魔物 vs 死神
おまたせしました
「ぐぅ…グハッ…」
「…」
俺は少し離れたところからその霊を見張った。肉体はすでに無いが、困惑している様子を見るに死にたてほやほやの霊っぽい。
「…っ? なんだ貴様…」
ソイツもどうやらこちらに気づいたようだ。その霊はギロリとこちらに鋭い目つきを送り、敵意と牙を剥き出しにしてこちらを睨んでいる。
その姿、溢れ出る神気と殺気はこの世のものではないことを脳が拒んだとしても強引に理解させられる。
まさに魔物の一言に尽きる姿は俺の体に緊張を巡らせ、一瞬の内に戦闘態勢に入らせた。
「貴様は…その鎌を見るに死神か」
「そりゃそうだ。お前がどこの誰かは知らんが、自覚が無さそうだから教えてやる。お前は死んだんだよ。ここで、今」
「…ほう、それで我の魂を狩りに来たか」
一応話は通じてくれる。見た目の獣臭さに対して知能はあるようだ。ってことは力に頼れないじゃないか。説得とか未練解消とか1番苦手な分野なのに。
と気楽に考えられたらどんなに良かっただろう。
「そうだけど…でもさ、魂狩ります、はいどーぞじゃねぇだろ? 見た感じ…結構な手慣れっぽそうだし」
目の前に立つ魔物は今まで見て来た霊とは明らかに別格の存在だ。そんじょそこらの悪霊が可愛く見えるくらい、強者としての圧を醸し出している。
「くくっ、あの怪物と対面した時はどうなるかと思ったが…死してなお衰えぬ様子は無いと見た。こいつは嬉しい贈り物だな」
大抵の霊は鎌で切り裂きゃ何とかなるのだが…この魔物には文字通り刃が立たないだろう。しかも力が衰えて無いって言うのを見るに、生前元々あった力を持て余すことも無さそうだ。
「そうかい、そりゃ良かったな」
「…ふっ、貴様少し目の奥が引きつっているぞ? 我の力に怯えているのか?」
「…まさか、久しぶりの強敵に腕が鈍って無いか確かめたいだけだ。いいとこにサンドバッグもいるしな」
俺はふっと手を振って関節をほぐしつつ、体の中に自分の神気を巡らせる。するとその流れを感じ取ったのか、魔物もさらに神気をさらに高めていく。
ゴウッ…
「ほぅ…貴様、まさか魔界出身の『妖魔』である、士圭二様と戦う気か?」
「士圭二だか麩菓子だか知らねぇが、死神ナメたら痛い目見るぜ」
シュゥウウウウウウ…キィイイイイイイイイッ!!
ギュウウッ…
…ゴォッ!! ボワッ!!
「変身したか…魔界では珍しくもないな」
「はんっ、珍しく無い=弱い、じゃあねぇだろ」
士圭二と名乗る妖魔相手に、俺は『黄金の戦士』となった。神気の量を測るに『金の瞳の戦士』でも雲行きは怪しい難敵だと判断したからだ。しかし相手もそれに対抗すべく、自らの体内に宿す神気を一気に解放して来る。単純なパワーと神気の総量だけ見るなら相手の方に軍配が上がるだろう。
しかし勝負はそれだけで決まらないことを俺は知っている。
ドヒュンッ!!
ガアッ!!
「…ぐ」
「くくっ、若いのに中々やるではないか…むんっ!」
バキッ!
「っ!」
キィーー…ン……ドグォオオンッ!!
士圭二は俺の体を大きく殴り飛ばし、近くにあった岩盤に叩きつけた。ちゃんとガードはしておいたのでダメージ自体はあまり無いが、どこかパワー負けしてるところは否めない。やっぱかなり腕が鈍ってるし、力の扱い方もボケている節がある。戦っている間に何とかそれを取り戻せるかは、俺がどれだけ敵の攻撃を捌けるかにかかっているようだ。
ギュオッ!!
