対穏雅抹殺用特化型装置搭載型対象殲滅兵器、制御及力量実験用特殊仕様、零号機
おまたせしました
俺はロボに昨日美奈に言ったのと全く同じことを喋った。ロボは時折相槌や小さな笑みを浮かべたものの、俺の話を遮ることはしなかった。そして全てを話し終えると、ロボはいくつか俺に質問をして来た。
「それで、その律斗って子は怪物になっちゃったのか?」
「そうだな。普段はただの人間なんだけど、いつまたあんなことが起きるか分からないし」
「ふーん、聞く感じそいつは能力を制御出来なさそうだしなぁ。お前が付きっ切りで能力の指導でもしてやったらどうだ? 罪悪感じてるってんならさ」
ロボはそう言うけれど、俺は律斗にその能力を打ち明けたくはなかった。もし『呪いを飲み込む能力』があるなんて言ったら、その事実がどれほど彼に重圧を与えるか。
それに俺が危惧しているのはもう1つある。もしも彼がそんな能力を持っていると広まったら、それを欲しがる者達がどれほどいるか。『呪いを飲み込む能力』だなんて、上級な死神道具でも中々無いというのに。それを使えたらどんな呪いや悪霊も処理出来るだろう。しかしそれは物として、だ。
つまり彼は都合のいい物として狙われる可能性が大いにある。そしたらこちら側へ来るだけでは到底済まされないだろう。非人道的に扱われ、何度も何度も呪いに駆り出されてはあの能力を酷使され続ける羽目になるかもしれない。しかもこれは死神だったらこう使うってだけで、もしこれがもっと酷い者の手に渡ったら…
「色々考えてんだなぁ、究極生命体様は。で? お前はどうしたいん?」
「俺は…そりゃ守ってやりたいさ、彼をね。でももしも彼があの能力を持ってるって世間に知られたら、それこそ手の打ち用が無い。彼を守り切れないかもしれない」
「珍しく弱気だな。まぁ、俺らだって無敵じゃ無いし、守れなかった結果がどうなるか痛いほど知ってる、そうだろ?」
俺は黙って頷いた。
『守れなかった』、それはまさに呪いよりもタチ悪く付きまとう呪いで、なんの被害も出ないのに粘っこく胸の奥に渦巻き続ける。俺もロボも、未だにその呪いに縛られながら暮らしてるのだ。
「見守る…か。結局それしか無いのか」
「これ以上巻き込みたく無いってんなら、そうするしか無いだろう。お前も俺も、多分そいつもトラブルに巻き込まれやすいだろうし。だったらそんなやつらで集まって大きなトラブルを呼ぶより、バラバラになって分散させた方がいいに決まってる」
「そうだよな…ありがとう、ちょっとは楽になったよ」
「はんっ、機械に慰められちゃ世も末だな。たまにはこっちにも顔出せよ。アイツもお前も居なくなってから、今俺1人で地獄守ってんだからさ」
俺は分かった、とだけ呟くとロボの家を後にした。アイツと話して少しは心が晴れたのだろうか、それともやることがはっきりしたのか、不思議と胸に食い込んでいた釘は無くなっていたような気がした。
くるりと振り返り、俺はロボの家を見つめた。アイツに初めて会ってから約百年の時が、俺を殺すために生まれて来た奴とこうして話せるものにしてくれた。
アイツに初めて会ったのは、俺がまだ生きてた時のことだ。
――
俺は全国に名の知れた大悪党で、外を歩けば常に敵がいた。こちとらまだ15だってのになんでこんなに敵がいるのか、心当たりがあり過ぎて逆に困っていた日々だった。元々俺には千人くらいの部下がいて、『王牙』と名乗れば大体の人間は俺の顔を思い出すくらいの悪名を轟かしていた。
しかしその栄光も長くは続かず、ある日たった1人を除いて部下全員が俺に反旗を翻したのだ。俺は最後まで残っていた1人の制止を振り切り、千人の裏切者を相手にした。
俺は全員をぶちのめしたけど、こっちもかなりの重傷を負ってしまった。しかも満身創痍の中、油断して頭を思いっきり殴られたもんだから、記憶もほぼ全部失った状態になってしまった。それから俺は失った記憶を少しずつ取り戻しつつ、俺への報復を企むやつらから身を守るために力を求め続けたのだった。
そんなある日のこと、俺の目の前に俺そっくりの人形が現れやがった。俺は自分の能力にまだ上があると、それを見つけるために林の中で修行していた。
