NO.2&NO.3参上!
おまたせしました
「……ではNO.2のワニ肉調理動画はここまで! 今回はワニ肉に味が近い鶏肉を使って代わりに調理してみましたが、いかがだったでしょうか? 美味しいので、みんなも試してみてねー! それではご視聴ありがとうございました!」
プツッ……
「……っぶぅはぁああ……ああ…あぁぁ」
「おっつー、いい感じだったよ」
「あー、緊張した」
光野の持っているカメラが録画停止を告げると同時に、俺のビンビンに強張っていた体はでゅるんととろけた。
撮影中は、いかにして分かりやすく、具体的に説明するか、どのような体の向きが視聴者に見やすいか、などなど、いつも以上に脳を使った。おかげで手も頭も常にフル状態で動かしていたので、とてつもない疲労が全身を駆け巡った。
しかしここで1つ疑問が浮かぶ。
自分は果たして動画内でどのようなことを言っていたのか、どんな風に映っていたのか、それがまるで思い出せないのだ。
「ま、こっから色々編集すっけど、どう? ここ入れて欲しいとか、あるんだったら一緒にやる?」
「ん、あ、いや。一旦風呂入らせて。汗エッグいから」
ふと体を見れば穴という穴から汗が吹き出していた。一等身という俺らには不幸にも服という概念が無いので、汗を吸ってくれるようなものは無かった。だから台所の床は俺の汗でぐっしょりほどでは無いが、ジトッと気味悪く濡れている。
俺は光野に床だけ拭いてもらうように頼むと、ぽむぽむと跳ねながら風呂場に向かった。
――
「ふぅ、あいつ超ノリノリだったな」
床を拭きながら俺は、先ほどの満筑義の解説動画を思い出していた。普段はそこまで口数の多くない彼が、まさかカメラ越しにこれほど多く喋るなんてまるで想像出来なかった。
もちろんここから余分な箇所のカットや字幕を付けたりしなきゃいけないし、動画内の色彩や画質も美味しそうに見せなくてはならない。それには俺と満筑義以外にもう1人、初見という第三者からの目線が必要になるのだ。
「随分美味そうな匂いがすると思ったらこれか。食べていいの?」
「あっ、いいとこ来た。ちょっと待ってて」
すると、噂をすればなんとやら、欲しかった第三者が来てくれた。廊下から律斗がボサボサと寝癖を付けながら匂いに釣られて来たのだ。
俺はちょうどいいや、と思いながらパソコンの画面に今撮ったばかりの肉料理を映し出した。
「なぁ、律斗。これ、美味しそうか?」
「んー、見た目は美味しそうだけどね〜。でも、もうちょい画面明るくしたらいいんじゃない?」
「りょーかいっと」
そんな感じで俺は第三者からの意見を頼りにしつつ、動画の画質や色彩をいじった。ただ個人的に、律斗にはまた別ジャンルのものを出して欲しいのだ。というか一緒にやって欲しいというのが本音だが。
との話を切り出そうとしたその時、満筑義が風呂から上がって来た。
「よしっ、さっぱりした。じゃあ作業始める?」
「いいよー。ちょうど今律斗に動画の画質とか見てもらったとこだから」
「そっか、じゃあ後は尺とコメントだけだな」
それから俺と満筑義は30分ほど動画を編集していた。このコメントはいらないだとか、ここは字幕で説明した方がいいだとか、字幕の大きさが料理を隠してしまってるだとか、とにかくいかにして美味そうに見せるかに気を使った。動画だけでは匂いや味は伝わらないから、決して主観的にならずに動画を編集した。
そしてとうとう自分たちの中ではもう手を出すところが無いくらいの動画が出来た。隣でずっと口を開いていた満筑義もついに閉じ、自分に投稿を許可した。
俺はパソコンのカーソルを投稿ボタンに合わせると、コチッとマウスを押した。それと同時にフゥーッと大きな吐息が互いの口から漏れ出した。
「あーっ、動画編集って結構楽しいもんだな」
「ははっ、いつでも大歓迎よ、NO.2」
「近々本格的に加わるかもな。そん時は動画内で堂々と発表してくれよ」
こうして我がチャンネルに新たな逸材が加わるのだった。
だが、これからは俺と満筑義と二人三脚でやって行こう……というわけでも無かった。
何故なら我がチャンネルに加わるのは満筑義1人では無かったからだ。
「ばぁあああ!!」
「おおっ!? おまっ、声でかいねん!」
「だって! だって! 今、こうバンッてっ!!」
「そんぐらいでビビんなって。ゲームよりお前の声で驚いてんだよこっちは」
俺の予想は見事に的中してくれた。今やっているホラーゲームはよくあるゾンビゲーで、基本的にそれらから逃げまくるものだ。グラフィックもよく出来ており、ストーリーも難易度も飽きずに進めるくらいには十分過ぎるくらいだった。
