第8話-自警会(じけいかい)
翌朝、高下は自席に着くなり既に着席していた解之夢に声をかけた。
「おはよう解之夢」
「おはよう」
解之夢は、朝一番でもブレない冷静な眼差しを向けてきた。
「早速でなんだが、この腕を治してくれたのはお前か?」
解之夢によく見えるように、自身の右腕を突き出す。昨日奇跡的に取り戻した右腕は、本日も何事も無いように高下の身体に備わっていた。
「しかしなんだか、元の腕とちょっと変わった気がするんだよな。細くなった気がするし、この腕だけちょっと肌白い気がする」
「…そうだろうね」
「なんて?」
「いや、何でも」
隣で光山が聞き耳を立ててるのが気配で分かるが、高下は気にしないことにした。
「正確に言えば僕だけの力じゃない。ただ、あの場に赴いたのは僕だ」
「正確に言うとってのは、じゃあつまりお前の他に誰なんだい」
「僕の同志」
「同志ってのは、あの尖角とか久場って奴らの一味じゃない人?」
「昨日も言ったが、彼らとは関係がない。僕らは僕らだ」
この学校の一味だか一派の多さにやや呆れてしまう。空見先輩達、尖角達、そして解之夢達。自分は何か大きな流れに巻き込まれているような感覚を否が応にも覚えた。
「まぁでも腕は治してくれたんだな。ありがとう。実際に治してくれた人にもそう伝えてくれ」
「怪しまないのか」
「怪しいが、これからも両手で飯を食えるのだからありがたい。そもそも死んでたかもしれないしな」
「それじゃ伝えとくよ」
解之夢が素っ気なく返事すると、高下は少し微笑んで頷いた。解之夢が関わる集団が何であれ、尖角達とは違って悪質な連中では無いだろうという確信を覚えていた。
「というわけで、昨日は色々慌ててたんで言いませんでしたが、解之夢がやってくれたようです。正確には解之夢の仲間が」
放課後、高下は迎えに来た空見と合流して再び進路相談室に訪れた。今回は大山寺も居たが、昨日出会った沙悟と奈美奈という二人は居なかった。三人とも席に座ると高下は昨日の出来事を話した。
「皆目、目的が分からないですね。どういう連中なのかも。何人体制なのかも」
聞き終えた空見が真剣な表情で腕を組みながら発言した。それに対して大山寺が意見を言う。
「特に何も考えていないという可能性もある。善意で高下君を助けたとか」
「そうだとしても、やはり前代未聞の転校生という時点で怪しいです」
「まぁ今は、解之夢より尖角達について対策を考えた方がいいかな。解之夢は今のところこちらに害意は無いようだからな」
概ね同意のようで空見は黙って頷いた。大山寺は高下の方に身体ごと向き直ると唐突に頭を下げた。
「高下君、改めて申し訳なかった。空見が、解之夢の調査に高下君を使うという話は事前に聞いていた。それを認めたのは俺だ。振り返ってみればあまりに軽率だった。尖角に限らず、解之夢自身も君に危害を及ぼす可能性はあったわけだからな。申し訳ない」
空見も合わせてお辞儀をする。だがこちらは上目遣いで高下を観察しており、意味深な表情をしていた。
「いや、やめてください。俺だって何も考えずに承諾したわけじゃない。そういう可能性を考えた上で引き受けたんす」
「高下、その熱意はまだ残っているか」
空見が顔を起こして聞いてくる。
「解之夢について今後も調べたい、あるいは尖角達にやり返したいという思いは?」
「空見、何を言っているんだ」
大山寺も顔を上げて叱るような口調で空見に言ったが、空見は動じなかった。
「大山寺先輩、私は彼を自警会のメンバーに加入させることを提案します」




