エピローグ
お待たせしました
1人の動画投稿者が引き起こした異変、それは『コトリバコ』という開けてはならぬ箱を開けてしまったことによる起きた事件だ。それがきっかけで多くの人間達の命が大量に失いかねない事体にまで陥り、小規模ながらいくつか事故も起きてしまった。不幸中の幸いか、はたまたその時は箱が完全に開けられなかったせいか、負傷者は出たもののどれも大事には至らなかった。
ただ1人を除いては。
「光野…お前の動画、何だかんだ伸びてるんだぜ。お前への応援コメントとか、面白いってコメントだってたくさん来てるんだ」
満筑義がそう言いながら、光野のパソコンの画面を見せる。そこには投稿者である光野への暖かいコメントがあった。満筑義は100以上あるコメントを、彼の顔の近くでスライドしてみせる。
「お前のプレイスタイルが上手いから、参考にささてもらいましたってコメントもあるぞ。早く起きて見てみなよ」
負けじと武陽もパソコンの中から光野を褒めるコメントを見せる。
しかし、光野は目を開かず、ジッと眠っているだけだった。
あの後、俺は病院のベットの上で目を覚ました。暗闇の中ずっと俺の名を呼ぶ声が聞こえたから、そっちの方に手を伸ばす。するとパッと目が覚めて満筑義と武陽が涙目になって俺の体を抱きしめた。俺はわけも分からないまま、黙ってその抱擁を受け入れる。2人が落ち着いてから、いったい何が起きたのかを尋ねると、
「お前ら2人が病院にいるって言われたから、俺らすっ飛んで来たんだ」
「そうだぜ、なんたって美月さんから直々に連絡が来たんだから」
「…そうか。ごめんね、勝手なことして、心配かけて……」
「いやいや、無事で何よりだ」
俺は寝床についたまま2人に頭を下げる。
すると視線の端に見慣れた友の顔がある。しかしその友の心からは何も読み取れない。
死んでいるからではない。眠っているからなのだ。心の寝室に閉じこもって、じっと扉を閉ざしている。言い換えれば、光野は意識を失っているのだ。
「光野は……目を覚まさないの?」
「…ああ、医者が言うには目立った外傷は無いから、後は自宅で頼むとのことだ。まぁ、大したことないってさ」
満筑義の言葉に俺は今ひとつ納得がいかなかった。あんなに恐ろしいことが起きたのに外傷のかけらも無いなんて、そんなことがあるものかと理解出来なかった。
そう思った矢先、部屋の外にただならない気配を感じた。俺は2人に会釈してからベットから下りると、その気配を出す者の元へと向かった。
「やぁ」
「ふん、手間とらせやがって」
「おーがさん…それに、美月さんまで…っ!」
そこには壁にもたれかかる死神と、近くのベンチに座る悪魔がいた。
2人の心を読まずとも分かった。
きっと2人が俺らを助けてくれたのだ。俺が巨大な呪いに意識を失ってしまった時に、2人がなんとかしてくれたに違いない。
「さてと、私は帰るぞ。もう1人の方ももうすぐ目覚めるだろ」
「あっ、ありがとうございますっ!! 助けていただいてっ!!」
「ケッ、悪魔にお礼なんかするもんじゃないよ。それにお礼なら、刻月のやつに言うんだな」
美月さんはそう言って病院の廊下をスタスタと行ってしまった。それに続くようにおーがさんも、
「それじゃ、俺も行くか。もう二度とあんな危険なことするんじゃないぞ。そんでもうちょい俺らを信頼してくれ。あんなことが起きないためにこっちも色々やってんだから」
「ごめんなさい…」
「分かればいいんだ、君は俺らと違う。あくまでただの人間なんだからな」
そう言い残しておーがさんも行ってしまった。やはり俺のあの行動は死神達の足を引っ張ることとなってしまったようだ。俺はおーがさんを始めとする今回の騒動を解決しようと動いてくれていた死神ら全員に謝罪の念を送りながら、病室へと戻った。
――
俺らはひたすら光野の名を呼び続けた。武陽が疲れれば俺が、俺が疲れれば武陽が。とにかくやれるばかりの手を尽くした。
