終章 肖像画の完成
トントン。
「……ん………誰だろ……?」
目の前のソファには空の毛布。……そうか、あの子、本当に行っちゃったんだ。揺り籠を抱えた旅路へ、再び……。
どうやら見送ったまま、疲労からそのまま眠ってしまったらしい。無意識の内にタオルケットを被ったのは自分でも凄いと思う。
トントントン。「リサさん?まだ眠っているんですか?」
ガバッ!慌てて跳ね起き、玄関ドアに飛び付く。ガチャッ!
「おはようございますクレオさん!済みません、お待たせしちゃって!!」
ああ、きっと髪寝癖付いたままだろうし、低血圧で顔色だって最悪。そんな姿を片想いの人に見せちゃうなんて、何て酷い朝だろう。
「僕の方こそ突然訪問して済みません。実は昨日の夜絵が完成したので、教室に行く前に約束通り見てもらおうと持って来ました」
律儀に説明してくれる。
「ああ、お姉ちゃんの」
「いいえ、あれは本当は」ごそごそとスケッチブックを取り出し、何故か両面を広げてみせた。「こう言う構図なんです」
右側を向いた姉は昨日と同じ。違うのは次のページで同じく笑いながら左側を見る人間――私が描かれていた事だ。違う紙面上の姉妹の視線はピタリと一致している。
「どう、でしょうか?上手く描けていますか?」
上手いどころか、実物よりよっぽど可愛い。クレオさんは写実が得意。つまり彼の目には、私達がこれだけ素敵に映っている理屈だ。
「ええ、勿論!嬉しいな、こんなに美人に描いてくれるなんて!」
「喜んでもらえて良かった。実はこれ、描き始めた最初はシルクさん一人の予定だったんです。でも途中で、どうしても姉妹一緒にしたくて……後で裏からテープで貼り合わせるので不恰好になりますが、大丈夫でしょうか?」
「全然問題ありませんよ、素晴らしい絵ですもの!」
本心からの言葉に、彼の唇が綻ぶ。
「良かった。リサさんのお墨付きがあるなら大丈夫。何とか及第点は貰えるでしょう」
謙虚な自己評価だ。私ならこのデッサン、大金出してでも絶対買っちゃうのに。
「またその内描いてくれますか?出来たら今度はモデルとして目の前で」
「ええ、こちらこそお願いします」
別れの挨拶と共に彼は出て行く。その後姿は自信に満ちて格好良く、思わず惚れ直してしまった。
パチッ!両頬を勢い良く手で叩く。「よし」
あの絵で分かった。私とお姉ちゃんはまだギリギリイーブンで、充分勝負出来る。だって私は健康体だし、機械の腕なら絶対負けないもの!
取り返されたペンダントを握り締める。ブルーダイヤの冷たさが、昨夜の冒険を否が応にも思い出させてくれた。
「そうと決まったら」
壁掛けの受話器を取り、一昨日掛けたばかりの番号をプッシュする。
ガチャッ。『は~い、こちらシャバム新聞社です~。どちら様ですか~?』
「あ、デイシーちゃん、私。……あ、うん。あのね、ちょっとエルシェンカ様に頼んで欲しい事があるんだけど――」




