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アンバランス・ワールド  作者: がおー
第1章 〜転生〜
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救済

お待たせしました

 光野(みつや)が出て行ったその晩、俺ら3人はリビングに集まって話し合った。いったい光野(みつや)の身に何が起きたのか、アレコレと考えては互いに意見を出し合った。


 だが結局は、あの箱が原因という結論に収束するのだ。あの箱を詳しく見たのは律斗(りつと)だけだから、俺と満筑義(みつぎ)は彼に色々と問いただした。どんな特徴をしていたか、何か変わったものはなかったか、見ていない俺らは質問に質問を重ねる。


「えっ、そうだな。なんか…箱の隙間からさ、どす黒いものが溢れ出てたんだよ。一目でヤバいものだって分かる感じの。触ったらさ、もう気持ち悪いのなんの」

「やっぱ、ヤバイ箱だったんだな。光野(みつや)の奴、変なもん持って帰って来やがって」

「でもさ、開けたら呪われる箱なんて、『パンドラの箱』しか思いつかないし。そんな箱があんな廃村にあるもんかなぁ?」

「あったから光野(みつや)があんなことになっちまったんだろ。とにかくなんとかせにゃあ」


 俺はそう言って、現状の解決策を考えた。

 あの箱にどんな能力(ちから)があるのか、律斗(りつと)が言っていたドス黒いものとはなんなのか、それが分からない以上、何をすれば解決へと導けるのか、思考を巡らせても答えは出ない。それは2人も同じようで、良い解決策が浮かばないようだった。


「なぁ、1回あの村に戻ってみねぇか? もしかしたら解決のヒントとかあるかも」

「…また行くの? あそこの夜道、好きじゃないんだけど」

「肝試しじゃないんだから、行くとしたら昼だろ。わざわざ暗くて探し辛い状況で行くバカはいねぇよ」


 しばらく経ってから満筑義(みつぎ)がそう切り出し、律斗(りつと)がビクリと反応する。あの肝試し動画を見る限り、彼は勇気を振り絞ってあの夜道を歩き、廃村を3人で見て回った。そんなことが出来た男でも、また行くとなると怖気付くようだ。

 俺は彼に肝試しじゃないんだから、と告げると、満筑義(みつぎ)に明日にでも行くかと提案する。


 それから俺の提案は可決され、明日の昼にまた『旧・かぐら村』に行くことになった。



 翌日、太陽が青空のてっぺんから大地を照りつける中、俺らは『旧・かぐら村』へとたどり着いた。道中、あんなに俺らの頭を熱していた太陽も、村の近くの森に入れば木々に遮られる。それが逆に俺らの、特に律斗(りつと)の不安を掻き立てた。当人は出発の時もここまで来る間もずっと嫌がってばかりだ。あの時は特に何も怖いことは無かったが、当人が言うに「あの何も無さ過ぎる雰囲気が逆に怖い」の一点張りだった。

 だが、俺らが光野(みつや)を助けるためだと言うと、彼はなけなしの勇気を絞り出してついて来てくれた。


「さて…着いたわけだが。あいつがあの箱を見つけた家ってどれよ?」

「えっ…そういや、どんな家だったっけ……満筑義(みつぎ)、思い出せる?」

「あぁ……ごめん、あん時は暗かったから今ひとつ覚えてねぇや。肝試しの時の動画ある?」

「あっ、ごめん。忘れた」


 俺は満筑義(みつぎ)に言われたことで、ハッと肝試し動画が入っている録画機を忘れたことを思い出した。ここに解決の糸口を見つけることで頭がいっぱいいっぱいになっていたから、そこまで考えるのを忘れていた。

 しばらく俺らはその場に立ち止まっていたが、このままでは(らち)があかないと、2人の記憶を頼りに家の中を見て回ることにした。



 しかし俺らの捜索虚しく、日は赤く傾き出していた。このままでは探索は困難と判断した満筑義(みつぎ)は、あと1軒見たら今日は引き上げることにした。


 そして最後の家の扉を、俺はギイッと音を立てて開ける。立て付けが悪いのか開けるのにはかなりの力を込めねばならず、半日探し歩いたことで疲弊し残りわずかとなった体力のほとんどを使う羽目になったが。