今まで意識不明だった律斗が目を覚ましたのだからきっと光野も、と希望を持って何度も何度も声をかけた。
しかし俺らの努力虚しく、病院を去るまで光野は目を覚まさなかった。病院側は意識が戻ったら連絡を、としか言わなかった。実際、これといった外傷も脳に何か傷が出来たとかはなく、眠っている状態に近いとのことらしい。
だから俺は何度も何度も光野の名を呼んだ。寝る間も惜しみ、意識が途切れるまでずっと呼び続けた。呼びかければきっと目覚めると信じて。
そんな中、俺らは彼のチャンネルについてふと思った。今後主のいないチャンネルをどうしようかと3人で話し合った。しかしその話し合いは5分も経たず終わった。3人とも考えが同じだったからだ。
俺は料理動画を投稿し続けると決めた。さらに律斗ゲーム実況の方にも手を出してみた。やってみると案外面白く、会話しながらやるというのは楽しかった。ただ話しながらゲームをするとなるとそれ相応のスキルが必要になるから、そうすぐには慣れなかった。それでも俺は料理動画とゲームのネタを考えつつ、その成果を眠る彼に語るのだった。
「なぁ、聞いてくれよ。律斗のやつがさ、ゲーム中わんわん泣いてついにコントローラ投げちゃったんだよ。いやぁ、そん時の律斗をお前にも見せてやりたかったよ」
「……」
それでも光野は目覚めない。死んだように眠るだけだった。そんな無力な自分にため息を吐きながら、俺は周りを確認する。どうやら2人は側にいない。
「俺さ…お前に会えてよかったって思ってんだ。俺と違って、お前はどんどん先行ってバカ真面目にグイグイ俺らを引っ張ってくれたよな。羨ましいよ、ほんとに。こう言っちゃなんだけどさ、お前みたいなクソ真面目になってみたかったよ」
俺は一言そう言って部屋を出た。こんなの誰かに聞かれたら恥ずかしいから。
さて、今夜も光野の名を呼び続けよう。憧れの人とこんなところで別れたくは無いから。
――
時は少し遡り、光野と律斗が病院に運ばれたとの連絡が俺と満筑義に届いた時のことだった。俺らはその頃、買い物に行ったはずの律斗がいつまで経っても帰って来ないから、あと少ししたら2人で探しに行こうと話していた。
そんな時、なんと美月さんから電話がかかってきたのだ。何故、美月さんの方から連絡をよこしたのかと聞く間も無く、2人が意識不明だからさっさと来いとの一方的なものだった。俺らは光野が見つかったのだと歓喜と、意識不明という不安が渦巻く中、俺らは2人に関連のありそうなものを持って病院に駆け付くのだった。
病院にはベットに眠る2人の姿があった。真っ先に駆け寄る満筑義と反対に、俺は病室の外にいた悪魔の元に向かった。
「み、美月さん…約束の寿命ですけど……」
「あー、そのことか。別にいいからとっとと会って来い」
悪魔はそう言ってプイッとそっぽを向く。しかし俺は光野が戻って来たら、悪魔に自分の寿命を売り渡す気でいたのだ。実際、前に情報を提供した時には、すでに動いていたかのような話ぶりだったのに。
「えっ、で、でも……」
「はんっ、私はなんもしてねーよ。ま、そんなに寿命支払いたきゃ、払ってくれてもいいけど?」
「いっ、いえっ! ありがとうございました!」
でも悪魔が支払わなくてもいいと言うのなら、それに越したことはない。俺はペコペコ頭を下げながら病室へと入っていく。その時の俺は何故お代を要求しなかったのか等は考えず、ただ友達が帰って来たことを喜ぶだけだった。
それから俺らは未だに意識を取り戻さない光野を背負って家に帰った。彼が意識を取り戻すまでどうするか、彼のチャンネルはどうしようかなど色々考えていた。
しかし俺らの考えは案外すんなりと決まった。
「俺は今やってるホラー実況を進めるわ。このまま未完結で終わらせたくないし」
