2.呪い
少し早めに朝食の席に着くと、ほぼ同時に両親も席につく。2人とも疲れた顔をしていた。
「コナン」
父から名を呼ばれ、目と目で「今回も駄目だったな」と語り合う。
ちなみにコナンは今の名前なのだが、史郎の記憶のせいで毎度アニメキャラが脳裏にちらつくという弊害がある。困ったもんだぜ。
母をチラッと見ると、ここに来るまで泣いていたんだろうな。予想通りというか、なんというか、今回も目の端が赤い。今も唇を震わせているから、涙がこぼれないように頑張っているのだろう。申し訳なくて、心の中でごめんと呟く。
外では気丈な王妃だが、母親としてはとても涙もろい人なのだ。
とはいえ、末の息子が苦しみながら死ぬのを9回も見てるんじゃキツイわな。いや、俺もきついんだけどさ。
この夢を見てるのは俺だけではなく、両親も同じ。
そしてそのきっかけは俺が生まれた日まで遡るのだ。
俺は少し早産で、嵐の夜に生まれた。
母にとっては十数年ぶりの出産だったが、兄と姉は相当な安産だったこともあってか、特に心配もしていなかったそうだ。
その日、王である父はドラゴン討伐の指揮にあたっていた。
王太子である兄は14歳。父につき、初めて討伐に参加。まだ12歳だった姉は城で母と共に留守番をしていた。
俺が生まれる予定まであとひと月近くあるはずだったが、出産というのは予定通りに進むものではないらしい。
いつもよりひどい嵐の中、ずぶ濡れの伝令が駆け込んできた。
――王太子、重傷。
その知らせが引き金になったのか、産気づく母。
城の中も嵐のようだったという。
日本と違って産院があるわけではない。王妃であっても赤ん坊を取り上げるのは産婆と呼ばれる魔法使いの女性で、あとは侍女たちが湯を沸かしたりするなどの手伝いをする。
この場は王であっても男子禁制だ。
母は痛みの中、気丈に城を切り盛りした。
そして深夜に俺が生まれると、嵐は嘘のように静まったという。
ほどなくして重傷を負った兄と、ドラゴンを討伐した父が戻ってくるが、兄の命は風前の灯火だった。
出産の手伝いに来ていた魔法使いの産婆は治癒の力も使えるが、それでもかなり厳しい状況。兄は、のちの騎士団長である親友をかばって怪我をしたのだそうだ。
「守られるべきはあんたでしょうが!」
俺の剣の師匠曰く、彼はそう言って怒るように泣いていたという。
ほんとにそうだが、兄ならやるだろうなとも思うのだ。
そんな中、魔法使いは悩みに悩んだ末、ひとつの提案をした。
王が持ち帰ったドラゴンの鱗があれば、いにしえの精霊が呼べるかもしれない。王家の始祖はドラゴンに襲われていた精霊を助けたことで、その精霊と契約をしていたから、子孫の願いも聴いてくれるのではないかと。
いちかばちかの賭けだった。
普段森の奥の湖からめったに出てこない魔法使いの力も借りられたのは、偶然俺が生まれたから。その幸運は偶然ではないはず。
その想いを胸にした両親の必死の願いは届き、精霊は現れた。
しかし、精霊とはいえ命をつなぐのは容易ではない。
ならば自分の命を差し出すと言った父母を「それでは足らぬ」と抑えた精霊は、生まれたばかりの俺に目を付けた。
「新しい命には多くの祝福が宿る。この命を使おう」
赤子が殺されるのではと皆が真っ青になったが、使うのは宿った祝福の力だけだと精霊は言った。ただ祝福をすべて使うのは危険だ。赤ん坊の命は祝福の力で強くなるものだから、それを差し出すのはすなわち短命の呪いをかけられたも同然になってしまう。
しかし精霊は俺の命をつなぐため、祝福の代わりになる保護の鎖を心臓に巻いた。保護ではあるが、同時に俺の命を奪う両刃の剣を。
「この鎖はそうさな。22歳まではもつだろう」
兄を救うために22歳までしか生きられない弟。
生まれたばかりの赤ん坊に、そんな呪いをかけてもいいはずがない。
しかし、呪いと解呪はワンセットなのだろう。精霊はその方法も教えてくれた。
「22歳の誕生日までに運命の相手と口づけを交わすことで、祝福の力は取り戻せる」
――と。
とはいえ、解呪のために手あたり次第口づけることは推奨しないこと。なぜなら、間違った相手との口づけはその分命を縮めてしまう。
精霊の力が込められた鎖は10本。
失敗するごとに鎖は剣に変わり俺の心臓を貫くが、10回まではチャンスがあると聞き、悩みに悩んだ末両親はそれを受け入れた。嵐の夜に生まれた子は強運を持つという言い伝えを信じたのだ。




