣はもっと残虐で、殺しも厭わぬ、全てを破壊する存在になっていた筈だったのだから。
けれどもその出来損ないの複製にも功績はある。それは自分が大怪獣の見えないところで出来損ないの複製を殺すことで、その怒りから爆発的な力を発揮したということだ。それでも美月には勝てなかったが、あれだけの感情による力の爆発があるということは、今後いくらでも強くなるということだ。
「フゥーッ、フゥーッ…フゥーッ…」
(コイツの息も傷もまぁまぁ落ち着いて来たな。よし、そろそろ行くとするか)
そして大怪獣の息が少しずつ落ち着きつつあるのを見て複製はそろそろ行くかと腰を持ち上げる。
「おい、お前。もしかしたらあそこに見えるあの街に奴らがいるかもしれないぞ」
「…ッ!!」
「私を連れて行ってくれ。一緒に探そう。お前の大切なお父さんを殺した者を」
「……ッ!! ガルルルルッッ!!!」
複製がそう言うと大怪獣は気合十分、やる気満々だと言わんばかりに牙を剥き出しながら目の前の街を睨みつけた。
あそこにいる、僕の、お父さんの仇が。なら今度はきっと勝つッ、絶対に負けはしない。僕が、必ずこの手で、お父さんを殺した奴を殺す。
大怪獣はそれだけを思いながらまともに動けない複製を背中に乗せると、その街目掛けて飛び去った。
当然、その街に大怪獣が仇と思い込んでいる者達はいない。だが複製にとってはそんなことなどどうでもよく、自分の世界征服という目的さえ果たせばよいのだ。ならば最初にするのは、この世界の人々など自身の存在を、そして自身の一言で軽く捻り潰せる大怪獣がいるということを知らしめることだ。
ギュンッ!!!
ドズゥウンッッ!!!
「グァルルルルッ!! 何処だぁッ!! 何処だァ…!! 何ォォォオオオ処ォォォオオオダァアアアアアッッッ!!! グルゥオオオオアオオオオオオオ!!!」
そしてついに人の街の中に、巨大なビルがひしめく道のど真ん中に降り立った大怪獣は大声でそう叫ぶ。僕の敵は何処だ、一対何処にいるんだ、隠れていないで出て来いと、ウォンウォン叫びながら進撃を続ける。道路に引かれたコンクリートを割り、街中に生えた木々を薙ぎ倒し、ガードレールや標識を歪ませながら大怪獣は尚止まらない。
その様子を見て最初こそ映画の撮影か何かかと思っていた街の人々も、次第に自分らの常識の範疇を超えた存在が暴れ狂っていることを知り、大急ぎでその場から逃げ出した。ある者は転びながらも走って逃げ、ある者は車に飛び乗って道を逆走しながら大怪獣から退避し、ある者は建物の影や地下に隠れて大怪獣の目から回避しようと試みていた。
しかし大怪獣にとって街の人々などどうでもよく、ひたすら自分の敵のみを探しながら吠えていた。自分の仇はここにいると、お父さんの友達は言った。ならば必ず見つけ出して殺してやる。僕の大切なお父さんを殺した奴は絶対に許さない、と。その激しい怒りのみを燃やして。
だが人々も襲わず、声を荒らげながら道の真ん中を進撃するだけの大怪獣など自身の望みではない者がいる。
「おいっ! お前ッ! 何をしているんだっ!! 街を破壊するんだッ!! 奴を探したいんだろッ!! ほらっ! あの建物の中にいるかもしれないぞッ!!」
ひたすら声を荒らげるだけの大怪獣を前に複製はもっと街や人を破壊して、人々に恐怖を植え付けてくれないと困ると大怪獣に命じた。これじゃあ人々の敵とはなれど、殺すことが出来るという恐怖は生まれない。故にすぐにアイツは大したことないんじゃあないかと思われ、人々の恐怖心が緩んでしまう。
それではいけないのだ、大怪獣は人を殺すことなど厭わない存在であることを他の奴らに思わせてくれないと、自身のように恐怖による支配が出来ない。
しかし怒りが頂点間近にある大怪獣の耳にはもう複製の声なんか届かず、
ドグァッシャンッッ!!!
