姉妹喧嘩勃発
おまたせしました
「あ〜…酷い目にあった…」
「俺達は見てて面白かったけどね」
ヒィヒィと荒い呼吸を立てながらぐったりとする央力を見て、俺もロボも笑って見ていた。こんなに悶絶する央力は激レアだからな。
「ったく…アイツら俺の体に何してんだ…ちゃんと作ってんだよな…?」
央力は疲れた顔でぼやきながら、不死身になりつつある体の心配をしていた。こんな不安な顔をする央力は見たことない。俺達はそんな光景にしばらく笑っていたけれど、
(あっ…そういや俺達央力を探してたんだっけ…)
と本来ここに来た理由を思い出す。俺は苦悶の表情を浮かべる央力に、
「なぁ、央力。大勢の受刑者がいなくなったのはお前のせいか?」
と尋ねた。
「ああっ? んなもん知るかよ。空腹に耐え切れ無くなって鎖千切ったと思ったら、次にはもう腹一杯になってたっつってるだろ」
「無意識か…まぁでも俺達はお前を見つけるよう言われてるからな。また檻ん中入ってもらおうか。それと体とやらが戻ったら新しい拘束器具もプレゼントだ」
「ふんっ、俺を閉じ込められる檻があるとは思えんがな」
央力はふっと勝ち誇りながら抵抗をやめる。たしかに施設の大半が倒壊、しかも央力は名の知れた脱獄魔だ。央力を入れておける牢獄など地獄にはないだろう。それにロボの言う新しい拘束器具も今更感が否めない。
きっと上のやつらも手に余る央力をロボに押し付けたいのだろう。ロボも力はあるとは言えそこまで大きな権力を持っているわけでは無いから、よほどの命令じゃない限り逆らえないのだ。
「とにかく頭だけでも央力は央力だ。俺が檻ん中に入れとくからお前はもう帰ってろ。すまなかったな、変なことに付き合わせちまって」
「いや別に。こういう非常事態はなるべく呼んでくれくれると助かる。何せ近くに家族がいるからな」
「ケッ、幸せもんが」
ロボはドンッと俺の胸を叩き、揶揄いつつもどこか羨ましそうな顔でそう言った。そして足元に視線を落とすと、
「おらっ、行くぞ」
「いでででででっ!! 髪引っ張んなっ!!」
央力の髪を引っ掴んで持ち上げた。傍目から見れば、生首を持って歩いているというまさに地獄の3匹の鬼の1匹にふさわしい影を大地に落としている。そんなロボの背中を見送ってから、俺は地獄を出て家族の待つ家へと向かった。
そして央力の闇の中では、今まさに実力者同士の喧嘩が起きようとしていた。
「くひひひ…」
「くふふふ…」
「…」
残忍を司る闇と処刑を司る闇は不敵な笑みを浮かべながら少しずつ始まりを司る闇に近づく。2人は互いに距離を空け横から挟み込むような陣形を組んだ。挟まれたアダムは左右に目を振りながら、迎撃体制を保ち続ける。2対1という不利な状況、それでもアダムは怖じけず主人の体を背にその場を動かなかった。
「それじゃあ、行っくぞーっ!」
「ウェーーイッ!!」
ドンッ!!
そしてついに戦いの火蓋は切って落とされ、2人はアダムに飛びかかった。一気に間合いを詰めた2人は挨拶代わりにヒュッと拳を振るった。
パンッパンッ!!
「へぇ…っ!」
「ひゅぅ〜」
しかしアダムは腕をクロスさせて2人の拳を受け止めた。そして受け止めた2人の拳をギュウッと握ると、
「ふんっ!」
っとその腕を一気に戻し、2人の体をグイッと引き寄せる。軌道上に重なる2人の石頭は…
ゴヂィンッ!!
「いでっ!」
「はうっ!」
気持ちいい音を立てて仲良くぶつけ合った。怯んだ2人の隙を逃さないアダムはさっと素早く腕を離すと、ぐるっと体をひねり、
「でゃあ!」
ドガッ!
