能力
おまたせしました
「……っはい! では今日のNO.2の料理動画はここまで! 美味しいので皆さんも是非試してみてくださいねっ! それでは、また次回〜」
プッ
「ふぅ…疲れた」
「お疲れお疲れ。結構よかったと思うよ」
俺は録画機の電源を切り、満筑義に感想を述べる。
「武陽もありがとな。チャンネルのメンバーじゃないのにわざわざ撮ってくれて」
「いやいや、このぐらいなら手伝うよ。にしても…光野の集中力…っつぅか執念か、すげぇなぁ」
「ああ、まったくだ」
俺は物置部屋の方を見ながら、呆れるようにそう言った。満筑義も同じようにはぁっと大きなため息をつく。
ここ最近、光野はほとんど部屋から出て来なくなった。なんでも相当複雑な作りになっている箱らしく、動かせる場所を1つ見つけるだけでもかなりの時間を要するらしい。さらに、引き出した木の棒はある一定の長さに固定しないと、他の棒やパーツが動かないようだ。それを見つけるために、今も何百もの組み合わせを試しているのだ。
そこまでしてあの箱を開け、その中身を彼は知りたいのだろうか。俺だったらとっくのとうに諦めるのだが…
「ま、それだけ厳重に封じられたものなら、きっとすんげぇ宝が入ってんじゃないの?」
「そう思いたいねぇ。とにかくアイツが帰って来るまで、俺が色々手伝ってやるよ」
満筑義の光野があそこまで箱に執着するのは宝があるのだと言うから、俺もその意見に賛成し、彼が戻って来るまで動画の編集を手伝うことにした。
そうして撮ったばかりの満筑義のお料理動画を編集しようとパソコンに向かおうとすると、
「きききょ、今日のどど、動画はここまで! あー、怖かった…ご、ご視聴ありがとうございましたっ!!」
別の部屋からパソコンを持ったままこっちに律斗がドタドタと向かって来た。
実は満筑義のお料理動画の撮影中、律斗も同時にゲーム実況を撮っていたのだ。これは事前に彼から話があり、今まで光野と撮っていたホラーゲームの続きを1人でもやってみるとのことだ。それでうるさくなっちゃうといけないからと、わざわざ奥の方の部屋の中で1人でゲーム実況をしたのだ。
とは言えど、もともとホラー耐性などティッシュのかけらほども無い彼がたった1人でまともにプレイ出来るはずも無く、実は満筑義の撮影中もチマチマの彼の叫び声が聞こえて来た。その度に俺たちは笑いそうになるのをこらえたものだ。
「はぁー! 武陽! 編集お願いっ!」
「いやいや、俺は満筑義の動画だってやんなきゃだから。お前の動画の編集はお前がやってくれ」
「ええー! 無理無理ィ! あんな怖いの!」
俺は泣きつく律斗を引き剥がしながら、満筑義の動画の編集を始める。すると彼も諦めたのか、うるさくても怒らないでよと軽く強い口調で言ってから、しぶしぶパソコンのキーボードを打ち出す。
それから数分後、言った通り彼は10秒に1回はピャアアッと叫んでは、パソコンから2メートルほど後ろに飛ぶのだった。満筑義は買い物に出かけてしまったから、リビングには俺と律斗しかいない。
そんな度々叫び声を上げる彼に、俺はフンスッと鼻息を立てながら一切気にも止めずに黙々とパソコンをいじるのだった。
テッ…テッテッ……
「……」
「ピィイイッ!! ……はぁ、ってこれ俺の声か……くっそぉ…」
テテテッ…テテッ…
「……」
「おおっはぁ!? …あー、ビビるわぁ…」
「なぁ、お前さぁ…」
「はぁはぁ……うん? 言った通り、苦情は一切受け付けないからね。もうっ、ほんとに…ビャアアッ!!」
俺は律斗の叫び声をBGMにテテテッとキーボードを叩いていた。彼の悲鳴の頻度が想像以上に高いのは流石の俺でも驚きで、だんだん集中力が薄れて来る。ほら、また字幕を打ち間違えた。
「ゔぁああ! 終わったぁああ……」
「はぁ!? おまっ…」
そんなこんなしているうちに、なんと律斗の方が先に作業を終えてしまった。こちらの集中力を散々削っておきながら、自分だけ先に終わらせてしまうとは、なんとも卑劣極まりない。
グィッ
「てんめぇ!」
「ええっ!? そんな理由で怒らないでよぉ!」
頭にムカァッと来た俺は、律斗が動画の保存ボタンをクリックしたと同時にグァッシと掴みかかっていた。彼はアワアワと慌てながらグリグリと必死に抵抗する。その力は決して強いものでは無いにせよ、軽くムカァッと来ただけの俺を止めるには十分だった。
そして時間は俺の煮えたぎった頭をゆっくりと冷まし、俺に冷静を取り戻されてくれた。俺はゆるゆると律斗からもみあげから力を抜き、ぺこりと冷めた頭を下げた。
「あっ…悪いな。ついカッとなっちった」
「まったく…いくらこっちの妨害があって、さらにこっちの編集が早く終わったからって、そんなに怒ること無いじゃん!」
「悪い悪い。ちょっと最近ストレス溜まってっからさ」
「やっぱ、光野のこと…? 」
俺は律斗の問いにコクンと頷きそうになるが、一瞬頭の中を何かよぎりピタリと俺の行動を止めた。
(こいつ…さっき、何て言った……?)
