表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンバランス・ワールド  作者: がおー
第1章 〜転生〜
39/1000

罪人

おまたせしました

 霊感はある方だと思っていた。現に何度かそれっぽいものを見たことがあるし、家族で墓参りに行った時などはしょっちゅうだった。だがその多くはこちらが見えていることに気づいていないし、気づいたとしてもすぐにどっか行ってしまう。そもそも霊がはっきりと見え過ぎてしまうから、一般人と今ひとつ区別がつき辛いってのもある。


 だが今は違う。俺は自分の意思を持ってこの子に話しかけてしまった。なにせ、子供の霊に出会ったのは初めてだったし、加えて何の外傷も無いからてっきり普通の子だと思ってしまったのだ。


「……僕が見えるんだ」

「……うん」


 最早(うなず)く他無かった。霊と絡んだことは無いが、やはり呪われるのだろうか。だがこの子からは特に悪意だとかヤバそうな気配は読み取れない。なんならクラスの女子の嫉妬(しっと)とか陰口の方がよっぽど恐ろしい。


「そっか…今でも見えるんだ、僕」

「うん、ばっちり」


 俺は力無く(うなず)くと、その子はこちらを見透かすような目で、


「なんとなく気づいてるでしょ。僕が()()()()()()ってこと」


 と言った。その言い方に俺は少したじろぐが、特にこれといった怖さも無かったので、俺はポツリポツリと呟くように答える。


「……まぁ、うん。なんとなくだけど…」

「怖くないの?」

「だって特になんも感じないし…」


 その子の怖くない? というその問いに俺はそう答えた。実際本当になにも感じないし、普段から誰かを憎んだりバカにしてるクラスの奴らと比べたら全く怖くない。むしろ、その心の中は純粋そのもので真っ白に澄み切っているではないか。そんな子供をどうして怖がるのか、逆に聞きたくなって来る。


「ふ…ふふっ、そっかそっか」


 するとその子はふふふっと無邪気に笑いながら、そっかそっかと何かを確かめるように言う。


「えへへ、僕は『からみち』、よろしくね」

「あっ、うん。そうだね、俺は『此泉(こいずみ) 律斗(りつと)』こちらこそよろしく」

「ねぇねぇ、よかったら僕と一緒に遊ぼうよ」

「まぁ、俺でよかったら相手になるよ」


 それから俺らは日が暮れるまで遊んだ。高校生になって友達など全く作らなかった俺が、子供相手にこんなに遊べるなんて自分でも驚いた。



 だが1番驚いたのは、孤独を愛したはずの俺が誰かといるのを求め出したことだ。あんなに嫌われるのを恐れていたはずなのに、誰かの顔色を伺いながら生きて来たのに、今はこうして何も気にせず遊んでいる。嫌われるかもしれないなんて、針先ほども考えずに。


「はぁはぁ、こんなに遊んだのいつぶりだろ…」

「ふふっ、今日は楽しかったね」

「からみち君…すごいね、全然息切れてないじゃん…」


 ゼェゼェと肩を揺らしている俺に対し、からみち君は息を荒くするどころかこの猛暑の中汗ひとつ垂らしていなかった。


「じゃ、また遊んでね。いつでも待ってるからさ」

「うん、また今度」


 からみち君はそう言ってテトテトと神社の奥へと行ってしまった。そんなからみち君の背中を見送りつつ、俺は不思議な子だなぁと思う。いったいあの子は何者なのか、少なくとも人間ではないように感じた。


 けど、そんなことはどうでもいい。こんなに楽しい気分は久しぶりだ。そして友達を作ったのも。


 俺は体についた汚れをはたきつつ、落日の中を歩いた。



 それから俺らは毎日のように遊ぶようになった。こちらが遊ぶ約束をせずとも、神社に入れば待っていたかのようにからみち君はそこにいた。

 しかし俺はなんも不思議に思わない。だってからみち君からは人間っぽさが感じられないのだから。人間でないのならわざわざ約束なんてせずとも、こちらが会いに行けば会いに来てくれるのだ。なんて楽観的な発想をしてこの悩みに解決のラベルを貼っておく。そしてそのまま頭の隅の隅にあるタンスの中に永久追放だ。


「今日はなにをして遊ぼうか?」 

「近くに公園があるから、そこで遊ぼうよ」

「いいね、じゃあ早く行こうよ、律斗(りつと)君」


 その光景は傍目(はため)から見れば歳離れた兄弟に映るだろうか。はたまた親戚の面倒を見るお兄ちゃんのように見えるだろうか。というか、そもそもからみち君は俺以外の人に見えているのだろうか。前にからみち君は、僕が見えるのと尋ねて来たから、きっと俺みたいに見える人間とそうでないのがいるのだろう。

 だが俺はそんなの気にしない。せっかく出来た友達を、大切なこの時間を、失いたくはないから。



 そして夏休みもいよいよ残り3分の1くらいになった。からみち君と遊んでいる以外は、寝るか食事か課題を終えるかだったから、出された課題はついに終わりを迎えてしまった。

 おかげでからみち君と遊ぶ時間が増えたから、今日はその嬉しい知らせを片手に神社を訪れた。すると相変わらず変わらない姿でからみち君は俺を出迎えてくれる。


「今日はなにする? いつもみたいに公園で遊ぶ?」


 俺はいつも通りそう尋ねると、からみち君は不安そうな顔になる。いったいどうしたのかと顔を覗き込むと、からみち君はチラリとこちらを見て、



「ねぇ、律斗(りつと)君…僕さ、実は『神様』でした……って言ったら信じる?」



 と聞き返して来た。俺は一瞬だけ固まるが、思い返せばそもそも俺はからみち君のことを人とは見ていなかったではないか。俺が呼べば必ず来るし、どんなに遊んでも底なしの体力だし、神様だって言われても何ら不思議だとは思えない。


