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第34話 誤算

 頬を腫らしてベットでぐったりしている彼が居る。不意打ちを食らったという感じだ。相手が女の子で油断したのかな。あるいは、殴られてやったのか。

 彼の唯一の誤算は、油断した体には、彼女のパンチは想像以上にキツかったということだろう。


 何があったのか想像はつく、ジョアンナのあの恰好、口調、表情。ボクの失態だ。きちんと話しておけば良かった。でも、まさかこうも彼女が早々に積極的に行動に出てしまうなんて、想定外だったよ。


 にしても、これがあのクラリッサさんが化けた姿だとは到底信じられない。完璧にアイツなんだもんな。股間のナニも含めてさ、言動や、思考が、見事にうり二つなんだからな。ここまで似せられる程の潜入工作なら、成功率が高いのも頷ける。

 でも、流石に顔は似せられない思ったんだけど、髪を銀髪に変えて、短くして、顎を尖らせると、かなり似てしまったから驚きだ。遺伝子的に似てるんじゃないかと思うくらいだ。アイツの血筋にもアジア人があることは分かっていたが。これも何かの巡り合わせなのだろうか。


 アイツ、アルは、ボクの本当の弟じゃない。国として成り切れなかった最果ての地、名もない、いや、名前はあったんだけど、誰も記憶にとどめなくなったんだな。

 そこは、ガラクタを売って生計を立てている居留区で、彼は、改造した機械を売って暮らしていた。その成りはボロをまとった悪臭漂う浮浪児だった。


 ガラクタとは言っても、今ではその製法すら分からない希少なモノであふれており、それを捜しにボクは時折、その地を訪れていた。それを元にレプリカを作れば、高値の売り物になる。実際、このおかげでかなり儲けさせてもらった。


 ボクがクラリッサビレッジのペントハウスに住まいを置いているのも、これのおかげなんだ。ビジネス・ウオリヤー・ガードは、そこそこ名の売れた上場企業とはいえ、そこの研究室の所長の給料ではとてもあんなところには住めないからね。


 終戦と同時に、ボクは、軍隊を退役した。歴史の遺物のコピー商品を製造販売してたのさ。


 最初は、自分でガラクタをあさっていたんだが、せいぜい一か月くらいしか居ないので、次第に良いものを探せなくなってしまった。

 そこで市場に出向いたら、すごいお宝を扱っている古物商がいたんだ。それがアイツだったというわけさ。一般人にはどれも汚いガラクタに見えただろうが、ボクの目にはそう見えなかった。そして、アイツもそれが分かっていた。


 値段の交渉はすんなりはいかない。子供の駄賃でごまかされるような奴でないことは、直ぐに目つきで見抜けた。アイツもそれなりに吹っ掛けてくる。ボクの目つきでその価値を見極めていたと、アルを引き取った後で話してくれた。


 オレはアルが気に入ったんだ。かつての自分や自分の仲間に見えたのかもしれないが、

アルを引き取ったのは、単なる興味本位の行為だったんだ。特に深い考えがあった訳ではなかったんだ。


 オレはアルを全寮制の学校に行かせて、これまで生活を支援したんだ。奴を兄のように慕う女の子と一緒にさ。

 かつて、ゲオルグおじさんが、家族を亡くしたボクにしてくれてたように。今ではそれが、何となく自分の義務であったかのように思えたんだ。


 本物のあいつは、クラリッサ・ビレッジでバカンス中なんだよな。ビレッジフリーパスをもらって研究施設の見学、研究業務も出来て今後は就職も可能、そして、南国の島の高級リゾート的な仮想リゾートを満喫中なんだよな。全く、羨ましい限りだ。


 でも、こんな身近に、彼女と同調できる同年代の若者が居たのはラッキーだったよ。性別の違いを除けばだけど。更には、アイツの妹の名前が、クロエで、デザイナー志望というのだから、これ何かの一致。


 彼女の妹のクロエさんとはまだお会いしていないけど、昔の情報によるとほぼ双子のような容姿で、髪の色が黒ってところが、唯一の違いらしい。最もここ数年で、彼女は筋肉をつけて絞っているので、見た目は15歳の頃とは随分と変貌して、かろうじて姉妹って雰囲気らしいとか言ってたな。


 ついに、彼女とは体を重ねる関係にまで発展してしまったんだが、そこまで行ったのにこれが変装だと微塵も感じないだなんて。生体フォーミングは、もはや変装の域を越えてしまっている。


「恐るべきテクノロジーだよ全く」と、ボクはため息を吐いた。


 しかし何故に、トロイメライ救出作戦に、クラリッサさんによる弟アルへの偽装が必要なのかと言えば、これが全く必要無かったんだな。


 それは、この計画にゲオルグおじさんが元軍人であることや採掘技師としての腕を見込んでのトロイヤ組織からの協力要請があり、それならばと、彼女が、自分が目覚めたことで居なくなったトロイくんを復活させて、地殻潜入までの航海の時間でも彼らに恩返しがしたいとかって出たことに端を発している。


 トロイヤ組織は新鋭の海底掘削船をゲオルグおじさんに貸し与えた。戦艦並みの装甲と武器も搭載している船で、アルも設計の一部に関わっている。これも偶然の巡り合わせだったのだろう、こ作戦には到底関係の意味が無い筈のアルの記憶と経験がここで役に立つというわけだ。


 クラリッサの記憶の中にトロイくんは居ない。トロイくんは偶然の産物だったのだ。彼女はトロイメライの記憶と思考を植え付けられ、その上でボクの戦闘経験が植え付けられた。そして、彼女の自我が埋没されることによって生じた副産物だったのだ。

 同じような状況を作りだすことで、トロイくんのように思考する新たな自我が形成される可能性にかけてみたのだ。


 彼女の賭けは成功した。完璧なまでに、彼女はアルになり、その思考や振る舞いはトロイくんだった。

 

 やはり性別をオリジナル通り、雄にしない方が良かったかな。でも、性別、オンナにしちゃうとアイツの記憶と思考が混乱をきたすからな。トロイメライのデータはラボには無かったんだ。調べられると素性バレとかイロイロと不味いからなんだろう、博士は完全に抹消させていたんだ。衛星や深海のバックアップセンターにも残ってなかった。

 

 はてさてどうしたものか。目的の海域に行くまで10日ほど、アルの状態からクラリッサさんに戻るのが決行の2日前からになるから、トロイくんで居られるのはせいぜい一週間ってところだ。初日がこれじゃあ、あと、どうするんだ。ボクとしたことが、浅はかだったよ。

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