「……っ!」

「…うっわ!」

「……ひぇえっ!」



 その家の壁や天井には、赤黒い液体がびっしりとこびりついており、中に入ろうとする者をぐるん180度振り返らそうとした。実際、律斗(りつと)は入って5秒もしないまま、(わめ)きながら全速力で家から飛び出した。その後を追うため俺らも家から出ると、外で丸まりながら怯える律斗(りつと)を慰める。


「無理無理無理っ! あんな家入りたくない!」

「…たしかに、ありゃやべえな。俺も入りたくはないな」

「そうだな。日もだいぶ傾いて来たし、今日はもう帰ろう」

「うんうんうんうんっ!」


 血みどろの室内に怖気付いた俺らは、抜けた律斗(りつと)の腰がまた元通りにはまるまで、2人で彼を担いで家へと戻った。


 結局その日、あの箱に関する情報は一切無かったし、家に戻る俺らを出迎える顔も無かった。

 いったい光野(みつや)はどこへ行ってしまったのか、あの箱の正体は何なのか、何も出来ないまま1日が終わってしまった。満筑義(みつぎ)は解決策の見えない現実に頭を悩ませているし、律斗(りつと)は俺らの足を引っ張ってしまったと気を落としている。



 こうなったら俺が何とかするしかない。



 俺の、『魂』で。



 ピッピッピッ…



「……もしもし、美月(みづき)さん?」



 ――



「はぁ……」


 買い物の帰り道、俺はため息を何度も吐きながらトボトボと買い物袋を引きずっていた。

 あの時、俺がビビってしまったから、光野(みつや)のことなど考えられず帰ろう帰ろうと泣き(わめ)いてしまったから。何でこんなことになってしまったんだろう。



 いや、自分でも分かっているだろう。



 俺のせいだと。俺のための肝試し企画を失敗に終わらせてしまったから。俺がもっとやれていたら、1人の動画内の役者として使命を果たせていたら、あの企画が成功していたら……



 光野(みつや)があの箱に手を出すことなんて無かったのに。


 ホロッ…


 自分の頰に涙が細い筋の後を作る。友への懺悔(ざんげ)と打ち付ける自責の念に潰され、俺は公園のベンチの上でうずくまる。

 こんな事態を防ぐための『相手の心を読む能力(ちから)』なのに、結局俺は何もしてやれなかった。あの箱に手を出した時点で察するべきだったのに……


 俺は……



 ズゥッ……



 近くに呪怨(じゅおん)を抱いた霊の気配がする。


 普段なら腰を抜かして、情け無い姿で逃げるだろうか。でも今はそんな気はまるで起きない。



 もう疲れた。何も出来ない自分自身に。



 それならいっそ楽になりたい。背筋が凍るくらいの呪怨(じゅおん)を持った霊に殺されて。



 ドシャンッ!!



「……ったく、どっから湧いて来んだコイツら」



 しかし俺の願いは聞き覚えのある声によって(ちり)と化す。俺は顔を下げたまま、目の前で起きている状況を察した。


「どうした。そんなところで(うつむ)いて」

「……」


 俺の隣に大きな気配が1つ。その正体は見なくても分かる。こんな次元の違い過ぎる雰囲気を出せるのは、他に怪物か悪魔か八岐大蛇(ヤマタノオロチ)ぐらいだから。


「おーがさん……」


 俺はおーがさんに涙でぐちゃぐちゃになったであろう顔を見せる。その顔におーがさんはふふっと笑いながら、軽くからかうように話し出す。


「どうした随分と浮かない顔して。買ったキャベツの葉に蝶の幼虫でもくっついてたか?」

「……ははっ、たしかにそりゃ(へこ)みますね……」


 しかし今の俺にその揶揄(やゆ)の言葉に俺は作り笑いを浮かべながら、なんとか言葉を返す。いつもならこの冗談で自然と笑えたのだろうか。


「……悩みがあるなら聞くぜ。もしかしたらその悩みのタネが俺らが今動いてる()()()()()って可能性もあるからな」

「……!?」


 その言葉に俺は目を丸くし、ガバッとおーがさんの方を振り向く。


「そ、それって、どんな異変なんですか!?」


 俺はぐるぐると舌を巻きつつも、おーがさんに尋ねた。するとおーがさんは少したじろいた後、ゆっくり落ち着きながら話し出した。



「実はね、厄介なものが現れたんだ。それは一種の呪術道具なんだけど、力の強いものだったら村1つさえ消すことの出来る」



「『コトリバコ』って箱なんだ」

次回の投稿もお楽しみに

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