最強を目指して
おまたせしました
殺そうとして来たゴロツキ共を蹴散らした俺は、この力を償いに使うと決めた。しかしこれからどうするかはまだ決めておらず、これからどうしようか悩んでいた。自分の名が分かったとは言え、別に何か新たに思い出したわけでもないからだ。
「さて…どうしよ、ここから逃げてもいいのかな…。でも俺金無いしなぁ…」
しかしずっとここにいればいずれ他の患者や従業員に見つかってしまうかもしれない。とは言え、ここから逃げ出しても行く宛が無いし、そこから食っていける程の金も持ち合わせて無い。だからと言ってこのままスゴスゴと病室に戻ってよいものか。
そんな風に考えている俺に魔神はなおふざけた口調で、
(金ならソイツらからふんだくっちまぇ)
とそそのかして来た。まるで天使と悪魔の鬩ぎ合いみたいに。コイツの場合、悪魔というか魔神なわけだけど。
「ええ…でも何か泥棒みたいだし…」
(いいじゃねぇか。コイツらは貴様を殺そうとしたんだぜ。そんなやつらから慰謝料とか、賠償金を貰って何が悪い? 貴様はあくまで正当なる防衛をしたにすぎねぇんだしよ)
「…」
魔神はそう言いながら俺にヤンキーから金をふんだくるよう言う。まるでそれが当然の権利であるかのように。思い返せば戦っている最中は自分の力に驚いていたからその他のことは気にも留めていなかったが、丸腰な俺に対し敵達は武器を使っていた。それも少し長めの小刀とか、強い電気を流せるものとかのを。つまりそれだけ敵は俺のことを殺しがっていたというわけだ。
だがそれでも俺の手はヤンキーには伸びない。やはり悪人とは言え、金を奪うのは気が引けるのだ。
(あーもう、焦ってぇ。そんなに後ろめたいなら、花壇の弁償分だけでも置いてけよ。それなら何の文句もねぇだろうっ!?)
そうしているとついに痺れを切らしたのか、魔神はグァッと強い口調で言って来た。
言われればたしかにそうかもしれない、花壇の弁償分を抜き取るくらいなら別にバチは当たらないだろう。自分の中に入れなければ…。
俺はまだのびているヤンキー達の懐に手を伸ばすと、そこから財布をそっと抜き取った。
その中身は何と、
(おっほほーっ、がっぽり持ってんな。ざっと見ても軽く10万はあるぜっ)
1人の人間が持つには過剰な程の、大量の札束が入っていた。これなら花壇の弁償分を引いても、十分お釣りは来てしまう。そのことが瞬時に想像出来るくらい、俺の金銭感覚は戻って来ているらしい。
そしてどうやら、俺の心に天使は最初からいなかったみたいだ。
俺は前言を即座に撤回し、花壇の弁償分の他に、慰謝料としばらく自分が生きて行けそうな分の金額も抜き取った。流石に全部抜き取りはしなかったけど、それでも3人分の財布だけで所持金は10万を軽く超えた。
(やったなぁ、貴様。そう来なくちゃ面白くない)
「いいだろ別に。慰謝料くらい貰ったって。それに全額は取ってないし」
(そうだな、サラッと花壇の弁償代の方が多いもんな。んで、これからどーすんの?)
そんな俺に魔神はこの野郎って軽く突っつくみたいに言って来た。だがここで頭ごなしに俺の行為を否定しなかったせいか、俺が花壇の弁償代の方を多く残したからか、不思議と罪悪感なるものは無かった。
だが自分がこんなんだから、こんなやつらに狙われるんだなって客観的に見て何となく思ったのも事実だった。
そう思いながら俺は抜き取った札束を乱暴にポケットの中に突っ込むと、念のため胸元に付いていた名札を取り外した。これがあるとここの病院の患者だとすぐに分かってしまうからだ。そうしなくとも今の服装でバレてしまいそうならものだが、かと言ってすぐに別の服に着替えられはしない。ヤンキー共の服は、身長を取られて来た俺には少々デカ過ぎるからな。
俺はピン留めされている名札を外し、そこら辺に投げ捨てようとすると、あることに気付いてしまった。
「あっ…」
(あ? どうした)
それは…
「俺、今15だったんだ…知らんかった」
(どうでもいいっ!)
