決戦の日 〜前編〜
おまたせしました
「…っし」
研究室の中、作業を終えたロボは完成品を見ながら1人拳を握って小さくガッツポーズをしていた。あれから夜も寝ず、休まず、エネルギーの供給も無しの状態で兵器の開発に専念していたのだ。
そしてついに来た決戦の日の早朝に、その兵器は完成を迎えた。
その名は、『対究極生命体超遠距離狙撃用超粒子狙撃砲右腕装着型超兵器、試作零号機』
しかしこの超兵器の使用にはいくつか問題も存在する。1つは使用の際のエネルギーの消耗が著しいこと。この超兵器は装着者のエネルギー、つまりロボ本人のエネルギーを糧に遠距離型光線を放つのだ。それすなわちロボ自身のエネルギーを大量に削ることとなるので、当人はただ超兵器を撃つための存在となってしまうこと。
もう1つは再狙撃が出来るかどうかという問題だ。コンピュータがはじき出した計算によると放射部位及び菅中部位に膨大な熱量がかかるため融解変形してしまう可能性があるのだ。そうならぬよう冷却機能やかかる熱エネルギーも抑えるよう設計したのだが、やはりそこの不安は拭い切れない。
というか実際に撃ってみないと分からない事象が多過ぎるのも事実だ。開発した当人にも想定しうる最低の値しか出せていないので、計算以上のえげつない威力になるのはほぼ確実と言っても差し支えないのだから。
「さて…時刻は午前3時…穏雅、今日のいつ来るまでは言わなかったからな…」
そしてここでさらに問題が発生する。何日間もぶっ通し超兵器を作って来たロボのエネルギーは残り半分近くまで迫って来ていたのだ。ここからエネルギーを供給し、万全の状態に戻すには少なくとも5時間はかかってしまう。普段は夜間の休眠状態中に充電するから問題ないのだが、そんな暇さえ惜しんで来たツケがここに来て回って来た。
ロボは大急ぎで本体を充電ケース内に入れるが、果たして穏雅が来る前に間に合うものなのか。何しろ敵は毎朝4時に起きて2時間トレーニングするという健康第一みたいなやつだから、ロボの充電完了前に来ても何らおかしくはないのだ。そしたらこのためだけに開発した超兵器の登場も無いまま敗北して終わり、7日間は何だったのかということになる。
だがフル充電の状態で超兵器を撃たないと火力不足になる可能性も捨て切れない。敵の強さが未知数な以上、最低2発は最高火力で撃ちたいところだ。だから今ロボに出来るのは完全に充電しきる前に敵が来ないことを祈るしか無かった。
しかし…
プシーーッ
「来なかったな…」
当初の完全充電完了の時刻より5分ほど延びたにも関わらず、敵が来る気配は全くなかった。一応神気の流れも探ってみるが、穏雅の恐ろしき気配も全く感じない。しかしそれはそれでありがたいとロボは超兵器片手に決戦の地へと赴こうとした。すると、
ガッ
「…っ」
「何だ」
行こうとするロボの裾を力強く引っ掴む者がいた。ロボが振り向くとそこには唇をクュッと噛み締め、薄っすらと目をうるわせる美奈の姿があった。今の今までずっとロボの超兵器の開発を止めなかった彼女であったが、いざ決戦の日となるとやはりその心は大きく揺さぶられる。自分の愛する夫を殺しに、いや消滅させに行く殺戮兵器を止めないわけにはいかなかったのだ。
されど当人も分かっていた。自分の愛する夫はもうどこにもいないことを。だから体ではロボを止めるものの心の中では違うと叫んでいる。そんな彼女の手を振り払い、ロボは裏口のドアへ向かう。
今の穏雅を止められるのは自分しかいないのだから。
「止めようと俺は行くぞ。今止まっててもどーにもならん」
「…分かってる、分かってるよ…でも…」
美奈の言葉は弱々しく、今にも泣きそうに震えていた。
「穏雅を殺すの…?」
「死人にその言葉は似合わない。言うなれば、『消滅』だ。お前の夫であり、俺と100年間肩を並べて来たやつの魂は消えてなくなる。そうなりゃ生まれ変わることも出来ない」
「…そんな」
