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第12話-初仕事

 自警会のメンバーになった数日後、高下の教室に空見が現れた。


「いきなりなんだが活動だ」


「放課後にですか?」


「いや、今だ。今から隣りのクラスに行く。大山寺先輩からやり取りを見せるよう言われているし、先輩の私一人よりも同学年の君がいる方が向こうの警戒心も薄れるかなと思ったんで誘ってるんだ」


「向こうってのは誰です?」


「山田って女子だ。顔見知りか?」


「まぁ挨拶したことくらいはあるかと」


 状況を測りかねたまま高下は空見を隣のクラスに案内した。昼休みなので多くの生徒が談笑しながら昼食を取っている。その中を他クラスの高下と先輩の空見が入っていくと、それに気づいた生徒は興味深そうに眺めだした。


「山田はどの子かな」


「あの人です」


 高下が指した先で座っている女子のもとに空見はまっすぐ歩いて行った。空見に気づいた山田が訝しげにこちらを見てくる。


「山田結衣さんかな」


「そうですけど…」


「二年の空見っていうんだけど、突然ごめんね。君が能力を隠さずに披露してるって聞いたから見せてもらいたくて来たんだ。唐突で悪いんだけど見せてくれないかな?」


「え?え?」


 動揺している山田と強引な空見の間に高下が割って入る。


「えー、山田さん、お疲れ様っす。メシ食ってるとこ悪いね」


「あっ高下くん」


 不安げな山田の表情が幾分か和らぐ。


「話は今先輩が言った通りなんだけどさ、よかったら能力見せてあげてくれないかな」


「何で能力を見たいの?高下くんも見たいの?」


「うーんと、この先輩、面白いものや変わったものを探してる同好会的なモノに入ってるんだよ。で俺も一枚噛んでるってわけ」


 空見は眉を顰めて小声で高下に話しかける。


「説明が曖昧だし、変人みたいな紹介の仕方をするな」


「しょーがないでしょ。一年生の殆どはまだ自警会のことを知らないんでしょ?」


「見たいなら全然今見せられますけど…」


 山田の肯定的な返答を聞いて空見が笑顔を作る。


「ごめん、お願いできるかな?」


「はーい」


 山田は言いながら筆箱からシャーペンを取り出して、ペン先を下にした状態で刺すように机に立てて手を離した。力を入れたようには見えず、事実シャーペンは机に突き刺さってはいない。それなのにシャーペンは倒れなかった。微動だにせず直立している。


