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第89話 最期の幼馴染 後編

すごく長くなってしまいました。4000文字弱あります。最後まで読んでくれると嬉しいです。(最終話じゃないです!)

 私が破壊衝動に目覚めたのはいつだろうか。いつから私は歪み始めたのだろうか。そもそも「私」とは何だろうか。


 本当の「私」を、私はもう知らない。




 私が破壊衝動に目覚めたのは、恐らく小学生の時。記憶のある中では、それが一番最初だ。



 ある雨の日。道の端に、弱っている野良猫がいた。たしか私は優希と歩いていて、2人とも家では飼えなかったから私が連れていったのだと思う。


 私は少し家から離れた公園の中の、誰も立ち寄らないような林の奥に猫を連れていった。


 弱っている猫を見て、私はこう思ったんだ。「私がいなきゃ、この猫は生きていけない。私が、いつでも壊せてしまう」と。


 ゾクッとした。


 快楽とも、歓喜とも取れる何かを感じた。


 こんな林の奥、きっと誰も立ち寄らない。私が何をしてもバレない。

 だったらいっそ、殺してしまってもいいんじゃないか?


 そんな考えが浮かんだことを覚えている。


 だが、まだこの頃の私にも猫が可哀想だと思う心はあり、結局殺さずに普通にしばらくの間そこで育てた。


 優希に気づかれるかもしれないと思ったのかもしれない。


 しばらくすると猫は姿を消していて、少し残念に思ったのを覚えている。なぜ残念に思ったのかは、よく分からない。




 そこから数年。私の中でその欲望は膨らみ続けた。どんどん肥大化する欲望に、私は戸惑いと同時に物足りなさを感じていた。


 周囲の期待に応えるために「いい子」で居続けた。


 だから変なことをすることは出来なかったし、日々の生活が非常に退屈だった。でもそんな中で、私はあることに気づいた。


 優希は私に気があるのではないか、と。



 どこかで聞いたことがある。恋愛は、先に惚れた方が圧倒的に不利であると。つまり、惚れられた側の一挙手一投足に、惚れた者は振り回されるのだ。


 だから私は、それを最大限利用することにした。私の目的(快楽)のために。




 ☆




 ……その結果がこのザマか。


 高校では上手くやれなかった。一度優希の心にヒビを入れたくらいで満足し、油断してしまった。割ることをしなかった。


 今回も、優希の心は割れなかった。私を助けようとして、まだ私が生き残る可能性に希望を持っていた。いや、それにすがりついていた。


 またしても私は、何にも頼れないようなどん底に突き落とすことが出来なかった。


 あいつが嫌がるであろうことは全てやったつもりだった。


 だが、あいつ自身を予想しきれなかった。お人好しというか、困っている人がいたら迷わず助けるような奴だった。


 それを完全に忘れていた。


 要は私は、完全に失敗したのだ。





