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第13話 汚バサン

 エレナさんがボクの過去を知っている。これは寝耳に水というか、ボクにとっては天地がひっくり返るほどの、・・・・旨さだった。


「ハルさん、このステーキとっても美味しいです。口の中でとろけて、肉じゃないみたい。お野菜も新鮮で、ご飯の炊き方なんか、ジョアンナも結構いい線まで再現してるけど、かなわないかなって、何もかも極上です。

 このお酒というのも、淡い辛口でフルティーでとても料理にあいます」

 ボクは、すっかり、和牛和膳フルコースの虜になっていた。


「ちょっと、トロイメライ。何やってんのアンタ」

 おやおやエレナさんがお怒りだ。

「アタシのあの衝撃の告白にもうちょっと驚いてよ。あれって、和食の芳香で忘れるレベルじゃないでしょ。

 アンタって昔からそういうところあるのよね。もう、食べてばかりいないで。なんで、今、アンタがこういう状況なのか説明しなさいよ!」

 すっかり、エレナさん、しゃべり方が変わっている。昼間のクールビューティな、科学者の装いは全くなく、コンパの女子社員か女子大生になっている。


 でも、なんだろう。このご飯って、初めてじゃない気がする。でも、何度もは食べていない。かつて、食べたことある感じだけど、それをもう少しグレードアップしたような味に感じてる。


「あのさ、ほんとにトロイがヲタエレナの親友なの?」

「ジョアンナ、もうちょっと小さい声で、別室の同僚に聞かれちゃうでしょ。いずれは話す予定だけど、一応、今は内緒なんだから、」

「もう、みんな気づいてるんじゃないの。3年前のあの汚エレナさまを」

「あそこの職員は2年前にあそこに研究所を創設したときからの社員だから知らないわよ。

 掘っ立て小屋時代の連中は、本社の研究所にいるから」

「でも、あちらとの交流とかで、話が出たりしてるんじゃないの?」

「奴らには大金掴ませて、契約まで結んだからそれは無いわね」

「ヲタな過去って、そんなにマイナスになることでも無いでしょ」

「今となっては無効でもいいんだけどね。目的は半分果たせたし」

「目的って?」

「30前までに、頭が良くて、いかす金持ち男と結婚して、子供産むことよ!」

「なるほど。半分ていうのは、このおぢさんが、家庭は持ちたくないって言ったからなのね。さらに、このおぢさんの正体を見抜けなかったということね。納得、納得」

 ジョアンナはご満悦の笑顔だ。

「ジョアンナ、アンタね。年長者をちょっとは敬いなさいよ」

 あらら、エレナさん。ジョアンナからも軽く流されてる。この人、本当に昼間のクールビューティな科学者と同じ人なの? さっき、ドレッシングルームで入れ替わってないかな。

 それにしても、所長、もとい、キースさんも、エレナさんもジョアンナたちとは付き合いが長いんだ。


「あのう、キミたちさ。ボクを挟んで『あのおぢさん』とかい言うのやめてくれる?ボク、今、すごーく傷ついているんだけど」


 あはは、キースさん涙目だ。ボクは目の前の料理に夢中だよ。さて、お次は蟹しゃぶと行きますか。さっき、板前さんが食べ方を教えてくれたから。

 まず、甲羅が外された蟹の足を箸で掴んで、蟹出汁に10秒ほどくぐらせて、蟹の身が花開いたところを、そのままいただいたり、刺身醤油やポン酢につけていただくと、うーん美味しい。


 でも、荒野は食材も豊富じゃないのはわかるけど、あの山の牡蠣ってのは無いよねー。サバイバルでは、唯一、生で食える部位とか言われているらしいけど、モノがねえ。

 男性はあまり食う気がしないだろうけど、そこはジョアンナ様の魔法の力でそこそこ食えるものにしちゃうんだよねえ。食感は牡蠣というよりレバーに近いんだけどね。

 あのおぢさんの山の牡蠣は、エレナさんの好物だったかもしれないけど。


「トロイさん、すごく食べるね。お腹は大丈夫かい?」

「ハル、気にしなくていいわ。このコすごく代謝が高いのよ。少々食べても太ったりしないから」


 そうそう、ボクは新陳代謝が高いとノラ・ミャンオン先生が言ってた。栄養をしっかり採っていないと体がふらふらしてくるんだよね。ジョアンナのご飯は、それが十分だから最高さ。

 でも、ジョアンナがハルさんのところへお嫁に行っちゃたら、みんな普通の料理人で満足できるのかなあ。そうだ、ボクはどうするんだろう。それまでには記憶が戻って、元の生活に戻ってしまうのかなあ。

 元の生活かあ、実感ないなあ。記憶がないからだけど、なんか、ここにいる方が幸せ感じるのだけど。


 ボクは、急に今後のことについて考え込んでしまうのだけど、目の前の美味しいご馳走を見ると、今はいいや!で考えなくなっちゃうんだよね。ああ、お寿司が美味しい!