「辛いだろうが、消さなきゃ消されるのは俺達だ。今の穏雅はお前や娘の清さえも手にかけ兼ねないだろうな。それでもお前はアイツを庇うのか」
ロボは冷たくそう言う。突き放す言葉ではなく、事実を突きつける。そんなことしないと美奈は必死に思い込むが、ちょうど7日前に向けられた拳を思い出せば、そんな風に拳を振るう夫の姿が浮かんでしまう。
そこに自分が愛した穏雅の姿は無かった。
「なら…私も連れてって…穏雅が消えるのなら…せめてそれを見送りたいの…」
美奈の出した結論は、愛した夫の消滅に立ち会いたいとのことだった。叶うならば夫の最期をこの目で見届けたいと。
「そうか…」
その言葉をロボは否定もせず、玄関のドアに手をかける。自分らの未来はこの超兵器にかかっているのだ。
「娘は置いていくのか」
「うん、娘に父親の消える姿は見せたく無いの。出来れば側にいてやりたいけど…」
「そうだな、そのためにも速攻で終わらせてやらなきゃな」
時刻は午前8時13分、玄関には大量のマスコミが集まって今日も騒いでいるから、裏口から出ないと決戦の地へ行くことすらままならない。2人はコソコソと目の群れをかいくぐりながら慎重に地獄へと向かう。
しかし地獄の入口にも他のマスコミが集まり、見つからないってのは難しそうだ。
「ど、どーすんの…」
「あー、めんどくせ。煙幕はるから伏せてろ」
ロボは体の内部から手のひらサイズの爆竹みたいなものを1本取り出すと、蓋の部分に付いたスイッチを入れる。それをマスコミの方に投げつけると、
バァンッ!!
という破裂音と共に辺りには煙と悲鳴が立ち込める。
「今っ」
「ひゃあっ」
その隙にロボは美奈の体をおぶるように持ち上げると、飛ぶようにしてマスコミの中を突き抜けて行った。ロボは地獄の業火や極寒の中を極力避けながらある場所を目指す。
「迎撃地点は『針山地獄近辺』な。そこで敵を狙撃、撃墜する」
敵は針山地獄を根城にしているらしく、邪な神気をビリビリと発している。それを感じ取るや敵の強大さに慄くと同時に、無警戒過ぎると少し疑問に思った。
それだけ相手が絶大な力を持っているとも解釈出来るが、神気を探し出せる自分らから言えばこんな分かりやすく位置を教えてくれるのは奇妙過ぎるのだ。普段の穏雅ならこんな馬鹿みたいなことはしないと思うのだが、と疑問を抱きつつロボは迎撃の準備をする。
バクンッ!!
「わっ、腕が」
「付け替えるだけだ。超兵器にな」
ロボは右腕を肩から外すと、持っていた超兵器を取り出した。
「何よこれ」
「『超粒子』っていう…まぁ、分かりやすく言えばレーザービームみたいなもんだ。本当はちょっと違うけど…」
「ふ、ふぅん」
ガチィンッ
ロボは遥か先にそびえる針山にその指先を向ける。すると、
ガチャッ…ガキッ…メギッ……ガギィンッ!!
右腕状だった超兵器はその形を狙撃砲へと変わっていく。
「目標を確認、『Operation Hopeless the Guardian Actioner』、迎撃態勢に入る。美奈、お前はちょっと遠くから見てろ。そうだな、あそこの岩の後ろ辺りがちょうどいい。衝撃波に巻き込まれないようにな」
その忠告を聞いて美奈はスルスルと少し遠くの岩の後ろに隠れる。
するとロボの右腕に装着された超兵器にエネルギーが供給され、ヒュオオオオッと何かが収束していく音が響く。その光景を美奈はただ黙って見ているしかなかった。
ゴゴゴゴゴゴッ……
まだ発射してないにも関わらず、大地はメリメリと揺れ、空気はゴォゴォと渦巻いていく。それは遠くからでもロボの右腕にエネルギーが収束していくのが分かるほどに。
そして右腕内部に超粒子が凝縮、加速を始める。その値はロボのコンピュータが弾き出した値を軽く超えている。それを間近で感じ取りながらロボは最終計算を終えるや…
「発射…っ」
バシュウッ!!
その引き金を引いた。
次回の投稿もお楽しみに




