2人の処刑執行人と1人の怪物
お待たせしました
そうして知り合った俺らは、死後また地獄で再会した。俺は生前の4分の3くらい色々やらかした罪から閻魔様によって地獄行きにされたのだ。一応残りの4分の1でちょこっと改心したのが幸いしたのか、めちゃくちゃ重い罪では無いと告げられた。しかしそん時の俺はちょっと強くなり過ぎていた。地獄に俺を裁ける拷問や器具が無いほどまでに。
だから俺は地獄の処刑執行人として100年間、罪人達を捌きながら裁き続ける罪を負った。100年間休みもほとんどないままぶっ通しで罪人達を裁き続け、一切の慈悲も与えてはならない。大概の人間なら1日も持たないらしいのだが、果たして今の俺ならどうなるのだろうか。
その任務を託された初日に俺らはばったり出会ったのだ。
「あっ……おまっ! オリジナルっ!!」
「んっ…ああっ! ロボじゃんッ!」
「まだ別れてから10年も経ってねぇぞ、おいっ! 次会うのは50年後くらいだろうなって思ってたのによぉ!!」
「いやぁ…それに至っては本当に申し訳ない。まさかこんな早死にするとは思っても見なかった」
俺は頭をかきながらそう言うと、ロボは声を上げて大笑いした。俺が死んだことがそんなに可笑しいのだろうか。
「おいおい、ちょっと笑い過ぎじゃね?」
「いやだってよぉ、お前の生前の噂はチマチマ地獄に届いてたんだぜ。数十年後、地獄に堕ちる候補の1人だって。そしたらさ、出会って1年も経たないのに死んでやがんの! 笑うしかねぇだろこんなの!」
「…俺、地獄でそんな言われようだったん?」
俺がロボにそう尋ねると、
「そりゃもう、地獄に来られたら執行人がいねぇから困るってくらい」
と答えた。俺って地獄でも厄介者扱いなのか、と少し肩を落としながら俺は処刑人の服装に着替えた。渡された服は生前の罪故か、薄汚れた単色のシャツ1枚にボロボロのズボンだった。褒めるところを無理に作れば、少し動きやすいのと以外と臭いがしないことくらいだろうか。服装に強いこだわりとか別に持っていない俺でも、この質素過ぎる服はどうかと思った。
しかし、その服装をしているのは俺だけでは無かった。
「おーおー、以外と似合ってんじゃね?」
「お前もかよ…」
更衣室を出るなりロボが俺を出迎えてくれたのだが、ロボの服装も俺と全く同じだったのだ。まさか地獄の処刑執行人って全員その服装なのかって一瞬思ったが、俺の横を通り過ぎて行った執行人達は全員黒ずくめにフード付きのいかにも処刑人という感じの服装だった。俺があんなのを着れない理由は分かるが、なんでロボはあれを着ないのか。
「なぁ、なんでお前はアレ着ないんだ?」
気になった俺は処刑執行人達の服を指しながらロボに尋ねた。するとロボは、何わけ分かんないこと聞いてんだって言わんばかりの顔で答えた。
「あ? だって俺機械だぜ? あんなの着てたら熱がこもってオーバーヒートするだろ。ただでさえ地獄は熱いんだから、熱循環とそれが逃げる仕組みは大事だろ、常識的に考えて」
なるほど、ロボの体内には熱がこもらないようにしなければならないから、それでこんな軽装過ぎる格好をしているわけか。にしても処刑執行人の服装がシャツ1枚とはなんとも貫禄に欠ける。
ま、全員力でねじ伏せればいいって話なんだけど。
ゴオオオオオオオッ!!
