悩み
おまたせしました
「はぁあ、今日の撮影終わり…っと」
「おっつー」
光野がググッともみあげを伸ばし、プレイ中固まっていた体をほぐす。
当人曰く、最近は見る人も増えて来たから、ボチボチ投稿ペースとか内容の質上げなきゃあかん、とのことらしい。それもあってか彼は俺を含めた3人に、なんかいいネタ無い? とよく尋ねるようになった。もちろん俺はここに住まわせてもらった借りがあるから、出来る限り協力はしているのだが……ネタの採用率は3回に1回あればいい方だった。
「はぁ……いいネタかぁ。思い付かないなぁ」
「そんな気悩むことねぇから。俺だってそんなポンポン出て来るわけじゃねぇし」
いいネタが思い付かない俺を武陽は背中をさすって励ました。とは言えど俺から見れば武陽や満筑義は俺よりもずっと光野の期待に応えられているように見える。
実際、彼らのネタが光野の動画内で使われる頻度は高い。さらに満筑義と俺が新しいメンバーに加わった以上、顔も知らない相手に愛されるよう努力をしなければならない。
光野は話しながらでもプレイ出来るよう腕を上げているし、満筑義は面白いトークで間を持たせられるよう引き出しの数を増やしている。さらに動画を撮り終えた後でも、改善点を互いに出し合うことで質の向上を怠らない。それぞれがネットの中で生き残るために本気になっている証拠だ。
それに比べて俺と来たら、撮影中も驚くことしか出来ないし、そんな俺が会話を振ったり繋いだりなど到底無理な話だ。そのおかげでどれほどの撮影時間がおじゃんになったことやら。
しかも録画中は自分のことでいっぱいいっぱいだから、撮影後光野にどこか改善点あったら言ってくれと詰め寄られても、何も言えずに終わってしまうのだ。
「はぁ、俺どうしたらいいんだろ……」
「抱え込んでるなら光野や満筑義に相談したらいいじゃん。嫌なら俺からあいつらに言ってやろうか?」
「……ぅん」
武陽の優しさに俺は力なく頷いた。このままじゃダメだってのは分かっている。ただどうしてもその改善策が自分の中に見出せないのだ。それに俺が悩んでいる素振りを見せてしまえば、立ち直るまで今続いているホラー実況はストップするかもしれない。
いや、それ以上に自分たちの質を上げている最中、俺のことまで考えることとなったら2人の負担も増えてしまうだろう。
やっぱりいいよ、と言おうとした頃には、もう武陽の姿は無かった。
「それで? 要は自信を無くしたわけだ」
「うん……」
光野の問いかけに俺はコクンと頭を下げる。自分がしっかりしないばっかりに、余計な心配をさせてしまったのだと、弱い自分の心を激しく責めながら。
「まぁ、でも律斗は頑張ってるよ。慣れてないってだけでさ」
「うんうん。つか律斗がホラーシーンで毎回驚いてくれるから、俺からしたら結構助かってるんだがなぁ」
「たしかに。律斗が叫ぶたびに俺、肩ビクッてなるもん。何事!? ってな感じでさ」
「それそれ、俺なんか真隣で悲鳴聞くわけだからさ。もうホラーゲームの怖さ倍増って感じよ」
そんな俺を差し置いて、2人はサクサク話を進めていく。会話を聞くに、一応2人とも俺のことを褒めてはくれているようだ。
それでも俺が会話を持たせられないのは自分で見ても明らかであるし、それを良くしない限りは2人の足を引っ張り続けてしまうだろう。
「ひとまず、だ。俺からは撮影中の雰囲気に慣れろとしか言えねぇな。悩みの会話が繋がらないってのは、要は緊張から来てんだろ? つまり、動画内でも肩の力を抜けるようになれってこった」
「そうだな。会話云々より、まずは撮影中、肩の力を抜けるようになるってのが先だな。それまで俺らが徹底してサポートしてやるよ」
「あ、ありがとう……」
「じゃ、そういうことだ。部外者って立場の俺も、ネタいくつか提供してやっから。焦ってあれもこれもってなるよりかは、撮影中でもしっかり会話出来るってのが先だな」