律斗はそう言って勇気を奮い立たせた。実況当初はあんなに嫌だ嫌だと言っていたのに、まさか自分から言い出すようになるとは。
「んじゃ、俺も料理動画中心にやってくか。ちょくちょくそっちの実況も手伝うよ」
「おおっ! ありがたいっ」
満筑義はもみあげをふるってそう言った。彼の料理の腕は良い評価をされているし、料理は彼の代名詞とも呼べるものにまでなっていた。このまま活動を続けていれば、少なくともチャンネルが潰れることはないだろう。
しかし光野のチャンネルはゲーム実況がメインだ。律斗だけではその負担は大きいだろう。だから俺に出来るのは……
「はいどうも、皆さんはじめましてー!! 『ゆっくりガオウNO.4でーす!!」
新しいチャンネルのメンバーとして、ゲーム実況をすることだった。最初こそ会話とゲームを同時にやるなど難し過ぎて、編集時どれくらいカットしたかは50辺りから数えるのをやめた。それにとどまらず、もともとゲームの腕は中の下くらいだった俺だから、アンチコメもかなり来た。それを見るたびに何度心折れそうになったことか。
しかし、そんな日々が続く中、俺らに嬉し過ぎるニュースが飛び込んで来た。
「…….んぁあ、頭痛っ……」
「「「あああ!! 光野ぁっ!!?」」」
病院を去ってから3日ぐらい経った日のこと、寝床からよろよろとおぼつかない足取りで光野が起きて来たのだ。その姿は筋肉が見事に削がれていた。加えて食事も満足に出来ていなかったから、頰は痩せてぐぅぐぅと腹を鳴らしていた。
そんな光野に俺らは容赦なく飛びかかり、もみくちゃになりながら抱きしめた。互いの涙や鼻汁が混ざり合い、ジュルジュルに全員の肌を濡らした。そんな状態になっても俺らは抱きしめるのをやめなかった。
5分ほどそうしていたから回復したばかりの彼は、ぐったりとその場にうなだれてしまった。そんな彼に俺らはやり過ぎてしまったと、慌てて口の中にご飯やら水やらぶち込むのだった。
――
あの事件からしばらく経ち、俺のチャンネルはまぁ人気という感じに落ち着いた。あの時のことを3人から質問攻めにあったが、俺は何も答えられなかった。だって俺には覚えていないことを話すことなんて無理だから。ただもし話すことがあるとすれば、友達の声がずっと俺を呼んでいたくらいだった。
そんな眠気の残る俺の頭を叩き起こしたのは、いつの間にか武陽が新しいメンバーに加わっていたり、律斗と共にやっていたホラー実況も俺が戻る頃にはクライマックス寸前まで行っていた。さらに満筑義の料理動画もどんどんその再生数と当人の腕を伸ばしていたことだった。まさか満筑義の料理がチャンネルを支える第2の柱としてそり立つことになろうとは思ってもみなかった。だってこれ、ゲーム実況のチャンネルだし。
満筑義も律斗も武陽も、この3人には感謝しきれなかった。3人とも俺を支えてくれた。3人とも俺を笑顔にしてくれた。俺が寝ている間でも、見捨てずに尽くしてくれたのだ。
だから俺はこの3人のために頑張ろうと思えた。自分に出来ることを精一杯やろうと思った。かつての俺なら、こんなこと思わなかったかもしれない。
いや、違う。遠い遠いところに置いて来た俺の夢だ、いつしか忘れてしまった俺の夢だったじゃないか。何のために有名大学を目指した? 何故に俺は毎日頑張っていた?
自分の手で、誰かのためになることをしたかったからではなかったか。そのために、自分を信じて努力を重ねていたではないか。
かつて叶わなかった夢。もう一度果たそう。今度は自分を捨てぬよう、この体で新たな日々を過ごしながら。
『永木 光野』…能力無し。転生後、一頭身になる。
『丹羽 満筑義』…能力無し。体を捨てて第2の人生を歩む。
『此泉 律斗』…『心を読む能力』×、『魂に干渉し、それを収容出来る能力』◯、体を変え世界に溶け込む。
『刻月 武陽』…『時空間を操る能力』死後、能力と体の一部を糧にすることで蘇生。
次回、新章入ります。