「おおっ、めっちゃ熱いね。もう汗出て来た」
「まずは灼熱地獄からだ。全員炎の中で焼いてくぞ〜」
俺の処刑執行人の仕事は、『灼熱地獄』から始まった。そこら中から炎が泉のごとく吹き出し、息をすりゃ喉の奥まで焼かれそうだ。地獄に堕ちた罪人達は炎の泉の中でもがき苦しみ、ひたすら許しを請うている。
もしも彼らが何の罪無しにこの刑を受けているとしたら、俺は全力で助けなきゃいけないのだが、もちろんそんなことは無い。俺の能力もそこんとこはちゃんと理解してくれている。
「なぁ、お前の『究極生命体』の力ってさ、こんなことして大丈夫なん? ちょっと調べたんだけどよ、その能力の使用条件って結構厳しいんだろ?」
「ああ、それなら別に問題ねぇよ。もしダメだったら身体ん中でその血が暴れて強制的に動けなくなるらしいし」
「ふーん、意外としっかりしてんだなぁ」
ロボが隣でそう聞くもんだから、俺はちゃんと説明する。
究極生命体の力、それは俺が生前手に入れた最高最強の力で、『全生物の能力を受け継ぎ、かつそれを上回る能力』だ。とは言えど、本来その能力を手にしていいのは神の肉体を持つ者のみで、俺みたいなやつに扱えるものでは無かった。
でもその時の俺は新たな力を手に入れるのに手段は選ばなかったから、試行錯誤や修行、そして一部分だけ神の肉体を持つことで、見事その力の一端を使えるようになったのだ。
しかしこの能力には制限が非常に多く、破ったら二度と使用不可能になり肉体も精神ごと自我崩壊するらしい。
それは、『万物を愛し、愛され、救いの手を差し伸べるべし』、『この力を持って他を傷つけ、滅ぼすこと無かれ』、『万物と交わり、種を絶つことを阻むべし』などなど。とにかくこの能力を持って他人を傷つけちゃいけないってわけだ。当時、これを知った俺は激しく後悔していた。誰かを守る力だなんて、そんなのが欲しかったわけじゃないから。
「あーあ、厄介な能力手に入れちゃったもんだぜ。守るものなんて俺にはないっつーっの」
「はっ、まぁ、もしかしたら今後そーいうのが出来るかもよ? 結婚とかしちゃったりしてさ」
「俺、女に興味ねーし。つか好きでもない女となんか結婚なんて死んでも嫌だね」
「いや、俺ら死んでるだろすでに」
ロボは笑いながらそう言って人を次々に裁いていく。俺も同じようにやっていくが、抵抗が弱々しいせいかなんとなく味気なかった。もっとこう、絶大な力を持った受刑者が、手に負えないくらい全力で抵抗して来るのを期待していたのに。こういう考えに至ってしまうのも生前戦闘狂だったよくない癖だってのは分かってるんだけど。
なんて初っ端から飽き飽きしだした時のことだった。
バギィンッ!!
「ギャアアアアッ!!」
近くで金属が千切れるような音がしたかと思うと、それを搔き消すかのごとく大きな悲鳴が辺りに響いた。
「なんだ?」
「たまにいるんだよ、ああやってギリギリまで抵抗するやつ。おら、ボサッとしてないで止めに行くぞ」
ぼけっとしている俺の手を引っ張りながらロボは現場に急行した。こういうのは案外日常茶飯事だったりするのだろうか、だとしたらちょっとだけありがたいかも。なんて考えていると、もう現場にたどり着いてしまった。
現場は受刑者も処刑執行人も全員倒れており、地面からはもうもう砂煙が立ち込めている。嵐でも過ぎ去ったかのような惨状と化したその場の真ん中で元凶らしきやつは叫びまくっていた。
「あのクソ野郎を今すぐ連れて来いっ!! 今度こそぶっ殺してやるっ!!」
嫌に聞き覚えのある声だ。力に溺れ、追い求めていたかつての俺そのものが、そこにいた。
「殺すっ!! ぶっ殺すっ!! さっさと出て来やがれぇっ!!」
両手足を鎖で拘束されているというのにまるで効果無く、繋がれたら2本の腕をブンブンぶん回して次々に処刑執行人を殴り飛ばしている。これ以上ほったからしてたら被害は広がるばかりだろう。
ここは俺が出るしかない。
俺はロボの肩をポンっと叩くと、
「アイツは俺に任せてくれ」
と言った。ロボは一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐになるほどと納得してくれた。話さないでも言いたいことが伝わってくれるのはありがたい。
「また会ったな」
俺はソイツの前に立ってそう言った。ソイツはぐるんとこちらに振り向くと、憎悪と殺気がぐらぐら煮立つ目つきで睨んだ。そして力任せに鎖を引き千切ると、自由になった手足を動かしながら戦闘態勢を取った。
「はぁ〜、殺してやる、殺してやるぞ」
キュインキュインッ…キィイイイイイイイイッ!!
ソイツの瞳が黒から金色に輝き出す。それに伴って殺気も憎しみも膨れ上がり、近くにいた処刑執行人も罪人もビクビクと怯えだした。
その中で唯一怯えていなかったのは俺とロボくらいだろうか。
「ふぅ、やれやれだな」
俺は1回深く呼吸を置くと、自分の体に静かに力を入れる。
シュゥウウウウウウ…キィイイイイイイイイッ!!
俺の瞳が金色に変わっていく。それに伴って俺の戦闘意欲が掻き立てられ、気性が荒くなっていくのが分かる。すぐにでも誰かを殴りたくなって来る。
1歩1歩俺はソイツに近づき、自分と相手との間合いを測る。ソイツもこちらを睨みながら殴りかかる機会を伺っている。
そして互いの射程距離内に互いが入った瞬間、戦いの火蓋が切って落とされた。
今、俺の目の前にいるのは、かつて俺を殺した奴だ。
それでいて、俺を殺すためだけに作られた複製品でもある。
次回の投稿もお楽しみに