「うぐっ」
回転を生かした蹴りをペロロームの腹部へと叩き込んだ。ペロロームは苦しそうな表情で2、3歩ほど後ろに下がる。アダムはすぐさま標的を変えると、グーロズ=ハンゾェにも追い討ちの蹴りを打ち込む。
「ぐぇっ」
グーロズ=ハンゾェもヨタヨタと後ろに下がるが、2人共膝をつくまでには至らなかった。
「ぐっ…ふふのふ、さっすがはアダム、『始まりを司る闇』だ。やっぱ強いなぁ」
「ふぇっ…へへっ、思った通り、そう易々とはいかねぇか」
(やはり効いていませんか…まぁ、何となく分かってましたけど…ね)
ペロロームもグーロズ=ハンゾェもニタァッと笑みを浮かべながら余裕そうに腰を持ち上げる。先ほどアダムが入れた蹴りのダメージはてんで効いておらず、2人共ケロッとしている。
「反応無さそうなご主人様の体より…アダムゥ、お前の方が面白そうだな。お前の悲鳴…聞かせろよ」
「拷問器具ならご心配なぁく、幾らでもデビュ…デビュ…何だっけ?」
「デビュヲートだよ、グーロズ=ハンゾェ。ちゃんと覚えてなさいや」
「悪い悪い。番号ならパッパッパッて出て来んだけどぉね」
ペロロームとグーロズ=ハンゾェはそう言いながら互いの腰元にある拷問器具を取り外した。ペロロームはぶっといペンチ、グーロズ=ハンゾェは刃のこぼれたノコギリを手にゆっくりとアダムに近づいていく。その眼差しは最狂で最凶の鬼の血を受け継いでいると分かるほどに残酷で凶悪だった。
姉妹さえも容易く傷つけられるその狂気っぷりに思わずアダムは足をすくませてしまう。その隙を2人は見逃さず、
「ははぁっ!」
「どりゃあっ!」
ビュオッ!!
「くっ…」
アダムめがけて各々の武器を振り下ろした。
「へへへっ! 逃げろや逃げろっ!!」
「ほらほらほらァ! 気ィ抜くと当たるぞォッ!」
アダムは何とかそれをかわしていくが、2人の狂気溢れる猛攻にアダムは防戦一方に追い込まれてしまった。何とか隙を見つけて反撃に出たいが、2人の荒々しくも綺麗なコンビネーションはその隙を中々与えてくれなかった。
チッ!
「うぐっ…」
「おおっとぉ!? かすったねぇ!」
「危ないっ! 危ないっ!」
そしてついにペロロームのペンチがアダムの頰をかすめてしまった。それだけ2人の猛攻が鋭さと正確さを増し、アダムをどんどん崖っぷちへと追い込んでいるのだ。さらに頰をかすめたことにやりアダムに心理的動揺が生まれ、足が少しばかりもつれ出す。
「トドメはまだ刺さないよぉっ!!」
勝ったとばかりにグーロズ=ハンゾェのノコギリが勢いよく持ち上げられ、そして振り下ろされる。避けきれぬと判断したアダムは被害を最小限に抑えるために、右足を犠牲にする態勢を取った。この後更なる猛攻を受け止め切れるかどうかは分からないが、少なくとも今は体のどこかを犠牲にしなければ被る被害は甚大なものになる。
アダムはくっと奥歯を噛み締めて攻撃を受け止める覚悟を決めた。その時、
どぉおんっ!
