第76話 クリスマス旅行-危険がいっぱい
一回消えてしまって書き直していたら遅くなってしまいました。申し訳ありません。
スキー場に着き、予約していたスキー板やストック、スキーウェアを受け取り、それぞれそれに着替えてからゲレンデに集合した。
レンタルのスキーウェアにゴーグルやニットを着けてしまうと見分けがつかなくなるため、那月には常に誰か一人が付いていることになった。
全員一応スキー経験者ではあるため、軽く慣らしてからすぐに滑り始めることにした。
リフトに乗るときに誰が俺の隣に座るかで熾烈な争い(じゃんけん)が行われ、莉子が勝利した。
「ふふふ、今日の優希兄の隣は私で決定だね」
『あそこでグーを出さなければ……くっ』
姉ちゃんと那月が悔しそうに自分の出したグーの手を見つめている。
「そこまで言うことか?」
「優希兄は今は気にしなくていいよ! さあ、行こ行こ」
莉子と一緒にリフトに乗り、上へ向かう。その最中莉子がずっと鼻歌を歌っているため、何故そこまで上機嫌なのかが気になってくる。
若干の不穏な空気を感じつつも、それが何なのかが分からないままリフトを降り、全員が揃ってから滑り始める。
「二人にもチャンス上げる。一番最初に着いた人が二番目だよ。あと次優希兄の隣乗れる。それじゃ、よーいスタート!」
「言い訳は聞かないわよ!」
「ちょ、二人とも待ってー!」
莉子の所々おかしな話を聞いた瞬間、莉子が滑り出したのを急いで追うように姉ちゃんが滑り始める。那月が少し出遅れてそれに続き、俺が一人残される。
訳が分からず周りからも謎に注目を浴びてしまったため、俺はマイペースに滑り始めた。ほんの少し前まで見えていた背中は、もうとっくに見えなくなっていて、どれだけ飛ばしているんだという驚きと何がそこまでやる気を出させるのかという疑問を感じた。
俺が下に着いた頃には、ドヤ顔で胸を張る那月と、少し残念そうに目線を下げた莉子と、完全に沈んでいる姉ちゃんがいた。
おおよその順位の予想はできた。
「さあ優希くん、もう一回行こ!」
「お、おう。さっきからなんの勝負してるんだ……?」
訳の分からないまま、午前中は三人の勝負にずっとついていった。
☆
十一時を過ぎたところで昼食を食べるため一旦勝負は休戦となった。
早めに昼食を食べないと食堂が混むため、食堂に向かう。それぞれラーメンやカレーを注文し、向かい合って食べ始める。
『美味しい……』
「スキー場の飯ってなんかおいしいよな。あんまりはずれがないというか。それに寒いときに食べるから余計においしく感じるし」
「身に染みるってこんな感じなのかな?」
「そうかもなぁ」
それまで滑り続けて冷えた体に、温かい食べ物は最高だ。カレーやラーメンの汁が飛ばないように気を付けて食べた後、何故か姉ちゃんが席を立つ。
持って帰ってきたのは4つのソフトクリームで、スキー場によくある牛乳のソフトクリームだった。
「詩織姉、なんで人数分買ってきたの?」
「おいしそうじゃない? せっかくだから全員分買ってきたの」
「せっかく温まったのに……」
莉子が少し眉をひそめて聞き、那月が肩を落とす。それを見ても姉ちゃんは首を傾げるだけで、俺は苦笑するしかなかった。絶妙に抜けているところがあると再認識させられた瞬間だった。
「詩織、二つ俺がもらうから、あと一つは莉子と那月で半々にしてあげて」
「……? まあいいけど、お腹壊さない?」
「大丈夫じゃない? 多分」
「優希兄。私が半分食べるから、もう半分は優希兄が食べて。那月の方も同じで、優希兄が半分食べてあげて」
莉子が俺と姉ちゃんのやり取りを見て、俺がアイスクリームを二つ手に持った瞬間にそう言う。
つまり、俺は一個と半分と半分を食べればいいということだろうか。那月と莉子の顔を見ると、これでもかというくらい頷いていた。
先に食べてとのお達しがあったため、二人の分を先に半分ずつ食べてから自分の分を食べる。自分の分を食べている最中、莉子と那月の妙にしっかりと味わっている姿が気になったが、俺は気にしないことにした。
