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やぁ、おはよう

「やぁ、おはよう。自分が誰だかわかるかい?あぁ、名前は言わなくてもいいよ。今から私が新しく付けてあげるから」


「遠慮します」


モーニングコールを頼んだ覚えはありません

朝は静かに起きたい

私は身を起こして現状を確認する

あの世があるとは思っていなかったが四方八方、私が好きな本に囲まれているならここは天国だろうか

そう、私は死んだ……筈だ

病院の先生がもう長くないと言っていた

両親に見送られて私は息を引き取った

親より先に死んでしまった親不孝者な私は地獄に行くものだとばかり思っていたが、病弱だった私を神様が哀れんでくれたのかもしれない


「遠慮することないじゃないか。君は死んで、その魂を私が呼び出して私が造った人形に押し込んだんだ。君はここに新しく生まれ変わったんだ。産みの親の私が名を付けるのに何の不都合があるんだい?」


「死人の魂を本人の許可なく弄んだのがいけないんじゃないですか?」


目の前の美女が何を言っているかわからない

いわゆる電波という人種かな

コミュ力が不足している私には手強い相手だ

だが、その整った顔と銀髪は我が儘を許す力があるように思えた

それでも、文句は言いますけどね


「正直、名前はまだ決めていないからそこまで拘ることじゃない。でも、勝手に弟子と呼ばせてもらうよ?私、結構長生きなんだけど弟子を取ったことが一度もなくてね」


「……わかりました」


不承不承、私は頷きます

ここが天国であれ、地獄であれ、現世であれ、情報が少ないのはいただけません

人形というのが聞き捨てなりませんし、病弱で立つことすらままならなかった私が歩けるのも気になります

何より、数多くの本があるのです

垂涎ものです

目の前の美女がいなければ理性を失って飛び付いています


「自己紹介がまだだったな。私は《本の魔女》。気軽に師匠とかお母さんと呼んでくれ」


「魔女さんで」


つれないな、と魔女さんは苦笑します

師匠は兎も角、母さんは一人だけです

死に行く私を泣きながら、顔をくしゃくしゃにしながら、最後まで笑って見送ってくれた母さんだけです


「……私、帰れますか?」


「無理だよ」


即答ですか


「君の生きていた世界は一方通行だ。連れてくることは出来ても向こうに行くことは叶わない。神にでもならない限り、ね」


「なんで、私なんですか?」


「君を狙って召喚した(よんだ)訳じゃないよ?大国が勇者召喚のために使ってる術式を条件を付け加えて使っただけさ」


「条件?」


「そ、普通は聖剣の使い手とか、魔法の鬼才とかを設定するんだけど、私は本が好きな子って設定したんだ」


「どうしてです?」


「書痴仲間が欲しかったんだよ」


下らない

余りにも下らない理由で魔女さんは死んだ私を生き返らせたという

下らな過ぎて笑う気にもなれません


「『死者への冒涜だ』と世話になったご老人に叱られて以来、使っていなかったんだが、これが泣きの一回だ。目を瞑ってくれると思うよね?」


「さぁ?」


やっぱりつれないね、と魔女さんは今度は笑います

何が面白かったのか私にはわかりませんが寂し気な顔をされるよりはマシでしょう


「弟子。君は今日から私の家族だ。ここは君のいた世界とはかなり違う。だから、本を読むといい。本からこの世界を知るといい。それで本の感想を心ゆくまで語ろうじゃないか」


その笑いはどこか子供っぽく、期待の喜色に彩られていました


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