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幾早年ぶりの来客

幾早年は言い過ぎってか誇張です

魔女の館の実在を知る者は少なく、所在まで知る者は更に限られてくる

知っていても白龍に守られた館に近付く命知らずはいない

そんな館の扉を叩く者がいた

待てど暮らせど反応は返ってこない

何せ魔女が書庫に籠もって以来、来客が来たことがなかった

本を読んでいる魔女は勿論、弟子も気付かない

気付いても風か何かだろうで終わる

痺れを切らした来訪者は乱暴に扉を蹴り開けた


「魔女さん!お邪魔するわよ!」


図書館の荘厳な雰囲気を破る突然の騒音に驚いた弟子は読んでいた本から顔を上げた

伊達に長生きしていない魔女は落ち着いたもので、区切りのいいところまで本を読む

侵入者は足音を隠そうともせず魔女と弟子がいる部屋に入り込む

魔女は満足気に吐息を一つ

本に何かの羽を挟んで閉じ、侵入者を歓迎する


「やぁ、聖女様がこんな辺境の地に何の御用かな?ご先祖様の秘境を返せというのならお断りだよ」


何百年

下手をすれば何千年ぶりの来客に魔女は普段通りの調子で迎える

館全てに魔女の目は行き届いている

本を読みながらでも来客を観察し、何者か把握するのは容易である

しかし、懐かしいような寂しいような複雑な気分だ

魔女の館に近付こうとする者は白龍に悉く追い返される

だが、例外も存在する

魔女が友と定めた者に白龍は基本的に危害を加えない

白龍はその血族も例外として扱うようだ

それとも、侵入者が余りにもかつての友人に似ていたから本人だと思ったのか


「あら、流石は伝説の魔女さんね。私が誰だか分かってるみたい。土地については何も言わないわ。そんな大昔のこと引っ張り出すなんてみっともないでしょ」


聖女は我が物顔で椅子に座る

数ある伝承で《本の魔女》は畏怖される代名詞

その本人を目の前にして物怖じしないところも友に似ている

後に聖女と呼ばれることになった修道女()に出会ったときも、早とちりして魔女と白龍に手を出してきた国を廃墟にしたときだったと懐かしむ


「コホン。いきなりの訪問、謝罪します。私はハイベル・リリーエと申します。ご存じの通り、初代聖女様の末裔です。以後、お見知りおきを」


咳払いを一つ

聖女は丁寧な口調に変わる

魔女は微笑む

中身まで古い友人にそっくりだ

友は腐っても聖職者なので必要なら外面を取り繕う

というか気を許したものにしか本性を現さなかった

彼女の本性を知った者は女狐め、と笑う、或いは項垂れた

あの頃は楽しかった


「ご先祖様の遺産を漁ってたら、偶々、魔女さんの情報が出てきていてもたってもいられず飛んできたんだけど本当に魔女さんがいるなんて感激だわ!」


ハイベルは憧れていた魔女の実在に跳び跳ねて喜ぶ

埃がたつのなんてお構いなしだ

騒々しいハイベルに迷惑そうで、どこか怯えた表情を向ける弟子

彼女は落ち着きを持った大人としか交友がなかった

同世代の、かつ、ハイベルのような人種は未知の生き物に見える

そんな弟子の様子を見て魔女は話を進める


「盛り上がっているところ申し訳ないんだけど、本題に入ってもらえるかな?」


「それもそうですね。魔女さんに会いたかったのは事実なんだけど、お願いがあって遺産引っくり返して見つけ出したんだもの」


やはり、ハイベルは咳払いをして外面に切り替える

咳払いするのが癖なのだろう


「星屑教会の聖女として《本の魔女》様に乞いに来ました。各大国に対して抑止力となる勇者様を地下迷宮より引き出して欲しいのです。これはフレイシャからの正式な依頼と取って貰って構いません」


勇者

弟子と同じでこちらの人間の都合で連れてこられた人間

魔女の住まう大陸には六つの大国があり、そのそれぞれが勇者を一人所有している

扱いとしては暴走の危険がある生物兵器

勝手に連れてこられて怒らない物好きもいれば、当たり前に怒り報復する者もいる

当然、各大国勇者が乱心しても対処できるように策を打っている

フレイシャではどのような対策を取っているのか長い時、外に出なかった魔女の知るところではない


「……成る程、理解した。けれど、私が出張る必要はないと思うな。勇者が引き籠っているのは地下迷宮の最下層なのだろうけど、決して到達出来ない訳じゃない」


「それがお恥ずかしい話。現代、ギルドの猛者の誰もが最下層はおろか70層より下に挑めないのです」


「そんなにフレイシャは弱くなったのかい?それとも、地下迷宮が成長したのかな」


「両方です」


「へぇ?そうかそうか。分かった。気が向いたら地下迷宮の最下層に行くよ」


「気が向いたら、ね。期待してるわ魔女さん」


魔女は地下迷宮に赴くことはない

フレイシャは初め魔女に襲い掛かってきた

不快だが、友がいたから手伝ってやった

この間、外に出てみたついでに書物を軽く漁ってみたが物語で《本の魔女》はすっかり悪者扱いだ

そんな恩知らずの国の依頼を受けるほど人格者ではない


「そうそう、フレイシャの依頼なんてどうでもいいんだけど」


聖女が聞く者が聞いたら卒倒しそうなことを口にしながら、一冊の本を魔女に差し出す


「魔女さん、本が好きなんでしょ?千年近く外出てなかったみたいだから今のフレイシャのガイドブック。私お手製よ」


「これはありがたいな」


「それじゃ、また遊びに来るわね。今日は会えて嬉しかったわ。結婚したいくらい」


聖女の軽口に魔女は取り合わず手をヒラヒラ振る

反応してやると付け上がる

友はそうだった

来客は嵐のように去っていった

終ぞ一言も発さず隅で動かず本を読んでいた弟子は聖女が出ていくや否や新しい本を求めて歩き出す

思っていたより人見知りのようだ

魔女は苦笑する

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