なんとかアイスクリームを食べ終わったところで、俺は強烈な腹痛に襲われた。こうなるだろうという気はしていたのだが、あまりに早く来たため、多少驚いた。
「ごめん、これ即効性だったみたい。トイレいって来る」
「……? いってらっしゃい、優希」
「じゃあ私たち先に外で待ってるね」
「ごめん、よろしく……」
相変わらず姉ちゃんは不思議そうに首を傾げていて、まるで原因が分かっていないようだった。
だんだんと限界に近づいていったため、俺は急いでトイレに向かって歩き出した。
☆
暫くトイレに籠った後、俺は下腹部をさすりながら三人を探し始めた。冬に冷たい牛乳の使われたものを大量に食べるのはよくなかった。大分お腹が冷えてしまっていた。
少し遠くに三人を見つけ、歩き出したところで、突然大学生くらいの女の人二人組に声を掛けられる。
「すいません、もしかして一人ですか? 私たち連れが見当たらなくなっちゃって、よければ合流できるまでの間一緒に滑りませんか?」
「いや、あの……」
「合流できるまでで大丈夫ですから、ね?」
「その……」
「一緒に滑りましょうよ」
「後ろ……」
『え?』
俺は恐る恐るその二人の後ろを指さす。振り向いた瞬間二人は凍り付いたように動かなくなり、少し可哀想になる。
どうやってこちらに気付いたのか、姉ちゃんら三人が声をかけてきた二人の後ろで腕を組んで立っていて、とても不機嫌そうな顔で二人を見つめていた。
「えっと、その……」
「何?」
「す、すいませんでした。ごゆっくりー……」
しどろもどろと何か言おうとした二人に対し、姉ちゃんが威圧感全開の低い声で言う。その声に二人はビクッと震え、小刻みに震えながら立ち去って行った。
俺も、あんな声で問い詰められでもしたらどうなるか分からないので、この三人は怒らせないほうがいいともう一度心に刻み、裏切るようなことが無いようにしようと固く決意した。
その後、急に笑顔になった三人に連れられ、俺たちはまた滑り出した。
☆
午後もまた勝負、つまりさっきのレースの続きが行われた。
15時くらいまでスキー場にいるつもりだったので、何回かは全員で楽しく滑った。ラストの勝負は莉子の勝利で、那月と姉ちゃんに対して何か約束していた。
着替えに行くために歩き出したところで、三人より体力のない俺は、疲労のせいで足元がおろそかになり転んでしまう。
「うわっ」
「きゃっ!」
という声が短く発せられ、俺は誰かを押し倒すような形で倒れてしまった。幸いまだ柔らかめの雪だったため、どこかを打ったということはなさそうだった。あと、何か柔らかいものに顔面が着地したようだった。
俺は四つん這いのような姿勢になって、下敷きにしてしまった人物に謝る。
「ごめん、大丈夫?」
「うん、大丈夫。ありがとね、優希くん」
「痛いとこない?」
「大丈夫大丈夫。それより……上からどいて欲しいなぁ、なんて」
那月が少し頬を赤らめて目線を逸らして言う。
俺は何故そう言われるのか分からず、那月のことをまじまじと見る。よく見ると手は俺が押さえつけているし、しっかりと押し倒している体勢になっていた。
俺はその状況を客観視してみて、これがどんな体勢になっているのかに気付き、急いで那月から離れた。
「優希兄、外なのに大胆」
「これは私たちもいいってことよね。今度やりましょうか」
「何を!?」
那月を立ち上がらせながら、姉ちゃんたちの発言に危うさを感じて突っ込む。これは事故であって、決して俺は野外でしたいとかそういうわけではない。
姉ちゃんと莉子の発言が冗談であることを願いながら、那月に謝って更衣室に向かった。
ちなみに、俺が那月が頬を赤らめた理由であろうことを言って謝ると、那月はさっきの出来事を思い出したのかまた頬を赤く染めていた。
次話、クリスマス旅行-本番です。
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