最終話その後
あの日から半年後……。
「ユキ、もう起きるのか」
朝日の光の差し込む部屋で、ベッドから出ようとするユキに、カイラが口を尖らせて呼びかける。
「ええ、食事の用意でも……」
「食事の用意なんて、後で俺が魔法でやってやる。もっとここにいろ。寒い」
そう言って、カイラは起きようとしたユキを引っ張って、ベッドに引きずり込む。
そのままユキは抱き枕のようにカイラに抱かれ、二度寝を強要される。
「カイラ様、あの……」
ユキは自分を抱きしめるカイラの顔を覗き込んだ。途端にカイラはビクッと起き上がる。
「おいユキ!急に目を合わせるんじゃない!……あれ?」
いつもなら、ユキと目を合わせた瞬間に意識を失うのに、今回は何とも無い。
「誘惑、されない……?」
「ごめんなさい、解呪してしまいました」
ユキは申し訳無さそうな顔をしながら、小さく微笑んだ。
「……そう、解呪、したのか」
カイラは目を泳がせ、明らかに動揺しているようだった。
「なぜ……」
「カイラ様?」
「あ、いや、なぜ今解呪したのか、聞いてもいいか?」
せっかく目を合わせることが出来るようになったのに、カイラは顔をそらしたままだ。
「カイラ様の目を、直接見たいと思ったのです」
ユキはそう言って、カイラの頬を両手で優しく包んだ。
「カイラ様と、ちゃんと目を合わせたいと思いました」
「目を?」
カイラが聞き返すと、ユキは少し恥ずかしそうに頷いた。
「特に、その……ベッドの中のカイラ様の表情をみたいと言うか……」
モジモジとユキは続ける。
「あと、いつも寝る時に目隠しさせられて、その、抱きしめていただくのも、ちょっとマニアックかなぁって。やっぱりお顔を見たいと言うか……。いや、もしかして目隠しプレイがカイラ様のご趣味の可能性もあるので、そうならば全然続けて頂いても……」
「ご趣味ではない!」
カイラはキッパリと真っ赤になって遮った。そして大きなため息をついて微笑んだ。
「そうか。よかった。解呪したらもうここにいる必要は無いと出て行ってしまうかと思った」
「えっと、やっぱり出て行った方がいいですか?」
「馬鹿なのか貴様は。手放すつもりは無いと何度言ったら理解するんだ?」
そう言って、カイラはユキの身体を再度抱きしめ直した。
「やっぱりカイラ様は甘えん坊ですね」
「もう否定するのも面倒だ。勝手にそう思っていればいい」
そう言って、カイラはユキを撫でる。
魔法にかからずともこんな風に甘えてくれるようになるまで、さほど時間がかからなかった。
誘惑魔法にかかり過ぎて、魔法が抜けなくなったんじゃないかと、本気でユキが心配したほどだ。
「確かに、ちゃんと目を合わせるのはいいものだな」
カイラがユキの顔を見て微笑むので、ユキは真っ赤になった。
あまりに甘ったるすぎる。
カイラはユキが魔女だと分かった日から、魔法の仕事を手伝わせるようになった。
「働かずにこの俺と一緒にこの家に住めると思っているのか?食事や掃除?そんなもの魔法でちゃっちゃとできるだろう。そんな簡単な魔法で甘えないで俺の側で手伝いをしろ。いくらでもやることがあって忙しい」
高度な魔法もユキに伝授した。
「百年もの間疫病の魔法しか磨いてこなかっただなんて、なんて時間の無駄なんだ。せっかくこの俺にも効果があるくらいの強力な誘惑魔法が使えるんだ。もっと高度な魔法が使えるはずだ。魔女なら励め。この大魔法使いが直接指導してやろう」
そして、暇があればユキに誘いをかけ、そして愛してくれた。
「ほら、ユキ。来い。一緒にお茶でも飲むぞ。馬鹿かユキ、誰かと一緒に飲むのが大事なんだろう?貴様は一人に慣れすぎだ。いろんな話をしよう。……こら、ユキが俺の隣に座るに決まっているだろう!猫を俺の隣に座らせてどうするんだ。……照れている?照れているのか?ふん、可愛らしいものだな。ほら、おいでユキ」
ずっとずっと構われ続け、そのせいで、ユキは復讐の事などを考える暇が全く無くなってしまった。考えなければ薄れていく。あんなに眠れないくらい恨んで憎んで、決して復讐以外で消えることの無い想いだと思っていたのに。
愛って、凄い。
「カイラ様には敵いません。さすが大魔女様です」
ユキはそう呟いて、そしてカイラに小さくキスをした。
カイラはガキでは無いので、鼻血を噴射することなく、その小さなキスを何倍にもして返してやるのだった。
END
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