いったいどこから奪って来たのかセンスのかけらも無い服を着たソイツはこちらを睨んでいる。
「なんだぁ、テメェ」
俺はバキバキと指を鳴らしながらソイツに近づく。わざわざ俺の顔を模してるようなやつだ。きっとロクでも無いやつが俺を倒すため、こんなもの作って仕向けたに違いない。
「お前が王牙か。本名、松田 穏雅。年齢、15歳。能力名、『嵐の如く拳で破壊する能力』」
ソイツはカタコトと機械っぽく喋った。俺と全く同じ声なんだから、せめて話し方くらい人に寄せやがれ、って思いながら俺はグッと拳を握りしめる。ここまで自分を調べているようなやつだ、少なくとも味方では無いだろう。
「そんなに調べてんのか。お前を作ったやつは誰だ? プライバシーの侵害で訴えるぞ?」
俺はニヤニヤ笑いながら冗談混じりにそう言った。俺に立ち向かうやつのほとんどは、俺のことを研究しまくってる。プライバシーの権利なんてあったもんじゃない。実際、俺の家族はネットに色々晒されてるみたいだし。知ったこっちゃないけど。
なんて挑発的な態度を取っている俺に対し、ソイツはジィーッとこちらを睨んだまま動かない。俺はチラリチラリとソイツを見ていた、あることに気づいた。瞳の奥がどことなくカメラのレンズっぽいことに。
こいつは機械だ。
俺にとことん寄せて作った機械の人形。先ほどからこちらの様子を伺ってるのは、機械として情報を更新しているからなのか。なんて思っていると、
「俺を作ったのは、あそこの研究所にいるゴミ野郎共だ。全員豚箱にぶち込んで生きて来たこと後悔させるから、手伝いやがれオリジナル」
急に饒舌になってそう話した。あまりにも急に話すもんだから、俺は何も言えずその場に立ち尽くすしかなかった。話方、口調、アクセント、態度、その全てが俺そのものだった。
「えっ…おま、なんなん?」
「あ? なんなんって俺がなんなのかってことか? 俺はお前を殺すために作られた兵器だよ」
「はっ、はぁ!? 余計分かんねぇよ! なんで俺を殺すために作られたやつが、俺を殺さないで作り手の親に反乱してんだよ!?」
まるでわけが分からなかった。なんで俺を殺すための兵器が俺を殺さず、作り手を豚箱にぶち込もうとしているのか。そもそも話がもろもろ急過ぎて頭が追いついていない。俺はズンズン進もうとするソイツの腕を掴んで引き止めると、いったい何でそんなことするか尋ねた。
するとソイツは強く暗い声で呟くように答えた。
「あのクソ共が俺を捨てたからだ。起動実験を終えるなり、心の芽生えた殺戮兵器はいらないっつったからだ。それにやつらは俺以外にも兵器を作ってる。止めなかったら…どうなると思う?」
「そんな正義のヒーローみたいなことすんのか?」
「そうだぜ、正義のヒーローみたいに暴力使って全員ぶちのめす。あいつらの顔全部殴ってやらなきゃ気がすまねぇな」
ソイツの言葉はまさに悪名を轟かしていた過去の俺そのものだった。その無鉄砲さ、親への愛情のなさ、そして暴力で全て解決しようとする荒々しさ。
「へぇ、随分乱暴なヒーローだな」
「で、やるのか?」
「ああ、暴力でってのが気に入った」
俺がソイツを気に入らない理由が無かった。暴力を振るう正義のヒーロー、なかなかいいじゃないか。俺はソイツの手を取り、共同戦線を結んだ。
「そんで名前は? 俺はお前をなんて呼べばいい?」
「あ? ああ、俺の名前か。クソ共は俺を不良品って言うが、違うぞ。『対穏雅抹殺用特化型装置搭載型対象殲滅兵器、制御及力量実験用特殊仕様、零号機』だ。かっこいいだろ?」
「……」
長い。
こんな名前をいちいち呼んでたら戦闘に集中出来ない。
「もっと別に無いのか? 長過ぎんだろ」
「えーっ、じゃあもう1個の方にすっか。『Operation Hopeless the Guardian Act 』、これなら短くていいだろ?」
「……」
なんで言語が変わるんだ。しかもまだ長いし。
「めんどくさいから『ロボ』でいいや。よし、行くぞロボ」
「なんだとぉ!?」
これが、俺とロボの最初の出会いだった。
次回の投稿もお楽しみに