「何処だァ!!! 出て来いィッッ!!! 出て来い出て来い出て来いッッ!!! 出て来いィィイイッッ!!!」
バグォッッ!!! ガシャアンッッ!!!
「クソッ!! クソッッ!!! クソクソクソォオッッ!!! クソガァアアッッ!!!」
コンクリートをかち割る程の地団駄を踏みながら、尚進撃を続けるばかりであった。
自分の言うことなんか聞かない、怒りだけを燃やすばかりで他には何もしない、恐怖の大怪獣となる筈がただの道を壊す程度。
何もかも、自身の思いとはかけ離れている。全くと思い通りにならない。気がつけば周りには叫ぶだけで自分らには何も危害を加えない大怪獣の姿を見て少しずつ恐怖を薄れさせてゆく人間が、恐る恐る自身らのことを影から見始めている。
こんなの、自身の思い描いた世界征服じゃない。どいつもコイツも出来損ないだから、そのせいで自分の思い通りにならない。
「貴様ッ!! いい加減言うことを聞けッッ!!」
ついに思い通りに行かないことに耐えきれなくなった複製は、そう怒りながら大怪獣の背中に伸びる髪の毛をグイッと乱暴に引っ張った。
「グルァアアッッ!!」
ドサッ!!
「あがっ!」
しかし大怪獣は顔の周りを飛ぶ鬱陶しいハエを振り払うかの如く、グルンッと体を振るってその複製を自身の背中から乱暴に振り落とす。片手となり、片耳も片目も失い、両膝も割られていた複製はその勢いに耐えきれず、無様に地面に落ち、ゴロゴロ地面を転がった。
「こ…この出来損ないっ…!! どいつもコイツもぉっ!! 何で私の思い通りにならないんだぁっ!!」
サッ
その時、とうとう思い通りにならないという怒りが頂点に達した複製は、その感情に身を任せながら懐から隠し持っていた拳銃を取り出すと、
「私の思い通りにならない出来損ないは死ねっ!!」
ドンッ!
残り4発の内の1発を、その大怪獣目掛けて引き金を引き、放った。
ガギュウンッ
しかし、大怪獣の強固な体はたった1発の銃弾程度では傷1つ付かず、
ガスッ
跳弾によって軌道が変わり、大怪獣によって薙ぎ倒された1本の木に命中する。
だが大怪獣自身にとってはせいぜい虫1匹が体に止まった程度のことなのに、何故か大怪獣はその進撃の脚を止めていた。
「……」
その4つの目の内の2つは目の前の複製のことを、そしてもう2つ目は自身の背後に飛んでいった銃弾の行方を見ながら。
瞬間、大怪獣の頭の中にはグルリグルリとあの時のことが思い出される。
大好きなお父さんが死んだ、あの時のことを。
ちょうど今みたく、ドンッという音が鳴ったことを。
ちょうどあの木と同じような穴が、お父さんの頭にも空いていたことを。
「……ッ!!」
次の瞬間、大怪獣の4つ目は完全に目の前の複製に注がれる。点と点がみるみる結ばれ、1つの線となって結論へと導く。
あの時、この複製はお父さんの側にいた。お父さんを殺したと思っていた奴は、殺していないと言っていた。
そして、お父さんが死んだ時と全く同じ音と穴を、目の前の者は作り出した……。
つまり、つまり、
「お…お前……が……貴様が……僕の…ッッ!!」
大切なお父さんを殺したのは、
「僕の…ッ!! お父さんを…ッ!! 殺した…のはッッ……!!」
目の前の、コイツだ。
ブツッ……!!!