ただ、今回は当人の了解をほぼ強引に取らせることで実現した、チャンネル初の俺とソイツとの2人実況なのだ。ソイツは演出が入ろうが入らまいがお構い無く、常にキャーキャーワーワー、隣で騒ぎ立てるのだ。お陰で動画が映えて映えて仕方がない。
俺がコイツに目を付けたのはつい先日の話だった。
あれはついこの間、テレビでホラー映画がやっていたから4人で見た時のことだった。その映画自体は少し前にかなり流行ったものらしく、今でも人気を誇る作品だった。ネットでも名作の1つと謳われ、数多の人間が恐怖したとのことだった。
近いうちにホラーゲームをやる予定だった俺は、ホラー慣れということでその映画をみんなで見ることにしたのだ。
ただその映画は個人的な感想だが、今ひとつ盛り上がりに欠けるという感じだった。なんでも元々の映画には年齢制限が付いているもので、テレビでは放送ギリギリの表現が多く含まれていたらしい。
だからそういうシーンが多くカットされたことで、その映画が持っている良さも同時に消えてしまったようだ。もちろんそれを抜きにしても良い映画であることは間違い無いのだが、ところどころ残念さの残る結果となってしまった。
この感想は満筑義と武陽も同じで、期待していただけに感想としては上の下という感じとのことだった。
そんな中、律斗だけは常にビクつき震えながらその映画を見ていた。あまりの怖さに武陽と俺の間に座り、演出のたびに画面から目をそらすのだ。さらにはコマーシャルの間のトイレ休憩にもいい歳して一緒に来てと涙目で頼むだ。
まさかここまでホラー耐性が無いとは思っても見なかった俺らは、唇を噛み締め肩を震わせながら彼に付き合うのだった。
ここまで耐性の無い逸材を動画内で使わないわけには行かず、俺は多少強引に彼を誘った。
「でっ、でも…俺、そんな面白いこととか言えないし……プレイもそんな上手く無いし…」
「平気平気、俺だってそんな上手く無いしさ。それに基本的にプレイすんの俺だから。会話だって全部振ってやるから、安心しろって」
「……ぅぅ」
そんなこんなで半ば強制的に律斗をメンバーに引き込み、一緒に実況することとなったのだ。
「はいどーも皆さんこんにちはー! ゆっくりガオウNO.1でーす!」
「は……初めまして……俺は、えっと……」
「NO.3」
「あっ、そうそう! 『NO.3』です! よろしくお願いいたします!」
動画内で律斗が自分の本名を言わないよう気を配りつつ、俺はゲームを起動する。
「今回は! なんと新メンバー! 『ゆっくりガオウNO.3』とともにやって行こうと思います!」
「しょ、初心者で、ホラー苦手ですけど、頑張ります!」
律斗の意気込みを片耳に、ゲームのオープニングに目を向ける。ほぼ初見プレイとなってしまうが、どれだけグダリを無くせるだろうか、なんて思いつつコントローラを握る。
と思ったのもつかの間、ぴゃあああっという悲鳴が隣からわんさか響き渡った。たしかにオープニングから怖い描写はあったが、それにしても驚き過ぎではなかろうか。俺は逃げようとする律斗を力強く押さえつけながら、ゲームを進めるのだった。
「さて、あれから数日が経ちました…と」
「どう? チャンネルの様子は」
「はぁ……2本目からして、もうギブアップしたいんだけど……」
「却下」
俺は律斗の意見を即却下すると、手伝ってくれた2人に今のチャンネルの様子を発表した。はっきり言って俺がこの2人を誘ったのは、大幅な誤算だったようだ。
「えっとね、まず満筑義の料理動画だけどな…」
「おう、どう? 不評だったり?」
「実はね……投稿してから10時間後…くらいかな?」
「ドキドキ」
俺はパソコンの画面から、その時のスクリーンショットを見せた。
「急上昇ランキング7位だって良かったな」
「っっっしゃあっ!! 見たかオラァ!! っしぃ!」
そこに映し出されたのは、投稿している動画サイトのランキングに載っている満筑義の料理だった。それを見るや彼は天高くもみあげを突き上げ、その場に喜びの声を撒き散らすのだった。
そんな彼を放っておいて、俺は次の発表に移る。
「んで次っ! 律斗と一緒に撮ってるホラーシリーズ!」
「あれかぁ……どうなん?」
「コメント読むぞ。『ナンバースリーかわいいっ!』『ナンバースリービビり過ぎなの好き』『もっとナンバースリー見たい』…だってさ。お前めっちゃ好評だぜ」
「えっ、ええ〜、マジで?」
律斗はエヘエヘと体をよじりながら寄せられたコメントに笑みを隠せないでいた。
これなら2人に今後の動画も頼めそうだ、と俺はホッとしつつ、
(俺へのコメントはあんま無かったな……)
と愚痴をこぼすのだった。
次回の投稿もお楽しみに




