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第13話-『神経覚醒』(エンハンス)

 翌日の昼休み、速やかに昼食を取った高下は再び部室を訪れた。最初は空見だけが居て、あとから大山寺、沙悟、奈美奈がやってきてメンバーは揃った。


「よし行くぞ」


 大山寺を先頭に五人は部室を出て廊下をゾロゾロと歩いた。


「昨日は二人だったのに今回はフルメンバーなんて物々しいっすね」


 耳打ちするように空見に話しかける。昨日よりずっと真剣な表情の空見が前を向きながら答えた。


「事前情報から判断する限り、相手は三人で行動しているみたいだから。何はともあれ数的優位に立ちたいんだ」


「事前情報っていうけど、どうやって能力絡みの情報を仕入れるんすか?情報屋でもいるんすか?」


「今のところは内緒だ」


 話しているうちに目的の場所に辿り着いた。最上階である四階の隅、美術室の隣りにある小部屋だった。


「もともと美術準備室だったが今はその用途で使われておらず、壊れた机や椅子を置いてあるだけの部屋らしい」


 大山寺が説明して扉に手をかける。貴重品が無いためか鍵は開いていた。中は説明のとおり、机や椅子が雑然と積まれていた。換気も掃除もしていないらしく埃臭かった。


「当事者達は今頃昼食中だろうから、その間に調べよう」


 大山寺が指揮を取り全員部屋の中に入る。


「あのー、今更なんですけど具体的に何を探してどう確認するんすか?」


 高下の質問に大山寺は虚をつかれたような顔をして空見を見た。


「説明してなかったのか?」


 言われて空見はバツの悪そうな顔をする。


「ここに来る途中に説明しようと思ってたんですけど、忘れていました」


 空見は仕切り直すように咳払いを一つしたあと、高下に向けて話し始めた。


「この何も無い部屋に、放課後三人の女子が定期的に集まっていることが確認されたんだ。私達からするとそれだけで十分調べる価値がある」


「ただ駄弁ってただけかもしれないすよ」


「駄弁るだけなら教室でできるだろう。何より決定的だったのは、たまたま女子三人の密会を目撃した生徒がいた。能力を持たない普通の生徒だ。その生徒は恐らく好奇心でこの部屋の扉を開けた。しかしそこで何かをされた」


「何かって?」


「分からない。我々にこの情報を提供してくれた者は、その一部始終を目撃していたが遠間からだったので詳細は分からなかった。だが後日、我々がその生徒に事情を聞きに行ったところ、この部屋で見たものはおろか、この部屋に来た記憶が無くなっていた」


「記憶を無くされる何かをされたってことすか」


「生活に支障は出ていなかったし、消えた記憶もごく一部だったが、何らかの干渉を受けたとみて間違いない。つまりここに集まっている女子達は何かをしていて、且つそれを目撃された時の対策も持っている、ということだ」


「それでより詳細に調べるために今俺達がここに来ていると」


「そうだ。何が見つかるかもしれないし、何も見つからないかもしれない。だが女子達が集まる場所は必ずこの部屋のようだ。何か理由があるのだろう」


 そして高下も参加して一同は室内を捜索し始めた。部屋はとにかく雑然としていて、壁に据え付けられているオープンロッカーも、どの棚にも何らかの物が適当に入れられていた。


「奈美奈、一応能力を発動させておいてくれ」


「この部屋に着いた時点でもう使ってるよ」


 奈美奈の返答を聞いて高下は周囲を見渡したが、特に変わった様子は無い。能力とは何だろうと訝しんでいると、その様子を察したのか奈美奈が解説した。


「私の能力は『神経覚醒』(エンハンス)っていって、周りにいる任意の人達に効果を与えることができるの。効果を与えられた人は感覚が敏感になる。勘が良くなると言えば分かりやすいかな」


「奈美奈先輩、コイツに能力のこと話しちゃうんすか」


 沙悟が咎めるが、奈美奈は全く気にしていない様子だった。


「いつ話すかどうかは個々の判断でいいでしょ。私はもともと開示型だし」


「勘が良くなる、ですか」


 解しかねて首を傾げている高下に大山寺が微笑んで話しかける。


「聞くだけだと分かりにくいが、実際体感すると中々すごいぞ。今まで何度も助けてもらってる」


 大山寺が褒めると奈美奈は照れくさそうにはにかんだ。


 アレ?この人達…と高下は訝しんだが、今は仕事に専念しようと気を引き締め直した。


「美術準備室だった時の名残かな。生徒が作った物っぽいな」


 大山寺が棚板に手を突っ込んで中の一つを手に取る。埃でコーティングされた水彩絵だった。他にも汚れた画板や、乾き切って先が割れている筆などが出てきた。


「三人の女子はここにある何かを使用している可能性もある」


「これとかどうですか?いかにも怪しい」


 沙悟がどこかの棚から取り出してきたのは粘土で作られた頭像だった。


「何かの呪具かな」


「単に美術部員が自分のツラかなんかを元に作っただけだろ。だいたい埃が被りすぎてる。最近使用した形跡が無い」


 空見の指摘を受けて沙悟は渋い顔をして頭像を戻した。


「形跡って言うと例えばコレっすかね」


 高下が取り出したのは小さな土器の壺だった。茶色一色で、塗りも造形も荒っぽい出来だった。


「埃は全く被ってませんが」


「どこにあった?」


「掃除用具入れの網棚の上です」


「しまってたんなら埃は被ってなくて自然だろ」


 沙悟が指摘するが、大山寺の考えは違うようでまじまじと見てきた。


「いや、そもそもそんな所に入れているのは妙だな」


 興味を持った大山寺が近づいて高下が持っている壺の中を覗き込む。二人とも警戒心はだいぶ緩んでいた。少なくとも高下はほとんど平常心でいた。


 しかし唐突な直感が働いた。自身でも不思議なほど鋭敏に気配を察知して、扉の方を向いた。


 扉には実際に女子が一人立っていた。目が合うと女子は驚愕の表情で後ずさった。


 高下は皆に知らせようと周りを見たが、全員ほぼ同時に察知したらしく既に女子のことを見ていた。女子は、全員に同時に気付かれたことに対して驚いていたのだった。


 音も声も無かったのに何故気づけたのか、しかも全員…と不思議に思ったところで理解した。これが『神経覚醒』(エンハンス)の力なのだと。


「そこで…何をしているんですか」


 狼狽しながらも女子が聞いてくる。高下の隣に立っていた大山寺が半歩近づく。高下は近くの机に壺を置いた。


「うん、そうだな。不躾だが俺達は能力について調べている者達だ。自警会という。君、ここに集まっている女子三人のうちの一人だろ。よければ少し話を聞かせてくれないかな。君だけじゃない」


 大山寺が戸を指さす。


「そこに隠れている子も含めて、ね」


 研ぎ澄まされた直感が、隠れているもう一人の存在を的中させた。様子を見る一同だったが、しばしの沈黙のあとで、突如何者かの腕だけが戸から出てきた。手をこちらに向けている。


「危ない!」「防いで!」


 最初に叫んだのが高下で、ほぼ直後に空見も叫んでいた。『神経覚醒』(エンハンス)の効果で相手の動作が攻撃の準備行動であることに瞬時に気づいたのだった。

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