第14話-『拳陣鉄壁』(バリアント・シールド)と『自由紙』(フリー・ペーパー)
相手の手から何かが放たれた。それは『何か』としか形容できないものだった。言うなれば光の矢と呼べるような、白く光っている棒状のものだった。それがまさに矢のように一直線に飛んできた。軌道上にいるのは比較的戸に近かった高下と大山寺だった。
「『素晴らしき善意』!」
高下がかざした両手の前に板が現れた。それはこの部屋で見つけた画板だった。矢は画板に刺さり、画板ごと床に落ちた。
安堵も束の間、大山寺を見ると仁王立ちしている大山寺の胸にはっきりと矢が刺さっていた。
「大山寺先輩!」
「あー…大丈夫だ」
大山寺はゆったりとした動作で胸の矢を握って引き抜いた。
「この矢の効果付与条件が『当たる』ではなく『刺さる』だったのは幸運だった。制服の生地は通ったが身体には刺さっていない。『拳陣鉄壁』で硬質化させたからな」
引き抜いた矢は塵のように崩れて空気に溶け込むように消失した。
「沙悟!」
「『自由紙』!」
大山寺の呼び掛けに後方の沙悟が答えた直後、高下の横を何かが大量に通った。
小さな正方形の紙の群れ。それが付箋であることに高下が気づいた時には既に、付箋達は意思があるかのように互いにくっつき合い、合体して一つの形を成していた。まるで太い綱のように整形された付箋の塊の先端が、矢を放ってきた手を掴んだ。
「よっと!」
沙悟が綱を引っ張る動作をすると、矢の主の女子は呆気なく戸から身体が出てきて室内に引っ張り込まれた。突然の反撃に対応できず床に倒れ込む。その顔は焦りに満ちていた。
空見が近づいて女子の前に立つ。
「大山寺先輩、とりあえず生徒手帳を取りますか」
それに対して大山寺は戒めるように厳しい声で返した。
「空見、判断が早い。早すぎる。彼女達からしたら俺達はテリトリーに踏み込んできた部外者だ。警戒するのも無理はない。彼女達の活動内容しだいだが、少なくとも今は喪失させないし手帳を取り上げたりもしない」
「…分かりました」
「それよりこの子達に見覚えは無いのか。二年生っぽいが」
言われて空見は跪いている女子と、戸の近くに立って怯えている女子の顔を観察した。
「矢の方はたしか画角、立っているのは絵村だったかな…。顔は見たことありますが会話したことはありません。沙悟は?」
「俺もないな。だがこいつらと一緒に行動してる女子といえば、たしか筆沼だったか…」
その時、廊下から足音が聞こえてきた。わざとらしく足音を立ててるような歩き方だった。今からそちらに向かう、と意思表示しているようだった。
程なくして三人目の女子、筆沼が現れた。怯えているが、友達を助けたいという覚悟も内に秘めているような表情だった。
「来ちゃダメって言ったじゃん!」
悲痛な声を上げる絵村に対して筆沼は震えた声で返した。
「私だけ隠れている場合じゃないじゃん。あの、本当に私達をどうにかするわけではないんですか?」
「俺達は能力による悪事や不正を防ぐために活動している者達だ。自警会という」
「自警会、聞いたことはあります」
「君達の活動しだいだが、君達が何もしていないのなら、俺達も君達に何もしない。よかったら能力について教えてもらえないか」
大山寺の誠実な態度に幾分落ち着いたのか、筆沼はおずおずとした態度ではあったが腕を上げて一点を指さした。その先には高下が見つけた壺があった。
「その壺のためにここに集まっていたんです。その壺が私の能力です」
筆沼は一つ大きく深呼吸すると、意を決したように大山寺達を見回して提案した。
「説明するので、隣の美術室に来てくれませんか?」