と戦闘の流れを考えている間に士圭二は物凄いスピードで迫って来る。どうやら俺は戦いながら戦闘の勘を取り戻すしか無さそうだ。
バシィッ!!
「…っ?」
「へへっ、この程度の拳、喰らい慣れてんだよっ!!」
俺は士圭二の拳を右手で受け止め、
ドォンッ!!
左手のカウンターをやつの顔にねじ込んでやった。今度はやつが吹っ飛び、俺が追う番だ。
しかし、
ズザザザザッ!!
「かっ! 効かんなっ、そんなヤワな拳などっ!」
士圭二はすぐ地面に足を付けて態勢を立て直すと、迫る俺を潰そうと待ち構えた。だがその姿を見て引き下がる俺じゃない。被弾上等、むしろこっちが喰らわせてやる。と俺は待ち構える敵に一切臆することなく、ギリと拳を固めてそこに神気をまとわせる。
「っだぁあああっ!!」
俺は声を荒らげながら敵に拳を振るう。
その瞬間、
「ふんっ、甘いわっ!」
ドギュンッ!!
ドボォッ!!
「……っ!?」
キィィイ……ッン
ドサァッ!!
「……ゴホッ!? なっ、ごれば…グバッ…」
いったい何が起きたんだ? 敵が両手のひらを向けた時、やつのオーラと同じ色の何かが放出された。それは俺の腹部に被弾すると同時に、大きく後方へと吹っ飛ばした。受けたダメージは意識外ということもあり、地面に背を付いただけでも思わず血反吐を吐いてしまうほど大きいようだ。
「くくっ、馬鹿め。警戒もせずモロに喰らったか」
「テメェ…ッ、プッ」
俺は血反吐を地面に吐き捨てると、姿勢を低くしたまま構えて迎え撃つ態勢をとる。しかし士圭二はニタリと笑ったままこちらを睨み、見下している。
「ふん、我が『豪波翔』を受けてなお立つか」
「はっ、あの程度で参る俺だと思うか? まだまだ俺は参っちゃいねぇぜ」
「そうか…なら何発でも喰らわせてやろう」
そう言って士圭二は俺の前に手を突き出し、またあの攻撃をしようとした。しかし、
ビシッ!
「ぬぉっ!」
俺は拳でそれを払いのけると同時に、素早く立ち上がる。そして8割程度の蹴りを腹部にねじ込み、多少の距離と構え直す時間を作り出した。だがやつは態勢を崩しながらも、腕の中に作っていた何かを俺に向かって放った。
バシュッ!!
「なっ…」
ヂィッ!!
思わぬ反撃に俺は反射的にかわそうとするも、ほんのわずかに肩の部分をソレは削り取っていった。かすり傷程度だがアレを何度も撃たれるとなると、遠距離用の攻撃に欠ける俺は完全に不利になる。何とか敵の攻撃の仕組みを把握しないと敗北は必至だ。
「はははっ!」
バババババッ!!
「うわっ!」
だが敵は何度もソレを手のひらの中に作っては、俺に向かって投げつけて来た。俺は多少の被弾覚悟で腕の部分に神気を集めると、それを顔の前で交差させて防御の姿勢を取る。完全に防戦一方となった俺は何とか打開策を考えた。この妙な技はどうやっているのか、まさか魔物特有の攻撃なのかと俺はありとあらゆる事柄に思考を巡らせる。
「…っ?」
するとその時、自分に投げつけてられているソレと敵の神気の雰囲気が似ていると感じた。体を巡っている神気がその体を離れ…形となっているのだとしたら…
(もしや士圭二は…)
やってみる価値はある。俺は攻撃を耐えつつ防御に使っていた神気を左手の中に溜めてみる。
すると、
シュィイ…
(…っ! やっ、やった!)