 ちょっとガリで、口の中を整えて、今度は何にしようかな。 


「板さん、こはだと鯛をお願い!」

「へい、」


 ハルとジョアンナの会話は、横で聞いていても、いい感じだ。本当にこれがあのジョアンナ?って思える。女は恋をすると美しくなるとかいうけど、まさにこれはそれだ。


 彼女のハルへのボクについての話は続いている。

「それでね、このコ、体が結構鍛えてあってね。腹筋が割れてるのよ。

 うちのママも、お姉ちゃんも、動く家の女性掘削工は全員腹筋割れてるから、珍しくはないんだけど。

 トロイみたい、外見はマッチョじゃなさそうだから、ちょっと意外なのよね」

「もっと凄いのは、その身体能力よね。指がかけられるような、ちょっとした、縁さえあれば、壁も天井も自在なのよ。その動きたるや、まるで蜘蛛だわ」

「へー、そいつは凄いね。トロイさんは、ボルダリングでもやってるの?もしかして、ボルダリングの選手とかかな?」

 ボクはそれについて返事はせず、笑ってすませたけど。ハルは大人だ、しつこく突っ込んで来ない。


 それに、それはないと思うんだ。そんなメディアに顔出すような人だったら、この一か月でなんらかの形で、行方不明とかで騒がれたりしてるだろうし、顔写真がメディアに出てもおかしくないはずだもの。

 でも、レジェンドンが言ってったっけ、全く一件もヒットしないのは逆におかしいってね。そうなると、嘘くさい第三王女説を裏付けるようで嫌なんだけど。

 でも、姿を消す前のボクが、自分の姿がネット検索でヒットしないよう細工していたとしたなら、ボクがエレナさんのネット仲間のトロイメライ説ってのもあながち嘘ではないのかもね。


 それにしても、エレナさん。さっきすごいことしてきたよなあ。どさくさにまぎれて、ドレスのスカートを、左足の付け根がみえるぐらいまでめくり上げなくてもいいじゃないか。おかげで、兄貴がくれたドレスがくしゃくしゃになっちゃったよ。


 ハルが綺麗なガラの浴衣をプレゼントしてくれたから、事なきを得たけどさ。たとえ、同性でも、あれは強制猥褻に相当する行為なんだからな。

 すぐに、事故とか取り繕ってたけど、あれ絶対めくってたよ。まさかエレナさんは、少女の足の付け根フェチなのかな。実はとても変態さんなのかも。なんせ、年季の入ったヲタ女子だったのだし。あ、今もか!


「くおら、トロイメライ!」


 いい気分で、お寿司を食べていたのに、酔っ払いの年季の入ったヲタ女子オバサンから、脳天に拳骨を見舞われてしまった。


「あんたさっきから、なに、心の声のつもりで、ぼそぼそ独り言してんだ。しっかし、はっきり、声に出てますけど、みんなにまる聞こえなんですけど!」

 みんなもお酒が入って、笑いが出てる。ボクもケタケタと声を上げて笑ってしまう。

「あー、その笑い方、まさに、アタシが知るトロイメライよ。あんた記憶喪失とかって本当なの。アタシにはだんだんと、トロイメライにしか見えなくなってるんだけど」


 何このヒト、ボクがオバサンの知ってるヒトに似てるってだけで、この厚かましさ。さっきは、勢いに押されちゃったけど、ジョアンナのあしらいからして、オフ時の姿はあまり信頼されていないようだし。

 それに科学者ならもっと冷静に、事実を掘り下げて、結論に導くとかないの?


「アタシが少女の足の付け根フェチ? 年季の入ったヲタ女子? アンタも似たようなもんじゃない」

 もう目が座って、足もひらいちゃって、ビジネススーツのショートスカートから汚パンツが見えそうですよ。スケベな下世話男ならコーフンしまくるところだろうけど、同性のボクには醜悪で汚いモノにしか映ってませんから。

 そんな汚いモノを視界に入れようって言うのなら、ボクは戦います。このオバサンと!

「それは聞き捨てなりませんね、エレナおばさん!」

 ボクは、このしつこい酔っ払いオバサン、いえ、これはもう汚バサンですよ。この汚バサンにちょっとキレましたよ。

「おば、・・・くー、やっと本性出たわね。演技をやめたのトロイメライ!」

「演技?それなんです。さっきから五月蠅いんですよ。ボクはボク。ザックとジョアンナの妹のトロイですよ。

 だいたい、汚バサンとは今日はじめて会ったんですよ。いくら酒の席とはいえ、ハメ外しすぎ。汚ジサンも汚バサンも本業に徹した方が素敵ですよ。みっともなすぎ。

 そのトロイメライとか言うヒト、ボクに容姿が似てるってことだけで、よくも、そこまで食いつきますね!」


 さあ、ババア覚悟はいいか!

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