「貴様ァ…ッッ!!!」
大怪獣の全身から放たれる怒気と殺気。それは先程暴れ狂っていた時の比ではなく、殺すべき敵を目の前に捉えたことで完全に頂点に達する。
その大怪獣を前に、とうとう自分のしてしまったことと、嘘をついていたのがバレたことを察した複製は、
「ヒッ…こ、このっ!!」
ドンッ! ドンッ! ドンッ!
震える手で残り3発となった拳銃の引き金を引いた。けれどもいくら撃っても大怪獣の強固な体を貫くことは出来ず、全てあらぬ方向に飛んで行ったり、大怪獣の足元にポトッと無惨に落ちたりする。それにもしも銃弾がその体を貫いたとしても、怒り狂う大怪獣はその脚を決して止めないだろう。
カチッ カチッ カチッ
「ハッ…ヒィッ…!!」
すぐに銃弾も撃ち尽くし、逃げようにも脚がまともに動かせない複製は懸命に片腕で大怪獣から逃げようと体をズルズル引きずった。
だがその動きはあまりにもトロく、大怪獣はズンッ! と地面に脚が喰いこむ程踏みしめながら、すぐさまその距離を詰めてしまう。
「だっ! 誰かっ!! 頼むっ!! 助けてくれっ!! わ、私はこんなところで死ぬわけにはっ!!」
グァシッ!!!
「ヒィッ!! い、嫌だっ!! やめてくれっ!! お願いだっ!! 許してくれぇっ!! わ、私が悪かったっ!! 命だけは助けてくれっ!!」
ギリギリギリ…
「うごげ…ぐ…グッ…」
大怪獣は傷ついた体でもがく複製に向かって腕を伸ばし、ついに本当に倒すべき敵を掴んだ。その握力だけでも骨をへし折る程であるのに、美月の雷によって未だに痛覚が完全に戻っていない複製の意識はまだ残っている。
そんな複製の目の前にあるのは、
グファッ…
「ヒィッ! だ、頼むっ!! 許してくれぇっ!!」
大きく開かれた大怪獣の口であった。今から自分はあの分厚き肉という闇が広がるところへ行くのかと考えただけで複製は震えが止まらなくなる。
しかし暴れたところで大怪獣の腕の中から逃げ出すことは出来ず、ついに口の中の肉や牙に複製の体が触れ始めた。
瞬間、
ガブァッ!!!!
勢いよく大怪獣の大口が閉じた。手足は未だはみ出たままだが、複製の体のほとんどはその大怪獣の口の中にある。
と、同時に美月の雷による麻痺が解け、複製の体に痛覚が戻った。
だが今更戻ったところで意味などなく、むしろ多大なる苦痛しか与えない。
「あああっ!! あっ!! うぁあああっ!」
ボギッ!!! グチュッ!!! メギッ!!!
大怪獣の口の中には複製の悶え苦しむ複製の悲鳴が響き渡るが、怒り任せの咀嚼によって骨や肉を粉砕する音はその悲鳴さえも打ち消す勢いだ。
肉や骨が引き裂かれ、そこから吹き出す血が大怪獣自身はもちろん、割れた道路や木々に降り注ぐが大怪獣はそんなこと全く気にもせず肉を引き裂き、
ゴクンッ…
悲鳴ごと複製という人の体をまるまる1つ呑み込んでしまった。
「グフゥァアア……」
何という皮肉か、その光景は見る者達に大怪獣は人など躊躇なく喰い殺すというその複製が望んだ恐怖を、複製自身が喰われることで与えていた。
そして大怪獣は口の周りにべったりとこびり付いた血を舐め取ると、
「グルゥウオオオオオオオンッ……ッッ!!!!」
天に向かって力強く、しかし何処か寂しそうに咆哮を上げた。空の陽を受ける4つの瞳に小さな光を輝かせながら。
次回の投稿もお楽しみに
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