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第1話

「私の呪いを解いていただけませんか」


 ユキは、目の前に偉そうに座っている魔法使いにそう頭を下げた。

 黒髪の、妙に顔の整った背の高い男。彼は巷では有名な大魔法使い、カイラである。

 カイラは細くて鋭い目で面倒くさそうにユキを横目で見る。思った以上に冷たい目線を投げられているユキだったが、勇気を振り絞って再度頭を下げた。

「お願いします。目が合うと、相手を惚れさせてしまう、という呪いがかけられてしまいました。誘惑魔法だと思います。日常生活もままならず、こうして解呪のプロであるカイラ様を訪ねてまいりました」


 ユキの言葉に、カイラは意地悪そうに鼻をならした。

「はっ。そんなもの、上手く使えばいいではないか。人を惑わす術は高度な魔法だ。それを使って人々を手玉に取り、村一つくらいなら支配だって出来るぞ」

「そんな事はしたくありません。私は平穏に暮らしたいだけです」

 そう言って、ユキは体を震わせた。

「この誘惑を受けた相手は、欲望に忠実になるようです。優しくなってくれたり言うことを聞いてくれたりするくらいならまだいいのですが、その……無理やり手籠めにされそうになったりもするので……」

「ふーん、そりゃ少しだけ同情するな」

 カイラは一切同情していない顔で頷いた。

「ま、いいだろう。ただ、俺の解呪は安くない。一生支払いをしねばならないぞ」

「構いません」

 ユキの真面目な顔に、カイラは小さくため息をついた。


「さて、まずはその呪いとやらを見せてみろ」


「え?」


「目を見せろ。どんな呪いがかかってるか調べなくては」


「で、でも、そうしたらカイラ様に誘惑魔法が……」


「馬鹿にするな。俺は大魔法使いだ。貴様のような小娘の受けた呪いなんぞ、効いたりするはずがない」


 カイラが自信満々に言うので、ユキはそっと顔を上げてカイラの顔を見た。


 ………

 …………

 ………………


 はっとカイラは我に返った。


「な、何だ。……今一瞬意識が飛んでいって真っ暗になったぞ」


 そう、ユキの目を見た瞬間、カイラの意識は途絶え、次の瞬間には、真っ赤な顔のユキが部屋の隅に座っていた。


「おい、まさか……これが呪いか」


「……あ、ええ……そう、です」

 ユキは目を合わせない。


 それは、誘惑魔法をかけないようにしている、と言うよりも、単純に恥ずかしがっているような様子だった。

 カイラは愕然としながらユキに問いかけた。

「まさか、この俺が貴様の誘惑魔法にかかった……?」


「そう、みたいですね」


「なんて強い呪いなんだ……。おい、俺は貴様に誘惑されたのか?どうなっていた?」


「……いえ、……どうも……なってません……」


 ユキは歯切れが悪い。

 カイラはハッとさっきのユキの言葉を思い出す。


『無理やり手籠めにされそうに……』


「おい、まさか俺は、貴様を手籠めに?」


「ち、ちがいます!」

 ユキは慌てている。


「なら何をしたんだ。教えろ。呪いを解くには呪いの内容が分からねばならないのだぞ」


 カイラがイライラと言うと、ユキは仕方なく答えた。


「その、……甘えん坊に、なりました」


「はあ?甘えん坊?」


 素っ頓狂な声を上げるカイラに、ユキはコクコクと頷いた。


「馬鹿な。俺が甘えん坊だと?嘘も大概にしろ。もういい。こちらの記録魔法を使って確認する!」

 イライラしながらカイラはそう言い放つと、指を振り上げて、何やら部屋の隅に魔法をかけた。


「これで、今からの事はあの魔法に全て記録される。俺が意識を失っている間のこともな。さあ、もう一度目を見せろ」


「いや、でも」


「見せるんだ」

 カイラは強引にユキの顔を持ち上げて、その目を見る。


 その瞬間、また意識が途切れた。


 ………

 …………

 ……………


『さっきはキツイ言い方してごめんねぇ。可愛い女のコ訪ねてくるの初めてで緊張しちゃったんだ。もうユキちゃん可愛くて可愛くて♡

 ねえ、俺になでなでしてよ。へへ。膝枕してよお。にゃんにゃん♡ねえ、ユキちゃん、ぎゅ~してよぉ。ぎゅ〜♡わあ幸せぇ。ユキちゃん大好き。にゃんにゃん♡』


 カイラは、意識を失っている間の記録魔法を見て、頭をかかえた。

 ユキはオロオロしながらカイラを励ます。

「その、仕方ないですよ。すっごい強い呪いなので。その、可笑しくないですよ。とても甘えん坊で可愛かったですし」


「うるさい」

 カイラはユキを睨む。

「……費用はいらない。すぐにでも呪いを解く」


 カイラは、血の涙を流さんばかりに、よろよろと解呪薬を作るために調合室へ向かっていった。



「……誘惑魔法は欲望に忠実になるんだよなぁ……」


 あの人も誰かに甘えたくなるくらい色々苦労してんだろうな、とユキは申し訳ない気持ちになった。




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