こうしてみんなの優しさをビリビリ感じながら会議は終わった。結局俺はみんなに甘えることしか出来ないのか、貰うだけで尽くすことは出来ないのか、そんな感情がボコボコと湧き上がっては心をギチギチ責め立てた。
ただ今は下手にあれこれ考えるより、言われた通り『慣れる』に専念するしかないなと思っていた。
――
「んー、まさか律斗があそこまで考えてたとはなー」
「意外と1人で溜め込むタイプなんだな。ああいうことはなるべく言って欲しいけど……」
「いやぁ、俺も意外と溜め込むタイプだからな。そういうのって、自分の悩みをあまり言わないんだよ。周りに迷惑かけちゃうって発想になるから」
「めんどくせぇなぁ……まぁ、でもそっかぁ。分からなくもないなぁ」
俺は先ほどの律斗の悩みを思い出しつつ、満筑義と話し合っていた。自分も悩みごとを曝け出さない性格だからこそ、なんとなく彼の悩みが分かってしまうのだ。
自分のせいで他者に迷惑をかけてはいけない、自分のことは全部自分が解決しなければ、こんな問題も対処出来ないのは恥ずかしいという思考に陥って、抜け出せなくなる。そしてそのままグルグルと負の連鎖となり、終いには自分を……
(俺も……そうだな)
俺はそっと自分のもみあげに目を落とす。
今でこそ無くなったが、かつての自分の手首にはそこに真っ赤な跡があった。カッターや剃刀が怖かったから、代わりに髭剃りを力強く押し付け、ガリガリとかくように皮膚を引き裂いた跡が。
悩みの数だけ傷つけた。自分が信じられなくなるまで切り裂いた。
今でこそ馬鹿げてるって思える、せいぜい数ヶ月で消えるであろうあの跡を。
「なぁどうするよ? 多分あいつまだ考え込んでるぜ」
「せめてなぁ…今のままでも大丈夫ってのをあいつが知れたらいいんだけどなぁ…」
その議題は風呂場まで持ち込まれることとなり、俺らは浴槽に浸かりながらうんうんと考えていた。投稿を初めてからまだそれほど経ったわけではないのだから、少しずつ慣れていけばいいだけなのだが……やはりそれでは彼の悩みの暗雲を晴らせないのだろう。
「あーあ、あーだこーだ深く考えるこたぁ無いのになぁ」
「そうだよなぁ……つか、あっついなぁ…」
「そういやそろそろ暑い季節だしなぁ……クーラーと扇風機出すかぁ」
「それいいね。……あっ」
そろそろ暑い時期という言葉を聞いて、俺はピンと思いついてしまった。この時期だからこそ、律斗の持てる力を生かせるではないか、あいつならこの企画を大きく盛り上げてくれるだろう、と。
俺は早速満筑義にその企画を話すと、
「おー、いいんじゃね。たしかに俺たちだけじゃ絶対盛り上がらないだろうからな」
「よっしゃ、じゃあ決まり」
「いつにする?」
「早い方がいいかな。あいつを励ますためにもさ」
こうして我がチャンネルの新企画もとい、律斗の励まし作戦が始まった。武陽には作戦の全貌を話したが、律斗には夜に撮影するとしか言わなかった。
まだ何も話してない筈なのに、何故か当人は酷く嫌がっていたが。
とは言えどここまで来たらやるしかない。律斗を励ますため、彼に自信をつけてもらうため、そして我がチャンネルの再生数のため、俺たちは企画を実行した。
「はいみなさん、こんばんはー! ゆっくりガオウNO.1でーす!」
「同じくこんばんはー! ゆっくりガオウNO.2です! よろしくね!」
「ゆゆゆゆゆゆ、ゆっくりらりガガガオウぉぉ……な、NO.3ぃぃ…ででです。よよよ、よろしく…おおおおおお願いしまふ……」
「えー、今回はなんと! 『肝試し企画!』でーす! 自分たちは今、有名な心霊スポットである、『旧・かくら村跡地』に来ていまーす!」
そう、俺らが企画したのは律斗の力を遺憾なく発揮出来るであろう、肝試しなのだ。
次回の投稿もお楽しみに