炎が揺れ動くかのごとくメラメラと神気が収束していき、球状の塊を作る。恐らくこれがやつの攻撃の仕組みだ。こうして手の中に神気を収束させ、それをボールを投げるかのごとく放つ。普通オーラとなって放出される神気はすぐに消えてしまうが、球にして高密度に圧縮すれば体から離れても少しの間だけならば大丈夫なのだ。
(なるほど…っ、タネが分かれば何てことねぇっ!)
早速左手の中に溜めた神気の塊を形にすると、
シャアッ!!
右手を犠牲に防ぎつつ、敵に向かってそれを投げつけた。
「っ!」
士圭二はその攻撃に一瞬驚き目を丸くしたものの、すぐさま元の顔に戻り、
「らぁっ!」
バチィンッ!!
と神気をまとった腕で払い除ける。
「こんな小細工っ! ……っ!?」
そして再び攻撃を再開しようとした手を向けたその時、
「なっ…何処へ…」
先までそこにいた死神の姿はどこにも無かった。士圭二の体は硬直し、首をグルングルン回して死神の姿を探した。
その、体も、攻撃も、防御も、何もかも止まった隙を俺は逃さなかった。
「だりゃぁああ!!」
ズゥンッ!!
「グバァッ!!」
俺の拳はやつの肋骨を下からすくい上げるようにねじ込まれ、いくつかの内臓をかき混ぜ、押し潰した手応えを覚えた。急所に入ったとはいかないだろうが、手応えからして確実なダメージにはなっているはずだ。
先ほど左手から放った球を囮に俺は右斜め方向に駆け出し、完全にやつの意識外からの攻撃をぶち込んだのだ。そしてその攻撃は見事必中し、敵は目を見開き、口から胃の中身を戻しそうになりながら悶えている。そこにもう1撃、
ズドォンッ!!
「ゴボォッ!!」
追撃だ。
ズシャッ…
「勝負あったな」
「ぐぉおお…」
とうとう奴は膝をつき、ポタポタと口からよだれ混じりの胃酸を吐きながら手で腹部を抑えている。ちょっと危なかったけど何とか勝てたようだ、が油断はしない。こんな風に追い込まれているやつほど反撃が恐ろしいのだ。しかも相手は俺に『黄金の戦士』まで使わせたやつなのだから。
「さて…あの世行こか。魔界から来ただとか何だか知らねぇけど、来世はまぁ…頑張れ」
「…」
俺は士圭二から目を離さないよう注意しつつ、地面に突き刺したままの鎌を拾いに行った。残念ながら俺達の衝突で刃先が地面から抜けてしまい、べちゃっと倒れてしまったけど。念のために一度振り向くと、士圭二はまだ悶絶したまま膝をついている。見たところ抵抗する気も無さそうだが、傷が癒える前にさっさと片付けちまわないと万が一ということもある。
「んじゃ、成仏しなさいやっ!」
ブォンッ!!
そして死神の大鎌が魔物の首目掛けて大きく振り下ろされた……
その時、
「馬鹿めガァッ!!」
「っ!?」
ギィイイイイッ!!
士圭二の奥の手が発動した。その眼光をモロに喰らった穏雅は鎌をスルンと手の中から落とし、元の黒髪に戻りながら膝からズシャッと崩れ落ちた。
「……」
「くくっ…奥の手というものは最後まで取っておくものよ」
グシッ
士圭二は穏雅の髪を乱暴に掴み、そこから自身の妖力を流し込んだ。
「貴様の潜在能力は素晴らしいな…是非とも我のために使ってもらおうか」
穏雅の瞳は黒く淀んでいき、次々に光が失われていく。それと反するように体からは抑えきれぬ神気が溢れ出し、大切な者達の顔が全て欲で塗りつぶされていく。
「ほぅ…貴様は欲は随分と深いのだな。強さへの果てなき飢え…か、気に入った。貴様は生まれ変わるのだ…欲望のままに暴れる我が下僕としてな」
次回の投稿もお楽しみに