「うん…だって、とても人とは見えなかったし。それに神様だからってからみち君はからみち君だろう?」

「ありゃりゃ、意外と驚かないんだね。よかったぁ」


 そう俺が答えると、からみち君はほっと胸を撫で下ろす。どうやら自分自身が神だと言うことで、俺が恐れるのを恐れていたようだ。でも俺はからみち君を怖がったりしない。だって俺らは友達なんだから。


「じゃ、今日も遊ぼうね」


 俺の手をぐいぐい公園まで引っ張っていった。なんら変わらないいつもの日々、友達と遊ぶ夏休みだ。


 時は流れて日は暮れて、落日が公園の滑り台を真紅(しんく)に照らす。


「今日も楽しかったね」

「そうだね。俺も遊んでて楽しいよ」

「うん、僕も。こんなに友達と遊んだのはいつぶりだろうな」

「……?」


 一瞬何か引っかかるようなことを言ったような気がしたが、悪いことではなさそうなので特に気にも止めなかった。



 翌日、俺はいつもの通りあの神社へ向かう。友達と遊ぶ。なにも変わらない。今までも、これからも。



 はずだった。



 

「……あれ?」



 俺が来たのにいつまで経ってもからみち君が来ない。いつもなら俺が鳥居をくぐった辺りで俺を出迎えてくれるのに。


「からみち君〜? どこにいるの〜?」


 俺はからみち君の名を呼びながら神社の中をうろつくが、なんの返事も無ければ姿を見せることもない。


「あ、もしや…」


 まさかからみち君はかくれんぼをやっているのだろうか、ならばいろいろと探し回らなくては。俺はやれやれと思いつつ、からみち君の新パターンを楽しむのだった。



 その時、



「ここで何してる?」

「へっ?」



 背後から低い声でそう話しかけられる。俺の意識は完全にからみち君を探すことに向いていたから、背後からの存在に気づかなかった。


「いっ、いや友達とここで待ち合わせを…」

「今すぐ立ち去れ。ここは危険だ」

「……?」


 振り向くとそこにいたのはお坊さんのような人がいたが、その背丈は俺を見下せるほどでかかった。170cm(センチメートル)後半はあるだろうか、こんな大きな人はバレー部とバスケ部以外に見たことがなかった。


 すかさず俺はその人の心を読むと、そこにはとんでもない声があった。



(ここに封じてたはずの邪神が目覚めちまった…早く見つけて始末しねぇと……。もし誰かと接触したらソイツも殺さなきゃなんないからな…)



 俺の背筋はビシリと凍る。この人が思ってる『殺す』というのは、恐らくマジなやつだ。そして邪神ってのはまさか…


 想像した瞬間俺は戦慄し、その場から逃げ出そうとする。ここにいてはまずい。理性が訴えかけ、本能が体を動かす。


「あれ、君たしか……この近くでよく遊んでたけど、まさか……」

「!!」


 逃げた先に同じ服装と体格をした人に出くわす。その人はどうやら俺がここに度々来ていることを知っていたようで、こちらに分かりやすい疑心を抱いて尋ねて来た。


「しっ! 知らないっ! 俺は何もっ!」


 俺は吐くように言いながら逃げる。脚でバタンバタンと地面を蹴り、一目散に走る。いったい何故、あいつらが邪神と関わった者まで殺すのかは分からないが、少なくとも捕まったらヤバイことだけは分かる。


「ハァッ! ハァッ! ハァッ! ……っ!」


 肩を揺らして息を吸い込む。身体中に酸素が十分に行き渡っていないから、足に痛みが走りつつある。だがここまで走ればきっと巻いただろう。


 と思ったのもつかの間、


「君さぁ、たしか邪神とよく遊んでた子だよね?」


 すかさず別の人が話しかけて来る。周りに感覚を研ぎ澄ませば、多くの人がこの神社に集まっている。すると疲れたはずの体がバネのように飛び上がり、痛む足を全力で走らせた。


「知らないっ! 俺は何も知らないっ!!」


 叫びながら走る。走りながら叫ぶ。捕まれば何をされるか分からない恐怖が追い風となって、背中をドンドン押していく。

 今自分は何と言いながら走っているのだろうか。言葉が溢れるのを止められないくらい、溢れた言葉が聞き取れないくらい俺の頭は混乱で渦巻いている。


「ぜぇっ、ぜぇっ、ぜぇっ!!」


 ついに足が止まる。ビクンビクと筋肉が痙攣(けいれん)しているのが分かる。

 だが体が止まってくれたから、思考も少しずつ落ち着いて来た。思考が落ち着けば、自然と視野も広がる。



 気がつけば俺は神社の外に出ていた。



 俺はよかった、と胸を撫で下ろす。周りには通行人もいるから、もしもの時があれば助けを求められる。なんでもない他人がこんなにも心に平安を生み出してくれるとは。とにかく今日はもう帰ろう、と俺はそのまま歩こうとした。



律斗(りつと)君……?」



 背後で友達の声がする。


 俺は振り向けなかった。



「どこへ行くの……? 僕、このままじゃ、あいつらにまた……」



 神様の声が耳と心の両方に突き刺さる。


 俺は引きずるように歩く。神社を背にして。



「僕たち友達だろっ!? お願いっ! 助けてよっ!! このままじゃ僕、あいつらにっ!! …っあ」



 邪神の声が胸を貫く。いくつもの槍と化して、俺の心を切り裂いていく。



「嫌だぁあっ!! 律斗(りつと)君っ!! 助けてっ!! 助けっ……」



 俺は振り向かなかった。



 3回も『知らない』と言ったのだから。

次回の投稿もお楽しみに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