3人の一等身
おまたせしました
インターホンを押してすぐ、家の中から声がする。ドア越しに、
「どちら様?」
と尋ねられるので、ななしさんに紹介された『此泉律斗』だと答えた。
すると、ガチャリとドアが開き、ぽむぽむという柔らかい音が聞こえてきた。
「あ…ど、どうも…」
「初めまして、ななしさんから話は聞いてるよ」
そこには俺と同じ、一等身の頭が2つあった。それに、れにこのような姿は自分だけでは無いのだと安堵する。
「まぁ、ここで話すのもなんだし、中に入れば?」
「あっ、お邪魔します」
俺がななしさんに教えられているのはあくまで名前と大まかな性格のみで、まだどちらがどっちなのかは分からなかった。それも心を読めばすぐに分かってしまうが、勝手にのぞき込むのは失礼だし、何よりこの後の会話がつまらない。
なので俺はなにも悟らずに、黙ったまま2人の歩くのをついて行った。
それからリビングの机で俺らはお互いに自己紹介をした。
「まず俺から。えっと、俺は『丹羽満筑義』年齢は…18です」
「次に、俺は『永木光野』歳は同じく18だ」
2人がまさかの年上という事実に俺は少し驚いた。たとえ1歳しか違わないとは言え、少し前までは普通に高校生活を送っていた身だ。上下関係がしっかりしていた校風だったのもあり、1個上という存在はなかなか大きく映ったものだ。
その感覚は一等身になっても染みついており、離れていない。
「お、俺は…いや僕の名前は…」
「ちょっ、なんで急に改まってんの」
「もっと、肩の力…って肩ないか」
2人がそう気遣ってくれるので、俺は頑張ってリラックスする。
「お、俺…『此泉律斗』って言います! …ってあれ、俺…さっき…」
「うん、言ったね。つか知ってるし」
「せやな」
しまった忘れていた。俺はさっき2人に自分の名を言ったではないか。
「はっ、恥ずかしィ!」
俺は瞬く間に赤面し、もみあげで隠せるだけ顔を覆う。そんな俺を2人ははははっと声に出して笑う。そして俺自身も2人に釣られてついつい笑ってしまう。
何とも言えない変な空気は俺の緊張の鎖を粉々にしてくれたので、締められていた息は体いっぱいに行き渡る。おかげで話す分の呼吸は十分過ぎるほどに確保出来た。
「俺は、名前は言ったから…歳は17です! よろしくお願いします!」
「あっ、年下なんだ」
「でも1歳しか違わないんだな、てか聞きたいんだけどさ、律斗君だっけ?」
年齢を言い終えると、満筑義さんが不意に尋ねて来た。
俺は、何ですかと返すと、彼は、
「君さあ、ななしさんはどうしたの? 電話じゃ一緒に来るって聞いたんだけど」
と聞いて来た。俺はあぁと思いだしながら答える。
「ななしさんはねぇ…バイトだってさ」
すると2人は顔を見合わせた後、
「「バイトォ!!?」」
と口をそろえて、俺と全く同じ反応をするのだった。
それから俺らはいろんなことを話し合った。年齢が近いのもあってか、割と話は合ってくれた。
趣味のことや、幼い頃見てたアニメとか、好みの漫画とか、時々知らない作品の名前は出るものの、それで話題が途切れることは無かった。
「光野さんって結構アニメとか詳しいんですね。満筑義さんも持ってる漫画とか、読みたいなって思いましたし」
「っていうか、聞いたこと無い作品の名前とかよく出て来るし。やっぱ俺って別の世界から来たってことか…」
話を聞いていて光野さんは別の世界から来たと言っていた。その証拠に自分の知らない名前がいくつも出て来る。
「っていうか、逆に俺とは合うな。あれだな、俺と律斗君は、同じ世界なのか。」
「そうですね。俺も異世界に来たって感じは無いですし」
しかし満筑義さんとは合う話が多く、同じ世界出身であることを証明している。まさか小説とかで描かれるような人間が、目の前にいるとは。
「ということは、光野さんってひょっとして…」
「残念ながら、小説みたいな能力は俺にはございませんっ!」
「ええっ…」
もしかしたら光野さんにそのような不思議な力があるかも、と尋ねてみたが、深く聞く間も無く否定されてしまった。