それはついさっきの律斗の言動だ。俺が彼に掴みかかった時、彼は慌てながら『そんな理由』とこぼした。まるで俺が、こっちの集中力を切らしておきながら自分は早く作業を終えたことに腹を立てたことを知っていたかのように。
「……なぁ律斗。1個聞いていいか?」
「えっ、急になに?」
俺は少し口元を締めるとキロリと鋭い視線を律斗に向ける。
抱いた疑問、それは傍目から見れば馬鹿馬鹿しいと言われるものだ。
でもある意味これは、俺だから言えることだ。他の2人なら思ったとしても、きっと本気にしないだろう。
「お前…なんか、特別な能力持ってるだろ」
「……っ!」
特別な能力。それは人並み外れた力のこと。もっと言えば常人では到底考えられないような力だ。
俺がそう問いただすと、律斗はハッと驚いたように目をかっ開き、そのまま否定もせずに口ごもった。そんな彼の態度に、俺はやっぱりなと思いつつさらに言葉を重ねて問う。
「それってさ、俺の想像だけど、多分…『相手の心を読める能力』とか? 当たってる?」
俺がそう聞くが、律斗はジッと黙ったまま何も答えない。どうやら俺は彼の触れてはならない場所に触れてしまったようだ。きっと彼にとってこの力は、『嫌なもの』なのだろう。
「……ごめん。嫌なこと聞いちゃって」
「いや…その……うん…」
「はぁ……そうか、お前もか…」
「……えっ?」
律斗の落ち込みに対し、俺は彼を慰める言葉が見つからなかった。おそらく彼はこの能力で相当嫌なことを体験して来たのだろう。なんとなくそれが直感的に分かる。
何故ならその落ち込み方が、あの時の俺に似ていたから。
だから俺は打ち明けることにした。彼ならきっと打ち明けても大丈夫……かはちょっと微妙なところだが。しかし同じ能力を持った者同士なら、もしかしたら……その痛みを多少は分かってくれるかもしれない。
過ぎた能力を持ってしまったが故に起きた事故の傷を。
「なぁ、質問いい?」
「…うん、答えられるものなら」
「……もしもさ、過去に戻れたら何をする?」
「えっ、うーん……」
悩むたびに律斗の顔つきは暗くなる。やはり彼は重い過去を経験している。
「……友達に…謝りに行く……かな、許してもらえるかは分かんないけど」
「そうか…」
しばらく経って律斗はそう答えた。こうして具体的なことが出て来るということは、彼にとってはそれだけやり直したいことなのだろう。
俺は消えるような声でそう言うと、
「俺はさ……親に会いたかったよ」
と続けるようにして言った。律斗はふぅんと頷いて、俺から視線を外さない。
俺ははるか遠くに行って、もう戻らないあの時のことを思い出しながら、
「俺もね……能力を持ってたんだ。簡単に言えば、『時間を操れる能力』ってのをさ」
と明後日の方向を向いて、そう告げた。
次回の投稿もお楽しみに




