第百四十八話 リリー達とテレビ通信しました~ガトー・ブランとの約束~
「以前、この場所で新女王蜂のリリーを、らんちゃんが保護したんです」
僕が商人ギルドの外壁を触りながらそう説明し、「ここでは人目があるので、場所を変えましょう」と提案したことで、セオドア王、シアンさん、ルシアンさんの3人は、僕たちが滞在する王宮の一室へと移動してきていた。
部屋の鍵が完全に閉められたのを確認すると、僕はほっと息を吐く。
大切に抱きしめていたスリングの中から、ベルちゃんとらんちゃんを抱き上げる。
「また恐い思いをさせてごめんね、でも、ママが絶対に守ってあげるからね」
「以前にも言ったが、ベルとらんはお主よりも、よほど強くなっておるぞ?」
「――パパが守ってくれるからね」
僕はダッシャーを見つめながら、更に「キュッ」と優しく抱きしめた。
「それは当然だ、我に任せておけ」
「ふぅ……何はともあれ、これでひとまず、商人ギルドへの『1つ目の罰』の仕込みは完了、かな」
「あぁ、そうだな『鉄樺魔梛』の木型作り、あいつら必死だったな。トレントたちの監視付きだし、いい薬だ」
「そうですね。次は『2つ目の罰』……あの水車の整備だけど、その前に皆さんにお知らせしておきたいことがあります。今からお見せすることは、他言無用でお願いします。それと――驚かないでくださいね!」
僕はみんなの返事を待った。
「俺は大体の予想はついてるけどな。何せアンセル様だろ?」
「先ほど言われていた『リリー』様と関係があるのですね?」
「神の降臨より驚くことがあるものか、と思ってはいるが……まさか、その上を行くのか?」
「マナ・レクス様よりは驚かないと思いますよ。多分……」
(……きっとまた引かれるだろうから、出来れば紹介したくなかったんだけどなぁ……)
でも、ブランがお花畑の開拓に燃えているんだから、連れてこないわけにはいかないよね。
心の中で盛大にため息をつきつつも、僕はアイテムボックスの『お花畑』に向かって話しかけた。
色とりどりの花々が、ふわふわふわり、ポンポンポンと咲き誇ってはパッと消えていく。
「いやいやいやいや、すでに驚きの連続だろ?」
ルシアンさんから、らしくない感想が出た。
「でも、ルシアンさんは創造神様直轄組織のギルド長ですよね? こんなことは日常茶飯事なんじゃないですか?」
「いや、俺たちは至極普通に暮らしているぞ」
「普通って何?」と思いながら『お花畑』に「もしも~し」と話し掛ける。回線が繋がる先は、創造神様がリリーのために僕のアイテムボックスの中に用意してくれたお花畑だ。
あちらの世界に設置されているのは、ドールハウスのリビングにあるテレビ型の通信機だ。
その様子を、セオドア王たちは瞬きもせずに見つめている。口が開いてるけど、見ないフリだ。
ポンポンと飛び出していたお花たちがスッと引くと、まず最初に映し出されたのは、紫色の衣装を纏った二人の美しい精霊だった。
寡黙でミステリアスなオペレーター、グラッセ・ミュール。そしてその隣で冷静に端末を操作する、クールビューティーで知的な理系女子の側近、カシスだ。
『……常春の箱庭国、中央管制。アンセル様からの定時外通信を受信。回線を秘匿暗号にて固定しました。リリー様、アンセル様より入電です』
ミュールが抑揚の省かれた美しい声で告げると、カシスが手際よく画面を切り替える。すると、美しい花々の中から、小さな姿がふわりと現れた。異世界のローヤルゼリーによって1/12スケールの人型へと進化した、新女王蜂のクイーン・リリーだ。
『あら、あるじ様。ごきげんよう』
画面の前へ進み出たリリーは、ツンと少しすましたように、けれど羽を嬉しそうにパタパタと震わせながら僕を振り返った。
「クスクスクス。ごきげんよう、リリー。そっちはどう? みんな変わりないかい?」
『ふふ、何も問題はないわ。私の子供たちが成長しているのだもの、あるじ様が心配しすぎる必要なんてないのよ』
相変わらずのツンデレな物言いに僕は苦笑しながら、気遣わしげに声をかけた。
「リリー、そっちは昨夜産んだ卵がまだ孵っていないだろう? だから君は外には来られないよね? 実はね、話していた商人ギルドの横にある水車の整備をすることになったんだ。ブランが『見学してみたい』って言てただろう? どうだろう、管理総括担当のブランと側近のブランシェ、農業品質関係担当のブールと側近のリュクス、この4人と……もし心配なら、警備担当のシトロンと側近のミントを合わせた6人で、こっちの世界の水車を見学するかい?」
僕の提案に、リリーは誇らしげに胸を張った。
『ええ、いいわね! 我が国の優秀なブレーンたちですもの。存分に役立ててちょうだい。ブラン、あるじ様のためにしっかり学んでくるのよ』
画面が再び切り替わり、純白の気品ある燕尾服に身を包んだガトー・ブランが映る。
『はっ。クイーン・リリーの仰せのままに。知性と正義の祝福に誓い、役目を果たしてまいります』
彼の後ろには、ハニーゴールドのシックなスーツを纏った温厚なガレット・ブール、クリスタルブルーのナポレオンジャケットを纏った凛々しいグラニテ・シトロンたちが、一斉に美しい敬礼を捧げていた。
お花畑の開拓のためにマナ・レクス様の神輝石を動力に、ダッシャーの魔法陣で動くようにした『おもちゃの働く車』を乗りこなす彼らは、新たな技術の習得に燃えていた。
「よし、じゃあダッシャーの魔法の扉を繋ぐよ」
「ダッシャー、常春の箱庭をお願い」
「いや、ちょっと待て。今からか?」
「え?」
ダッシャーからの問いに、あ、と僕は声を詰まらせる。
「そうだな、木型作りに少なくても今夜一晩は掛かるだろうから、早くても水車を手掛けるのは明日じゃないか?」
ルシアンさんのもっともすぎる突っ込みに、僕は「あはは……あ、今からは無理だよね」と頭を掻いた。完全に気が急いてしまっていた。
しかし、通信画面の向こうからは楽しげな声が響く。
『あら、ダメよ、あるじ様。この子達、すっかりそっちに行くモードになっちゃってるもの』
リリーが「ふふっ」と笑う。画面の奥の6人は、いつでも出撃できる完璧なポーズを決めていた。今さら「やっぱり明日ね」とは言えない空気だ。
すると、様子を見ていたセオドア王がポンと手を叩き、一先ずの外の世界の見学会を計画してくれた。
「クレイの乾燥室へ案内するのはどうだろうか?」
「そ、そうですね。お試しで乾燥しようと思っていたので、それを見学して貰いましょうか」




