第78話 クリスマス旅行-帰宅
小鳥の囀る声で目を覚まし、ゆっくりと体を起こす。俺の寝ている布団で姉ちゃんが寝ていて、もう一つの布団で那月が莉子を抱き枕にしながら寝ていた。
俺がまだ目の覚め切っていない頭でぼんやりと眺めていると、那月が「優希くん……激しい……」という寝言を呟いたため、一瞬で目が覚めてしまった。
昨夜はいつもと違う雰囲気で燃えて、中々楽しい時間になった。勿論それなりに疲れたため、少し動きがぎこちなくなっているのだが。
「これでよし」
布団から出て浴衣を着なおし、三人の頭の辺りにプレゼントを置く。クリスマスということで、事前にプレゼントを用意してきたのだ。幸い一番最初に起きることが出来たため、サプライズにすることが出来た。
あと気になることと言えばプレゼントを喜んでくれるかということなのだが、喜んでくれると思いたい。
少し三人の寝顔を眺めた後、折角なので朝風呂に行こうと思い立ち、三人を起こさないようにこっそり温泉に向かった。
☆
昨日はなんやかんや言ってゆっくり浸かることが出来なかったため、リラックスした状態で温泉に浸かる。まだ朝七時過ぎなので外に出るときは入るのをやめようかと思うくらい寒かったが、こうして温泉に浸かっていると大分温かかった。
暫く時間も忘れてそうしていると、女湯の方で引き戸を開く音がし、「寒っ!」という那月の声が聞こえてくる。
「那月ー、おはよう」
「やっぱりここにいた。優希くんおはよう。早いね」
「那月もな。昨日あんなにしたのに元気そうだけど」
「それはっ、言わないでよ。やっぱり思い返すと恥ずかしくなってくる……」
だんだん尻すぼみになっていった那月の声からして、向こうでは那月が顔を赤くしていることが想像できる。寝言のことは言わないほうがいいだろう。
暫く居心地の良い無言の時間が続き、不意に那月から声をかけられたことによってぼんやりとしていた意識が鮮明になってくる。
「ねえ優希くん」
「どうした?」
「優希くんは幸せ? 私たちと居てどう感じてる? ……私は、優希くんを救うことが出来た?」
「急だな。うーん、そうだな……」
急な質問に俺は少し考え込み、今度は少し気まずい沈黙が訪れる。1、2分考えたあと、俺は那月に対しゆっくりと語りかける。
「俺は幸せだよ。毎日楽しいし、特に不自由することなく困りごともなく過ごすことが出来てる。つまり、皆と居て幸せってこと。今度はちゃんと信頼できる人が周りに沢山いるしね」
「うん」
「で、俺が那月に救われたか、だよな。俺は少なからず皆に救われたところがあるし、那月にも勿論救われたと思ってる。初めは驚きも多かったけど、俺を捨てずにいてくれる人が居るっていうのは大きかった。
そして、感情が戻ってきた、というよりは心の中で閉ざしていたものを開放することが出来たのも那月のおかげだと思ってるよ。きっかけは那月なわけだし」
「え?」
初めて那月と姉ちゃんの気持ちを知ったあの日。あの日最後に乗った観覧車で。あの場所が俺にとっても大きな変わり目だったと思う。あそこで一つでも感情を取り戻したからこそ、今こうしていることが出来たのではないかと思っている。
感情が無かったら、ただ思考のみで行動するAIロボットとなんら変わりは無かった。そんな状態の俺は「七瀬優希」ではない。だから、偶然あの場で感情が戻ったのだとしても、俺は那月に救われたのではないかと思っている。
「そっか、そっか。へへっ」
「どうした、急に」
「いや? 私も優希くんを救うことが出来てたと思ったら嬉しくて。時間がかかっちゃったけど、恩返しができてよかった」
「……? そっか」
嬉しそうな那月に恩返しが何についてなのか聞くことは出来なかった。あまり脳も働いていないし、ただ思い出せていないだけかもしれない。ただ、どことなく温かい空気が広まっていくような気がした。
☆
帰りのタクシーの中で、三人が後ろの席で俺の渡したプレゼントを様々な角度から舐めまわすように見ている。
その滑稽な様子に俺は苦笑し、俺は朝からのことを思い返す。
俺と那月が部屋に戻ると浴衣を着た姉ちゃんと莉子が部屋の中をうろうろと歩き回っていて、その手には俺の置いておいたプレゼントを開けずに持っていた。これでいいのかと悩むようなものだったが、一番喜びそうなものを入れたつもりだった。
俺が屋に戻ってきたのを確認すると那月の分まで持ってきて俺の前に並んで、
『開けてもいい?』
としっかりハモって聞いてくる。那月も思い出したようにプレゼントを受け取って俺の方を見て、二人と同じようにまっすぐに俺の目を見てくる。
その圧に耐えられず「どうぞ」と答えると、申し訳程度のラッピングを丁寧に剝がしていく。
『これはっ……!』
「気持ちが大事かと思って。すごい子供っぽいとは思ったんだけど、喜ぶかなと」
「すっごい嬉しい! ありがとう、優希兄!」
莉子はそう言うと俺の腰のあたりに飛びついてきて、それに続くように姉ちゃん、那月の順で飛びついてくる。
一人につき三枚、「何でも言うこと聞く券 ※本当に何でも」と書いた紙をプレゼントにした。どんなものがいいのか分からなかったのもあるが、率直に一番喜びそうなものがこれだったのだ。
プレゼントとしてどうなのかと思ったが、どんな物かよりも気持ちが大切だと自分を納得させ、今回持ってきたのだ。
結果として想像以上に喜んでくれたのでよかったと思う。「何でも」と言ってしまったからには本当に何でも聞くことになるので、その点に関しては不安を覚えるが、予想外のお願いが来ないことを願うしかない。
喜んでくれたことへの安堵を感じたのと同時に、動けないことに困ったのを覚えている。そして今までずっとその紙を見続けているのだから驚きである。
だんだんと雪がなくなってきて、この一泊二日のクリスマス旅行が終わるのを感じ、少し寂しく思いながら山を下るのだった。
次話、初詣です。
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