 ……あーあ。結局私は、自分のやりたいことに関しては全て中途半端なままだった。これで死ぬのは、やりきれないなぁ。



「──ぃ、ぇ──」



 私はおかしかったんだろうな。普通じゃなかった。目的のためなら、どんな非道なことでも厭わなかった。


 人を殺しても、騙しても、なんとも思わなかった。むしろ、気持ちいいとさえ感じたくらいだ。


 こんな感覚、周りに言っても共感して貰えないことは分かっていた。だから私は、疎外感を時折感じていた。


 世界にひとりぼっち。そんな感覚だ。誰の共感も、賛同も得られない、たった一人の孤独な道。



「……──を─まし──」



 いつまでもひとりぼっち。最期まで、結局本当の意味での友達も、私を心配してくれるような人も出来なかった。


 本音を隠した偽物の私に、私の能力を見て擦り寄ってくる人ばかりだった。偽物の私には友達がいても、本物の私には友達はいなかった。


 ……地獄に行ったら友達できるかな? きっと、私と話の合う人だっているはずだ。



「……─り! め──して──」



 ……さっきからなんなの? うるさいなぁ。早く向こうに逝かせてよ。


 耳を塞ぎたくなる気持ちとは裏腹に、どんどんその声は大きくなっていった。




 ☆




 結論から言えば、絵里は何とか一命を取り留めた。


 胸骨によって防がれ、包丁は何とか心臓には届かなかった。力が足りなかったようだ。だが、刃先は心臓の一歩手前まで刺さっており、危ない状況だった。


 一命は取り留めたが、絵里はこの数日目覚めていない。出血が原因なのか、なにかのショックが原因なのか。


 俺にはよく分からないが、とにかく絵里は目覚めていなかった。


 仮に目覚めたとしても、絵里がどうなるのかは分からない。2人を殺し、遺体を切断して、住居に侵入したのだ。


 それ以外にも余罪は出てくるかもしれない。きっと、無罪放免なんてことはないだろう。はっきり言って悪質なことに違いは無い。


 だが、少しくらい、話を聞いてもいいかなとは思った。




 ちなみに、那月や詩織、莉子は鳴り響くサイレンの音で起きてきた。3人が起きる前に2つの頭や絵里には少しタオルをかけてあったので、そこまで酷い光景は見ていない。


 だが、大なり小なりショックを受けていた。まぁ、血にまみれた俺と、地面に倒れる絵里を見たのだ。もちろんショックを受けるだろう。


 莉子と那月は気絶してしまった。詩織は少し呆然としていたが、しばらくしてハッと気がついたように莉子と那月を寝室へ運んでいた。




 そして、俺たちはあれから時間を見つけては毎日大学の後に絵里の入院する病院に来ていた。


 絵里が居る病室をノックし、今日もまた返事が返ってこないことを残念に思いながら扉を開く。


 絵里は、いくつもの点滴に繋がれ、静かにベッドに横になっていた。まだ目は覚ましていない。



「……おい、絵里。今日もお見舞いに来たよ。今日もみんなで来たんだ」



 何の反応も示さない絵里に、俺は今日も呼びかける。こうして呼びかけたら、もしかしたら起きるかもしれないだろう?


