第9話-自警会 その②
「自警会ってなんなんすか?」
高下の質問に空見はスラスラと答えた。
「校内にいる能力者について調べ、且つ能力者によるトラブルを解決させる有志の会、というところか。能力は生徒しか知らないから、当然学校に認められている委員会や部活ではない。大人は誰一人知らない同好会と言ってもいいかもしれないが、しかし歴史は古い」
大山寺が説明を引き継いだ。
「二十年ほど続いているんだ。高下君のように一年生は日が浅いから知っている者は少ないが、二年生以上ならそこそこの割合で存在は知っている感じだ。ただどんな活動をしているかなどは俺達を含めて歴代のメンバーが隠してきたからほとんど知られていない」
「能力者について調べる、ですか。だから正体不明の解之夢について調べたかったと」
「その通り。私達は在校している全ての能力者を把握したいんだ。それこそ『百パーセント』知りたい」
どこか力のこもった口調の空見の台詞に、大山寺は戒めるように声をかけた。
「空見、『百パーセント』はあくまで努力で得られる結果に過ぎない。目標じゃない。我々の目標はあくまでこの特殊な学校の治安維持だ」
空見は肩をすくめるが、このやり取りは高下には分かりかねた。とりあえず知り得た範囲で思考してみる。
「つまり…その自警会とはいわゆる自警団とほぼ同義っすかね?警察や行政の手ではなく有志で治安を守るって意味で」
「まぁその通りだ。能力による悪事は警察にも教師にも裁けない。そもそも認識することが難しいからな。だから能力者である我々が率先して監視と警備の体制を作っていて、それが何代にも渡って続いている」
「それに俺を加入させると?」
「そこなんだが空見。それは少し時期尚早なんじゃないか」
「大山寺先輩、高下の報告に誇張が無いのであれば、彼は尖角の片腕とも言える久場にほとんど勝っていたわけです。彼は戦える能力者です。戦える能力者は貴重だし、我々にとって必要な人材です」
「そうかもしれないが危険だ」
大山寺は言ったあとで苦笑した。
「活動上、能力者との衝突も結構あってね。武力で応じなければいけない時もある。まぁ君は不本意ながら今回それに巻き込まれたわけだが」
大山寺の説明に被せるように空見は熱っぽく説得を続ける。
「危険だからこそではないでしょうか。高下は尖角達に目をつけられています。自警会のメンバーという疑いも依然かけられたままです。また襲撃されるかもしれないことを考えると、いっそ私達のすぐそばに置いていた方が安全です。なにより…」
空見は改めて高下の顔を見据えた。試すようであり、信じているような目でもあった。
「彼は一時的にとはいえ自分の右腕を奪った尖角に、決してなびかないはず。我々からすれば彼は決して裏切らない存在。その要素は大きいのでは」
空見の意見がある程度刺さったのか、大山寺は唸りながら目を瞑って腕を組んだ。しばし考えている様子だったがやがて目を開けると毅然とした表情に変わった。
「高下くん、もしよかったら我々に協力してくれないか」
「いいっすよ。さっきから俺も考えていたんですけど、単純にやってみたいと思うんで。もちろん危険なことはもう十分すぎるほど伝わってますけど、それでもやってみたいっす」
「うん、単純にして快活な答えだ。俺は君が気に入った」
そう言うと大山寺は一人で豪快に笑い出したが、それが収まると再び真剣な表情に戻った。むしろ先程よりも凄みのある表情だった。
「だが説明しなければいけないことが二つある。一つは、これは君に限らず全ての新メンバーに対しての決まりなのだが、メンバーになった当初の間は他のメンバーの能力は教えられない。ある程度期間が経ってから教えるという決まりだ」
「仮入部期間の待遇って感じすね。了解っす」
「もう一つ。こっちの方が遥かに重要だ。自警会のメンバーは一つのリスクを抱えている。能力者は生徒手帳を破壊されるか紛失した時、日付が変わるタイミングで能力を喪失する。これは裏校則にも書かれていることだが、自警会メンバーの場合は能力の喪失に加えてもう一つの作用がある。それは…」
大山寺の説明を高下は黙って聞いた。話の内容に驚愕を禁じ得ず、大山寺が喋り終えたあともしばし呆然としていた。
「なんというか、既にだいぶファンタジーな話だったんすけど、そこまで超常的なこともあるんすね」
「どうだ、もちろんこれを聞いて判断を変えてくれても構わない」
「いや、大丈夫です。リスクは理解したうえで、俺は自分の興味や満足が向かう方に行きます。俺は自警会に入ります」
大山寺はニカッと爽やかな笑みを見せて立ち上がった。
「よし分かった。それでは俺は一足先に沙悟達に伝えてくるよ。時間が欲しいから少ししてから部室に来てくれないか」