「へぶっ!」
「なぁっ!?」
真横から巨大な影が2人を跳ね飛ばした。背丈は割と小さめな2人は予期せぬ攻撃に吹っ飛ばされ、きゅうと伸びてしまった。アダムはハッと巨大な影の方を振り向くとそこには、
「あら? 私、今なんか轢いたかしら?」
おっとりとした顔の抱擁を司る闇がいた。どうやらその巨体に付いている目に2人の姿は入っておらず、気付かずに跳ね飛ばしたようだ。アダムはふぅっと肩の荷を下ろすと、
「何も」
とだけレマッサ・ティアーノに言った。
「あらそう、じゃいいんだけど。ところでアダム、自由を司る闇知らない?」
「いや…特に見てないけど?」
「ふぅん、どこ行っちゃったのかしら…トゥーン・ネチェルと一緒に抱いてたんだけど、気が付いたらどっか行っててねぇ…」
レマッサ・ティアーノはふぅむと困った顔を浮かべて辺りをキョロキョロと見回す。どうやらタプロッツがレマッサ・ティアーノの抱擁を抜け出して何処か行ってしまったようだ。
「でも案外側にいたりしない? それに私達は今この究極の闇から出られないんだから、少なくとも外に出たってことは無いと思うけど」
「そうだけど…でもやっぱ心配なのよ。私が1番大きいし、子守とかも得意な方だからちゃんとしなきゃって思うの」
見上げながらアダムがそう問うと、レマッサ・ティアーノは頰を軽く膨らませてそう言った。心配と口にする程の強い責任感をアダムはレマッサ・ティアーノから感じつつも、探して見つからないのならそれっきりだ。アダムはそこまで子守が得意な方じゃないから、そっち系のことはまるで分からないのだ。
「大変ね、でも探して見つからないのなら…」
そう言って引き続きレマッサ・ティアーノに捜索をしてもらうよう諭そうとすると、
ガジガジガジ…
「……?」
「……あっ」
何やら肉を齧る音が近くから聞こえて来る。アダムとレマッサ・ティアーノはその方向を振り向くと…
「ガリガリッ…あっ」
「……っ!」
「タプロッツッ! それは食べ物じゃないのよ!」
何とタプロッツがご主人様の体にしがみ付き、首筋付近の肉をガジガジと齧っていた。レマッサ・ティアーノは慌ててタプロッツを主人の体から引き剥がし、ぎゅっと自分の中に抱き抱える。
「ど、どうしましょう…」
「うわぁ、綺麗にタプロッツの歯型が…あ、でも治ってく。なら大丈夫じゃないかしら?」
ワタワタと慌てるレマッサ・ティアーノに対し、アダムはそう言ってなだめる。
「とにかく私はここにいるから、レマッサ・ティアーノはタプロッツを」
「分かった、それじゃぁね」
レマッサ・ティアーノはタプロッツを抱き抱えると、そう言って何処へと行ってしまった。やっと一息つけるとアダムはその場にペタンと座ると、主人の体の完成をただ1人見守った。
そしてついに、『究極の闇』にふさわしき肉体が完成した。美貌を司る闇が描くタトゥーも全身に彫られている。
その体に王冠を授けられる王のように、または祝福を受ける子供のように、首がそっと乗せられた。それと同時に切断部分がジュルジュルと音を立てて同化し、完全に1つのものとなる。
「……」
「ご気分はいかがでしょう、ご主人様」
主人の完全なる目覚めをアダムは跪いて迎える。央力はゆっくりと体を動かしてから、跪く娘に対し口を開く。
「あぁ、悪くない。随分と晴れやかな気分だ。例えるなら…そうだな、歯と歯の隙間に引っかかっていたニラの破片がスルンッて取れたあの感じだ」
「例えなげっ…」
「何か言った?」
「いえ、何も…」
娘の態度に央力は首を傾げつつも、まぁいいかとその場はそう思って済ませる。そしてシンッと顔をしかしめると…
「おい、アダム。俺の体を何度も攻撃したのは誰だ…」
とドスの効いた声で言った。溢れ出る殺気を前にアダムは思わずビクついてしまい、喉をキュッと握られたように上手く声が出なくなる。
「えっ」
「今すぐ娘を全員呼んで来い。今すぐだ」
「はっ、はい」
央力から発せられる怒気を感じ取ったアダムは大急ぎで他の闇達を呼び始める。そうしなければ自分の首が飛び兼ねないと本能的に理解させられたから。
次回の投稿もお楽しみに