 そう思いつつ、「今日も起きないだろうな」と思って声をかけた。すると、絵里の指先が少し動いた。



「!」


「絵里、目を覚まして!」



 那月がそう叫ぶ。


 3人とも、絵里の事が好きな訳では無いが、目の前で人が死ぬのを良しとする人達では無い。


 かつて敵だとしても、殺したい、死ねばいいとは思うことが出来ないのだ。甘いと言えば甘いのだろうが、俺はそんなところも好きになったのだ。


 那月の呼び掛けに、また絵里の腕が少し反応する。



「「絵里! 目を覚まして!」」


「起きてくれ!」


「絵里!」



 口々に、絵里に呼びかける。絵里の眉がピクっと動き、だんだん動きが大きくなってくる。


 ──そしてついに、絵里が目を覚ました。



「──うるさいなぁ、もう。早く逝かせてくれれば良かったのに」


「絵里! よかった……」


「ははは……なんであんたが喜ぶの、よ……」


「えっ、絵里?」



 絵里は少し喋ると、今度は電源が切れたかのようにパタッと倒れた。だが、今度はただ寝ているだけのようだった。


 俺たちは急いでナースコールを押し、医者を呼んだ。


 嬉しいような、悲しいような自分の気持ちに戸惑いながら。




 ☆




「あーあ。結局助けられちゃったわけだ」


「……まぁ、そうなるな」


「で? なんで優希はここにいるのかな? 見たくもないだろう?」



 俺は、今日は1人で絵里の所に来ていた。


 事件に関する諸々は、絵里が退院してから本格的に始まるらしい。だから、まだ普通に話せるうちに話そうと思い、俺は今日ここへ来た。



「なんでって……ちょっと話がしたかったから?」


「ふぅん……変なの。まぁいいや。何話したいの?」


「いやその、お前は……絵里はなんでこういうことをしようと思ったのかなって」


「それは、私の動機について知りたいってこと?」


「まぁ、そうなるな」



 俺だって、一応元幼馴染だ。どこまでが本当の絵里なのかは分からないが、元は優しい人で、人を貶めるような人ではなかったと記憶している。


 だから、少し気になったのだ。なぜ、人を殺してしまったのか。死のうとしたのか。



「長くなるよ?」


「構わないよ」


「ふふっ、そっかそっか。引かないでくれると助かるね」



 絵里は一呼吸置くと、ゆっくりと自分について語り始めた。





 ☆




「──ってわけ。優希も私も、本当の神楽坂絵里は知らないよ」


「……」



 絵里の行動理由、考えを初めて知った。知ったからと言って、今までのことを許すつもりは無い。


 ただ少し……そう、ほんの少しだけ。絵里に同情心が湧いてしまった自分が居た。


 取り残されることは怖い。一人ぼっちは怖い。だから、紛らわそうとする。誰もが大なり小なり持っている感情だった。



「お前を許すつもりは毛頭ないし、やったことは社会でも共感されないし許されないことだと思うけど……別にお前は一人ぼっちじゃないからな」


「……! 何言ってるんだか。……でも、ありがとね」



 そういうと、絵里は寂しそうに少し微笑むと、窓の外の空を見上げた。雲はあるが、陽の光が街を照らしていた。



「じゃあ俺は帰るな」


「そう。気をつけてね? 今度は優希が刺されるかも」


「流石にないっての。じゃ、さよなら」


「……うん。バイバイ」



 俺は扉を閉めて、振り返らずに病室を後にした。




 ☆




 ──1人ぼっちじゃない、か。


 そうなら嬉しいな。最期に少しだけ、ほんの少しだけ、救われたような気がする。


 到底渇きは満たせないけれど、少しだけ認めて貰えたような気がした。


 もう会うのは最後かもしれない。私は一生刑務所暮らしか、死刑かもしれない。


 最期に、友人と1度は思うことが出来た人と、獲物と捕食者のような関係ではなく、かつてのように話せてよかった。周りの目を気にせず、好きなように話すことが出来て良かった。


 一切の後悔は無い。私の最期は、これでいい。


 優希の居なくなった病室で、私はもう一度空を見上げた。私の目には、厚い雲が写った。光よりも強く。

お読み頂きありがとうございました!


これにて絵里編終了です! 今後はハッキリとさせない終わり方になりましたが、恐らくいいものでは無いでしょう。


また、優希が救いで、絵里が破滅。と言った形にさせて頂きました。


「優希のような人なら、こうするかもしれないな」と思って書きました。全体的に絵里と優希の行動に違和感があったらすいません!


また、医療や法律などに詳しい訳では無いので、「こっちの方が正しいのでは?」などと思う点があったら押して頂けると嬉しいです。


次話、いつぞやの先輩が現れるかもわからん。と言った感じです! 普通にメインの4人(優希ファミリー)に行くかもです!


評価していただけると励みになるので、面白い・続きが気になると思っていただけたら、ぜひ★といいね、ブックマークなどよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] こんな時間起きたら間違いなくユウキの周りの方が報道されるから相当肩身の狭い想いをすることになるだろうな、、 複数の女が出入りしてるのはバレるし、元クラスメイトが有る事無い事好きに語るだろうし…
[良い点] なんとなく余韻の残る、言い終わり方に感じた。 途中まであく人中の悪人で、憎さしか無かったはずのエリに対して、なんとなく人間らしい感情で向き合えるように鳴尾割り方だったので、個人的には大好き…
2024/05/18 22:47 退会済み
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[一言] 高校受験合格おめでとうございます。 作者様がこんなに若いなんておっさんビックリでございます。 こんな年で面白いと他人に思ってもらえる文章をつづれるなんて凄い! 小学校で作文-1だった私には恐…
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