「まぁ、こんな姿になった時点でもう不思議なことは起きてるんだけどな」
「まぁ……」
「たしかに…」
その一言で俺の期待は崩れ去る。たしかに姿がこんな非科学的な存在になってしまうのは、ある意味すごいことなのだが。
しかし本音を言うなら、世界を傾けかねないくらいのすごい力がよかった。異世界から来たのなら、そのぐらいの力を見てみたかった。
「やっぱ、現実って地味なんですね」
「地味っていうかなんていうか……奇怪?」
「まぁ、『現実は小説より奇なり』ってよく言うし……」
光野さんの言葉で、場が完全にシュンとしてしまう。
さらに空気を取っ払おうと何か話題は無いか、各々が考え込んでしまうので余計に沈黙が続いてしまう。
耐えかねた俺は、ハァッと息を吐くように、
「じゃあ、それぞれの特技とか言いましょうっ!」
と声を張って言った。
話題を欲しがっていた2人は特に反論も無く、俺の意見に賛成してくれた。
「まず俺から。俺の特技は……」
しかしここでアクシデントが起きる。
話題は出したはいいものの、自分にどんな特技があるかを考えていなかったのだ。
「……」
「……?」
「どったん?」
また沈黙が訪れる。しかも話を持ち出した俺が作り出すという最悪な形で。
俺が考えている間、2人は固まったまま何も喋らない。下手に口を開いて俺の会話を妨げないためだろう。そんな2人の優しさを悟れてしまうから、余計に焦って答えは出ない。
ん? 悟れる?
……これだ!
「あっ、えっと! 俺の特技! 言います!」
「ィヨッ、待ってました!」
「それは…『読心術』ですっ!」
俺はそのまま『心が読める』ではなく、あえて読心術と答えた。変にこの能力のことを喋ればどんな警戒を与えるかも分からない。
だが読心術と答えれば、ただのお遊びとして受け取ってくれると思ったのだ。
「へぇーっ! 凄いじゃん! そんなこと出来んだ!」
「じゃあ、ちょっとやって見せてくんない?」
案の定、これといった警戒心も無く、2人は食いついてくれた。そして光野さんが実際にやって見せてと俺に詰め寄って来る。
こんな風にやったことは無いが、とりあえず適当に質問して答えは悟ればいいだろう。
「じゃあ、質問するね。えっと…まず手始めに、『赤のポスト』」
「……ん?」
「はいっ、それ聞いてどんな形を思い浮かべた? おっと、言っちゃダメだよ」
「あっ、うん」
俺がそう言いながら、光野さんの瞳を見つめる。どうやら彼が思い浮かべたのは、ひと昔前の円柱状のポストのようだ。さらに悟ると彼は小さい時にその形の貯金箱を持っていて、聞いた途端にその形を思い出したらしい。
「なるほどなるほど…あなたは今、『円柱状のポスト』を思い浮かべましたね!?」
「おおっ! すげぇ! 当たってる! なんで!?」
「いやぁ、これも読心術ですよ。タネは企業秘密ってことで」
「えー、なんだそりゃ」
だって、企業秘密も何も実際に読心が出来るのだからどうしようもない。何か心理的作用が働いただとか、先ほどの会話から予測しただとか、そんなことは一切していないのだから。
しかし2人はなかなか諦めず、何とかして俺からタネを聞き出そうとして来る。
「教えろよー、なんか仕掛けがあるんだろー」
「いやいや、どこにでもある読心術だって、プロなんかもっと凄いよ」
「でもさぁ、なんか誘導があったわけでもないしさぁ。前の会話との関連性も見えないしなぁ」
この2人の攻撃を俺は何とか誤魔化し続ける。確かにこの手の読心術には大抵なんかしらのトリックがあるものだが、俺にはそんなものは無い。
「じ、じゃあ、明日の朝までにタネを当てたら、ジュース1本奢る! これでどう!?」
苦し紛れの言い逃れは、なんとか2人をやり過ごせた。
だが、もしも2人が『本当に心が読める』という結論に至っちゃったらどうしよう…
なにせ本人らはかなり真剣に考え、答えを当てようとしているのだから。
次回の投稿もお楽しみに




