転生したらピンク村
「ッッッシャア!! 乙女ゲー転生じゃん!」
目覚めた瞬間、わたしは異世界転生してた。
教会に併設された孤児院の女子部屋。相部屋の子から「クレアうるさい!」と怒られて、わたしはベッドの中でガッツポーズした。
孤児院転生。
毛布の中に見える髪の毛はピンク色で、くるくるのふわふわ。
これはもう、夢にまで見た乙女ゲー転生ではないですか‼
──なんて妄想は、一瞬で打ち砕かれた。
なぜなら、相部屋の友達もピンク髪。
神父様もシスターもピンク髪。
裏のおばあちゃんもピンク髪。
パン屋のおじさんもピンク髪。
猫のミケちゃんも牧場の牛馬もピンク髪──かな、毛かな。まあ、とにかくピンク!
わたしが転生したのは、ピンク髪がデフォの世界だった‼
まあね、前世でもモブ歴=年齢だったしね。そんなうまい話があるわけないよね。
しかもわたしときたら、勉強も普通。魔力も普通。
なんなら魔力は裏のおばあちゃんの方が高いぐらいだ。
パン屋のおじさんのパンは最高だし、幼馴染のペーターは天才肌で、逆立ちしたってかないっこない。
己の分際を悟ったわたしはヒロイン妄想を早々に封印し、普通の暮らしに埋没していった。
そんなわけでやってきました、王都!
いやどんな訳だよって。
やっぱモブだって女の子だもん。一生に一度ぐらいは王都を見てみたい。あわよくば都会で暮らしてみたい。
そんなささやかな憧れを胸に猛勉強した結果、どうにかこうにか王立魔法学園の特待生枠に潜り込むことができた。
勉強も魔法も得意じゃないけど、いっしょうけんめい頑張ってよかった。
都会っ子生活満喫したい。お友達をいっぱい作ってウィンドウショッピングしたり、帰り道に買い食いしたり。
めいっぱい学園生活楽しむぞ!
──と、すっかり浮かれていた私の目に飛び込んできたのは、信じられない光景だった。
「王都、ピンク髪いないってよ!」
煉瓦造りの街並を歩くのは、目に優しいシックな色合いをした人々ばかり。ピンク髪がいないと景観がやけにオシャレに見える。
どうやら、ピンク髪は民族的特徴だったみたい。田舎だったし、人口の流入もほとんどないちっちゃな村だったしな。
森の奥に隠された秘密の村、なんつって。
心なしか、道行く人がわたしをチラチラ見てくる気がする。
髪の色が珍しいからだろうか。わたしはなんだかちょっと恥ずかしくなってきた。
やばっ、学校でピンク髪の田舎者だってバカにされないかな?!
──だめだった。
いや、ピンク髪でバカにされたわけじゃないけど。
入学早々盛大にやらかして、わたしはみんなから遠巻きにされていた。
面白がってちょっかいかけてくる人は何人かいるけど、友達になってくれそうな感じじゃない。
きっと、一緒にウィンドウショッピングしてくれたりはしないんだろうな。
わたしはため息をつきながら、食堂の隅でポツンと黄昏れていた。
ぎゅ……パァッ……コロン
ぎゅ……パァッ……コロン
「お前が田舎から来た特待生のピンク髪か」
気が付いたら、目の前になんだかキラキラした人が仁王立ちしていた。
浅黒い肌に金色の瞳の男子生徒。あきらかに尊大で高貴そうな感じだ。
なんかまためんどくさそうなの来たよ。
わたしは仁王様からは見えない角度でこっそりしかめ面をしてから、へらりと愛想笑いを返した。
「お前が実習室を大破させたというのは本当か」
「あはは──すみません。魔力コントロール、昔から苦手で」
ぎゅ……パァッ…コロン
「魔力計が天元突破して破裂したというのは?」
「たぶん初期不良かなんかだと思いますぅ。わたし別に魔力多くないし、故郷の村でも中の下だったし」
ぎゅ……パァッ…コロン
「五月蠅いな、さっきから人が話している最中にコロンコロンと。お前、それはいったい何をしているんだ」
「あはは……。すみません、いま内職してて。魔石の充填。学校の備品壊したから弁償しなくちゃいけなくて、先生が紹介してくれました」
ぎゅ……パァッ…コロン
「魔石の充填だと? この数をか。 魔力切れでぶっ倒れるぞ」
尊大な仁王様が、充填し終わった魔石の箱を覗き込んでいる。
「これ、魔力はそんな使わないんで大丈夫ですぅ。けど、わたし不器用だから一個ずつしか魔力充填できなくて……。まとめてできればいいんですけどね。村のね、羊飼いのペーターがそういうの得意で」
ふぅ。
それでも続けてやるとさすがに疲れる。ため息をついてから次の石を手に取る。
「でもこれ、一個充填すると三ゴールドもらえるんです。先は長いけど、がんばらなきゃ」
ぎゅ……。
「たった三ゴールドぽっちだと? このサイズで⁉ ちょ、おま、待て」
手に持った魔石を取り上げられた。仁王様は矯めつ眇めつ魔石を見ながら、わたしの充填した魔石の出来栄えを確認している。
「ほう……これを三ゴールド。王子が三人も在籍しているこの学園で、教師が無知な平民を搾取とはな……。これは目にもの見せてやらねばなるまい」
仁王様は金色の瞳をギラギラさせて悪党面で笑っている。わたしはゴクリと唾をのんだ。
「おまえ、もうこの内職やめろ。この第三王子アスラン様に任せれば十倍……いや、百倍で売ってやる」
仁王様は王子様だったらしい。
ド田舎ピンク村から都会デビューしたわたしを面白がって、話しかけてくる人は何人かいたけれど、王子様は初めてだ。
「ハハハ、お前いいな。金のにおいがする‼」
自分が量産型モブだって知る前だったら、乙女ゲー展開じゃんって喜んでたかもしれないけどなあ。
魔石を握りしめて高笑いする王子様の背中を見つめながら、わたしは一番厄介なのに捕まったような気がしていた。