名札に書かれている自分の名前の横に、年齢を示す数字があったのだ。15という数字から、今の年齢は15歳なのだろう。もうそんなに歳いってのかと思う反面、余計に失われた記憶を知りたくなってしまう。
そんな衝動に駆られた俺の次なる行動は決まっていた。
万札を懐に俺は駆け出し、そして病院を抜け出した。
行く宛など無い、帰る場所も無い、支えてくれる者もいない。
だがそれでいい。大罪を犯した者に寄り添ってくれる者など、側にいてくれる者など、そんな者がいるわけが無いのだ、いていい筈が無いのだから。
けれども先程のように、俺の命を狙って来る敵はいるだろう。わずかに取り戻した記憶から、過去の俺は多くの恨みと憎しみを大勢から買っていたことは分かっている。それも自分が思っている以上に。
しばらく退屈はしないだろう、これから出会うであろうソイツらのおかげで。地獄の果てまで恨みを晴らさんと執念深く追って来るようなやつらが。
そんな、まだ見ぬ強者に想いを馳せながら、まずは腹ごしらえと近くの飲食店に向かった。そこで腹を満たしつつ、俺は体の中の魔神と話し合っていた。
(ちゃんと供物は捧げろよ。今までとこれからの使用量は払ってもらわなきゃ)
「そういや供物は筋肉って言ったけど、具体的にどんなことやりゃいいん? やっぱ筋トレ?」
(たりめぇだアホンダラ。ノルマは1時間全力で走ること、それに腕立て腹筋スクワットを、とにかく俺がいいって言うまでやってもらうぞ)
「うぇぇ…面倒くさ…」
魔神からトレーニングの内容を言い渡された俺は面倒くさく思いながらも、それだけで命を取らない魔神の心の広さに感謝していた。
口調は荒く、悪人の金はあたかも正当化しながら貰い、戦えだの何だの言って来るような嫌なやつだけど。
(おいっ、トレーニングのメニュー追加すっぞゴラァッ)
「そりゃねぇぜ」
そうして俺と魔神の共同生活は始まったのだった。
魔神の出すトレーニングの内容は最初こそ想像以上に想像以上のキツさであり、俺が根を上げる度にメニューを追加しやがった。1時間全力で走れなければバービー100回とか、腕立て伏せの際連続で胸が100回地面につかなきゃ追加で片腕指立てそれぞれ100回とか、とにかく訳分かんないのをガンガンぶっ込んで来た。
当然トレーニングだけで1日が終わるのも珍しくなく、公園での野宿生活が続く日々だった。金はあるけれどそのほとんどは食に費やし、宿を借りたり服を新調したりなんてことは滅多にしなかった。そもそも宿を借りてもそこにいない時間の方が長いのだがその分借り賃が無駄だし、服も新調したところですぐボロボロになり新しくするのも馬鹿馬鹿しい。
だがそんな生活を1ヶ月と送っていれば、元々人間離れしていたのも相まって自然と体の方も精神も追いついて来た。今では2時間のうちに出された課題を全て終わらせることが出来、その分修行に身を置けるようになった。いつ強い敵が現れるか分からない中、俺はただひたすらに自身の限界を超えることを目指す。
しかしそれでも自分の限界を感じることはあった。公園での野宿生活では自身を超えられないと感じた俺は、ついに田舎の林の中で修行をするようになった。元々いた病院は遥か遠くの存在になってしまったが、ここならばあのような敵達が現れる確率も低いだろう、と判断して。
ビュオッ!
「……っ」
(まぁまぁだな、以前よりだいぶキレは良くなってるぜ)
「なぁ、魔神…1個聞いていいか…」
(お? 何だ何だ)
そんなある日、俺はとうとう魔神に尋ねてしまう。
「これ以上ってあんのか…?」
それは自分自身に限界を感じたからこそ、口から出た言葉だった。今以上の自分になるために、自分はあらゆる手を尽くして来たつもりだった。だがそれでも自分の限界を超えられそうに無かったのだ。
だから俺は尋ねた、魔神に、今以上の力を。
そしてその答えは、
(あるよ、そりゃ)
願ってもない答えだった。
「そっ、それは…どうすればっ!? どうすれば手に入れられるっ!?」
そう言われた瞬間、俺は興奮を抑えきれないまま更に魔神に尋ねた。何としてでも知りたかった、今以上の自分を。
そんな自分に魔神が出した答えは…
(単純な話だ。俺に捧げる供物を増やしゃいい。筋トレで付けた肉以外にな。そしたらその分力を与えてやるよ)
また別の供物を捧げることであった。
次回の投稿もお楽しみに
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