第11話
その日、ユキはカイラの部屋の片付けを手伝っていた。
触るだけで呪いや毒に蝕まれるようなものもあるらしく、あまり積極的に手伝わせて貰えない。
せいぜい確実に安全な道具をひたすら拭いたりするくらいだった。
ふと、ユキはとても大きな石のついたペンダントに目を奪われた。
真っ黒に見えるそのペンダントの石は、眼鏡を外してみると、とても美しいエメラルドグリーンをしていた。
「貴様、なぜ眼鏡を外している。ちゃんとかけろ」
カイラに見つかって、ユキは慌てて眼鏡を戻した。
そして、ユキは先ほど目を奪われたペンダントを手に取り、カイラに差し出した。
「すみません、あまにりもこのペンダントが気になって、つい色を見たくて外してしまいました。これも魔道具なんですか?」
「ああ、それな」
カイラは少し誇らしげな顔でペンダントを受け取った。
「かなり昔に作ったものだけど、綺麗だろう。効果も素晴らしいものだったが、デザインも素晴らしいと絶賛された。貴様が今かけている眼鏡、それの真逆の効果をもつ魔道具だ」
「真逆?」
「そう、魔法の効果が増殖される効果がある」
そう言うと、カイラはペンダントの石を握る。
「こうして魔法を発動すると、少しの魔力で巨大な魔法を使うことができる。もちろん、人に危害を加えるような魔法には発動しない安全設計っぷり……。ははは、自分の才能が怖いな」
カイラは自画自賛しながらやってみせた。
弱い光を放つ魔法を発動さた後にペンダントを握ると、その光は強いものに変化した。
「うわ、本当だ。凄い!」
ユキは目をキラキラさせた。
「あ、私もやりたいです!あの、これ握って眼鏡外してカイラ様の目を見れば、カイラ様は今以上の甘えん坊に……」
「は?」
「……す、すみません、冗談です……」
ユキは、氷のように冷たい目で睨まれて、シュンと縮こまった。
「でも、こんないいものなら魔女さんや魔法使いさんは皆欲しがりそうですよね」
慌ててユキは話を変えるように言った。
効果もさることながら、見た目もおもわずときめいてしまう程美しい。ユキはウットリと見つめた。
「まあ、そうだな」
カイラは少し曖昧な返事をして、そしてため息をついてペンダントをテーブルに置いた。
「理解のある高貴で優秀な魔女達には高評で売れた。でも、馬鹿で低レベルな、戦争で金を稼ぐ事や人を支配することしか考えていない下賤な魔女達には不評だったな」
「あ……もしかして、人に危害を加える魔法には発動しないっていう安全設計のせいですか」
「馬鹿だろう?」
カイラはそう短く笑うと、また部屋の片付けに戻ろうとした。
寂しそうなカイラの背中。ユキは、そっとテーブルに置かれたペンダントを手に取った。
「ユキ、それが気に入ったなら、やる」
ユキの方を見ずに、カイラは言った。
「どうせ魔女でない貴様には使えないし、よく考えたら安全設計があるから、おそらく誘惑魔法に効力も発揮しないだろうしな」
「良いんですか」
ユキはドキドキしながら聞き返した。
「こんないいもの……」
「いらないなら返せ」
「いえ!嬉しいです」
ユキはさっそくペンダントを身に着けた。
「えへへ、似合いますか?」
「いいんじゃないのか?」
カイラは素っ気なく、ユキの方を見ない。
眼鏡をかけていると、美しいエメラルドグリーンが見えないので、ユキはちょっとだけ眼鏡を外してみた。そして、よく見ようとペンダントの石部分を手に取った。 その時だった。
「ああ、ユキ、そう言えばそのペンダン……」
「あ」
急に振り向いたカイラと、完全に目が合ってしまった。
――
―――
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「……ユキ、無視するのか?……俺がこんなに愛してるのに?無視してるじゃないか。だって今だって全然近くに来てくれないじゃないか……。ほら、毎日抱きしてキスしてくれて当たり前だろ?俺は毎日でもしたいのに……。全部、ユキの頭の先から爪の先まで全てに口づけして俺のものだってマーキングしてやらなくてはいけないのに。
そう言えば、前に男が来たとき、手の甲にキスされて嬉しそうにしてた……許せない……。ユキの身体は俺だけのものだろ?そう言えば、庭の猫にも愛想振りまいてたな……ユキは俺にだけ笑いかけてればいいんだ……。 ああ嫌だ、イライラする。ユキ、一緒にどこかへ行こう。誰もいないとこにユキを閉じ込めてしまおう。そうだ、それがいい」
――――
―――
――
「えっと……その。とりあえず、眼鏡を勝手にとってすみませんでした。そして、その……安全設計、機能しなかったようで……」
ユキは平謝りする。その横で、カイラはブスッとした顔でそっぽを向いていた。
「あの……あれなんですね。誘惑魔法の効力が増殖されると、ヤンデレみたいになるんですね」
「うるさい」
カイラはイライラと言う。
「何なんだ?誘惑魔法は人に危害を加える魔法じゃないって判断されたわけか?」
「まあ、可愛くなるだけですし……」
「黙れ」
「すみません」
ユキはシュンとする。
結局、増殖された誘惑魔法にかかったカイラは、散々ネチネチとユキに絡み、危うくユキが本気でどこかへ閉じ込められそうになったところで我に返った。
「いやぁ、でも凄いですね、このペンダント」
ユキが更に目を輝かせると、カイラはすぐにユキからペンダントを取り上げた。
「これは危険だ。返してもらう」
「えっ!」
「え、じゃない!」
カイラの剣幕に、ユキは大人しく引き下がるしか無かった。
完全に凹んでしまったユキを見たカイラは、少々罪悪感を感じたのか、ボソリと言った。
「こんなもの、別にいつでも作れる。ちゃんとした、安全なもの作ってあげてもいい。暇になったら、だけどな」
「ホントですか?」
「暇になったら、暇になったらだからな!」
念を押すように何度もそう言うと、カイラはさっさと片付けに戻ってしまった。
「でも、あれが欲しかったなぁ」
カイラの姿が見えなくなったことを確認してから、ユキはボソリと呟いた。