「はい、こんな感じです」


「これが能力なん?手品じゃなくて」


「『物を垂直に置ける能力』だよ。どれだけ先が尖ってても、ちゃんと立てられるの」


 高下は山田の机に触れて軽く揺らしてみた。シャーペンは机に接着されているかのように不動のままだ。


「これに名前とかは付けてる?」


 空見が聞くと山田は苦笑した。


「いえ、これだけしかできないですし、名前なんて付けてないです」


 答えながら気になったのか、好奇心をたたえた表情で高下を見る。


「そういえば高下くんも能力持ってるんだよね?たしか『便利』って…」


『素晴らしき善意』(カインドネス)ね」


「カインド…?それ、自分で考えたの?」


「いや友達が名付けてくれたっていうか…」


「書く時は?カタカナ?英語?」


「いや、素晴らしき善意って書いて読みがカインドネスというか」


「え?」


「え?」


 いたたまれなくなったのか、空見が遮ってくれた。


「この能力、生物には使用できない?物体だけ?」


「え、ああ、そうです」


「使用できる条件とか、使用する際の代償とかは?」


「えーっと、いや特には…」


「ありがとう。分からないことがあったらまた聞くね」


 目的を終えた空見は礼儀正しくお辞儀をすると振り返って教室の出入口に向かい始めた。


「あ、じゃあ俺もこれにて。突然悪かったねー」


 高下もその後をついて行く。


「全然大丈夫。またねー」


 廊下を出た空見は、高下の教室には戻らずそのまま廊下を歩き続ける。追いついた高下が横に並んだ。


「意外と仲良かったじゃないか」


「意外と仲良かったみたいっす。今からどこに向かうんすか?」


「部室だよ。あの子が嘘をついているようには聞こえなかったし、これだけ分かれば目録に登録できる」


「俺の能力の名前、そんなに変ですか?」


「いや、面と向かって聞かれると確かに恥ずかしいが、でもそんなもんでしょ」


「空見先輩も名前を付ける派ですか」


「付けてるよ。君と同じバリバリ厨二病的なの」


「厨二病かなあ」



 二人で部屋に入ると、この前と同様に長テーブルに目録がポツンと置いてあった。


「ちょっと無用心じゃないすか?誰も居ないのに」


「そこは色々工夫がされてる。目録は普段は隠されてる。これはつい今置かれたものだ」


「今置かれた…?」


 分かりかねてる高下を無視して空見は目録に手を置いた。先程話した山田の能力について説明する。説明を終えると高下の時と同様に目録の一ページが光った。


「これで登録完了だ」


 空見が目録を開けたので高下も横から覗いた。


 能力名:名称未設定


 能力者:山田結衣


 内容:触れた物体を任意の物体の上に垂直に立てることができる。


 総合ランク:五百四位


 在校ランク:八十二位


「よかったー。俺の方が上だ。手品より下じゃなくてよかった」


「君と同じ『物質系』の能力だな」


「物質系って何すか?」


「既存の物質に何らかの干渉をするタイプの能力だ。わりと多いタイプだな」


「物質系は比較的弱い方なんすか?」


「そういう傾向は特に無い。強さも弱さも、使いやすさも使いにくさも人それぞれだ」


「先輩も物質系ですか?」


 空見は高下の顔をチラリと見てから鼻で笑った。


「探りを入れてるのか?別に答えていいけどな。私は『身体系』(しんたいけい)だ」


「身体系とは?」


「身体に何らかの効果を付与するタイプだ。これもわりと多いタイプだな」


「確かに系統を聞いただけじゃ結局何も分からないっすね」


 高下は言いながらさりげなく目録に手を伸ばして、しれっとページをめくっていく。


「あ、これって総合ランク順に載ってるんすね」


 能力掲載の先頭ページをめくって、そこで指が止まった。そのページに記されているのは、総合一位の能力である。


「総合一位の能力って…こんなレベルなんすね。こんなん無敵じゃないっすか」


 ページに置かれていた高下の手を意に介さずに、空見は目録を閉じようとした。慌てて手が挟まれる前に引っ込める。


「私や皆のも載ってるんだからジロジロ見るんじゃない」


「うす、すんません」


「これで今日の活動は終わりだ。まぁデモンストレーションみたいなものかな。山田さんが開示型なのは情報を手に入れて知っていたから、丁度良いと思ったんだ。皆ああいう感じで教えてくれればありがたいんだけど」


「開示型は少ないんでしたっけ。非開示型から能力の内容を聞き取るのは大変そうだなあ」


「それよりも難しいのが『秘匿型』(ひとくがた)だ。能力者であることすら隠しているのがこのタイプだが、その場合はまず能力者だと疑うに足る痕跡を見つけるところからなんだ」


 空見は試すような目つきで高下を見る。


「実は秘匿型でずっと目をつけてた生徒達がいてね。複数で行動してるっぽいんだが、明日痕跡を調べに行くことになってる。全員で昼休みに行くことになってるんだが、君も来るか?」


「手伝えることがあるか分かりませんが、やる気はあります」


「よし、じゃあまた迎えに行くよ。明日は運が悪いとちょっと修羅場かもしれない。でもそれは織り込み済みで入会したんだから、大丈夫だな?」


 依然として試すような目付きに高下は一瞬逡巡したが、仕事はなるべく早く覚えたい気持ちもあった。


「新入部員がサボるわけにゃいきませんやな」


「部活じゃないっての。まぁその心意気は良し」

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