034 旅のしおり
再び、小川に沿って目的の国へと歩み出した。
クレハの歩みはだいぶ上達したと思う。とはいえ、やや危なっかしい所はあるので、躓き転ばない様にと手を繋いで歩いている。
何となくではあるが、幼稚園の遠足の引率者なった気がしている。まぁ傍から見れば私は只の年長組に映るんだろうけど。
「これからの生活に向けて大切な事があります。リトは問題ないでしょうけど、クレハはたいじょうぶですか?おはなしできますか」
道化者が頃合いを見てか、問い掛けてきた。
「う、ん。だいじょうぶ。だよ」
躓かない様にと足下を見つめながらクレハは答える。
「そうですか。それは良かった。しかし大丈夫との事ですが・・・まだ、たどたどしいですね。では、わたくしもクレハの足下に注意をしながら、ゆっくりと話すとしましょう」
「だいじょうぶ、だよ。リトといっしょに、きくから。でもリトたよりでごめんね。だけど、わたしのぶんもよろしく、だよ」
結局は人任せかよってツッコミしたい所だけど、転ばない様に注意して歩くなら聞き漏らす事もあるだろう。仕方が無いと自分に言い聞かせる。
歩くのもそうだけど、話すのもだいぶ慣れてきた様で内心ホットしている。会話が出来るまで時間がかかったらどうしたモノかと心配していたので徒労に済んで良かった。
だけど、今のクレハの話し方は何となく変だった。平坦というか無アクセントな発音なので、ちょっと違和感がある。・・・方言?いや、訛りと言った方が良いのかな。同窓が同じように無アクセントで話していたのを思いだした。そういえば彼の出身は何処だっただろうか?
同窓とか過去の事は今更どうでもよいか。それよりも今はクレハが話せる様になった事を褒めてあげたいと考えている。
「先ず、国の門へはリト達2人で行ってもらいます。わたくしの案内はその手前迄です」
「おい待てよ。中途半端に放り出すっていうのかよ」
「国の中まで案内できるなら、こんなに離れた所に現れたりしませんよ。それに一緒だとわたくしが誘拐犯みたいではありませんか」
「服装が変だとか、そう云うのは自覚してるんだな」
「変な格好ですか?まぁ否定はしませんよ」
アッサリと受け流されてしまった。「この衣装のデザインの何処が可笑しいのか~」とムキになるのかと思っていたので拍子抜けだった。
ふと、メフィストの姿なら問題ないんじゃ?と言いかけたけど、案内して国に置いて消え去られたら、私達は捨てられた子供って事になるかもしれない。
メフィストの容姿では、亡き夫と縁を切って新しい夫と暮らす為に邪魔な子供を捨てた鬼女扱いされるだろう。その鬼女の捨て子と噂されるのは嫌だな。
これって、模範解答って有るんだろうか?
「それでですね、2人の立ち振る舞いですが、羽振りの良い行商の子息子女だったという設定です」
「おいおい。手ぶらで、しかも子供だけで行商とか怪し過ぎるじゃないか。それに羽振りが良いってのいうのは実感できないんだけどさ」
「まあまあ、話しは最後まで聞いて下さいな。この世界の人々で、つぎはぎの無い服を着られるというのはそれなり裕福な証なのですよ。それでですね、家族含め隊商の皆で移動中に魔獣とか魔物、盗賊でも構いませんが、襲撃に遭ってしまい護衛の方々の応戦も空しく散ってしまった訳ですが、運良く2人は逃げる事ができた。という感じです」
「子供だけが逃げ切れたって云うけど、子供の脚で盗賊や野獣から逃げるとか無理なんじゃないか?」
「散り散りに逃げたので家族や仲間の消息が不明って事です。全滅ではありません。それから、リト達は物陰に隠れて運良く見つからずに済んだ。という感じです。夕暮れになってやっと脅威が去ったけど、これからどうして良いのか途方に暮れている所、遠くに薄明かりが見えたので、助けを求めて歩き出した。という設定ですよ」
「夕暮れ時に目的地の国に着く予定って言ったのは、そういう『設定』が有ったからというのか。だったら最初に言ってくれよ。無駄に急いで損した気分になったじゃないか」
「それは失礼しました。クレハが肉体に慣れるのを優先してましたので、説明するのをうっかりしてました」
「うっかりって気軽に言うなよ!重要なじゃないか?しれっとした態度で受け流すのは止めろよ」
「わたしの・・・わたしのせいなの?わたしがわるかったの?めいわくかけちゃったの?」
突然、クレハが涙目で訴えてきた。しまった!失言だったと焦った。
「え、いや、クレハは悪く無いよ。早く体に慣れようってがんばってたじゃないか。私の方こそ気付いてやれずにごめんな」
言い訳しそうな自分を戒め、頭を撫でながら素直に謝った。
「姉弟仲が慎ましいくてなにより。それに忘れていた訳ではありません。別れる頃合いで伝えようとしていただけです。わたくしの用意した旅のしおり・・・改めて、案内のしおり的に優先事項を用意していましてですね・・・、
1:紅葉様(今はクレハに改名済み)が新しい肉体に慣れる事。
2:目的地の言葉を覚える(片言事で良いから最低限)
3:名前を変える事。日本名のままでは転生・転移者と気付かれる危険が有るし、それに目立たれては困ります。
4:国に入ったら従うというか、郷に入れば郷に。
5:『祝福』スキルを与えることが出来ない。
と、まあこんな感じであります」
「目立つな!というのが目的が分からん。どういう意味だい」
「言葉の通りです。折角の静かな生活が綻んでしまいます。冒険したいなら武勇を広める役目を負いましょうが、リトの目的は平安で安静なのです。波瀾万丈な生活は嫌だったはずではなかったでしょうか」
「どうしてわたしたちには『しゅくふく』がないの?
首傾げて可愛らしく問い掛けるクレハ。
「その答えは、後程とさせて頂きましょうか。今は無理です」
「また制限ってやつか。ったく面倒くせぇ!」
「そう云われましても、私が決めた訳ではありません。上が決めた事ですので、わたくしに八つ当たりされても困ります」
道化者は人差し指を高く上げていた。
上っていうと、悪魔は神様や天使よりも階級制度が厳しいらしいが、メフィストの階級ではどの辺だろうか?ファウストの物語では天上の主と賭け事をする位だから相当だと思うのだが・・・。
「・・・リト、聞こえてますか。聞いてますか」
「は、はい?何だい」
「・・・また、余計な事を考えて上の空になっていましたか・・・」
道化者は深いため息を交えて話す。
「生きる為にしっかりと考える事は大切と思います。ですが、考えすぎて上の空になっては本末転倒です。置かれている状況をしっかり把握して下さいな。これまでのやり取りも3度目なのです。流石に煩わしくなってきました」
・・・え?
ええ?!
3度目だって???
「ちょっと、待ってくれ。3度目って・・・まさか、2度死んだのか?やり直しをしてるのか?」
「その通りです。しかし収穫が1つも無くかったのはとても残念です・・・それで、仕方なく始めからやり直しているのです」




