第71話 お姉ちゃんウィーク・序
姉ちゃんの「土曜日からがいい」との希望で、お姉ちゃんウィークは土曜日から金曜日までの1週間となった。
ちなみに、この「お姉ちゃんウィーク」というのは上機嫌な姉ちゃんが発した言葉だ。何となく俺もこれを使っている。
姉ちゃんと那月からアドバイスを受けた日に石崎にはその内容を伝え、石崎は「やってみる」と意気込んでいて、早ければ来週にでもちゃんと付き合いだすのではないだろうか。
今日は金曜日で、時計は既に十二時を回っている。もう土曜日だから、一応はお姉ちゃんウィークが始まったということになる。俺は明日からのことに備えるため、早く寝ようと思い自分の部屋の前まで来ると、部屋の中から物音が聞こえてきた。
まさかと思いつつも、俺は恐る恐るドアを開く。
「優希、お姉ちゃんウィークが始まったわよ!」
「早速か……」
部屋の中、ベッドの上には少し興奮している様子の姉ちゃんが座っていて、早くと催促するように隣を叩いている。
「まずは添い寝よね。最近できてなかったもの」
「姉ちゃん、朝からじゃ駄目?」
「優希、お姉ちゃんのいうことは?」
「……絶対」
「そうね。じゃあ駄目よ」
そこまでやるかと思ったのだが、契約書のようなものを書かされて、確かにそこには「お姉ちゃんの言うことは絶対聞くこと」という内容が書かれていた。
俺は仕方なく一緒の布団に入り、姉ちゃんと添い寝することにする。仕方なくというのは、恋人という関係だし、初日のことがまだ頭に残っているからである。そのため、ここ一週間は一緒に寝るのを禁止していたのだ。
だが、姉ちゃんの言うことは絶対なので、逆らうことはできない。もし仮に全力で逆らったとしたら、あの契約書を使われてなにをされるか分からない。大人しく従っているのが得策だろう。
「ゆーうーきっ、こっち向いて」
「はい」
俺が姉ちゃんに背中を向けていたことに満足しなかったのか、俺は姉ちゃんにそう言われる。
何しろ狭いベッドだ。向かい合って寝るとなるとそれなりに近くなる。とんでもなく美形な顔が目の前にある状態で寝られるか自信がない。
俺が姉ちゃんの方を向くと、姉ちゃんは俺の頭を優しく撫で始める。
「優希、私は優希と付き合えて本当に嬉しいのよ? 別にその、エッチなことができるからとかじゃなくて、姉弟という関係から変われたことが」
「そうなの? それにしてはこないだ大分羽目を外してた気がするけど」
「そ、それは! 忘れて頂戴。優希と付き合ってるっていう証が欲しかったのよ。別にこれからはあそこまではやらないわ」
姉ちゃんはスッと目を逸らし、顔を赤らめながらそう言う。もしかしたら、これまで距離感というか、行動がおかしかったのはそういう理由があったからなのかもしれないと、そんな考えがふと頭に過った。
とにかく、今の姉ちゃんの発言から、今週引っ張りまわされることはあってもそういった行為に及ぶことはなさそうで、少し安心する。
この間は、マジでヤバかった。久々に体力の限界というものを迎え、その他いろいろなものが限界だった。何度もそういうことがあっては身が持たない。
俺の安堵を察知したのか、姉ちゃんは少し申し訳なさそうに眉を下げる。
「ごめんね。これからは気を付けるから……。ああいう女の子は嫌い?」
「別にそういうわけじゃないよ? ただ、流石にあれはきつかったというだけで。姉ちゃんのことは好きだよ」
「ふふふ、私も優希のことが大好きよ。世界で一番好き」
「ありがと」
姉ちゃんはそう言ってへにゃっと笑うと、安心したのかすぐに眠ってしまった。
姉ちゃんの寝顔は美しい。学校でのイメージとは真逆の、天使とか女神のようなイメージだ。教えてやりたいという気持ちもあるものの、これは俺だけの、俺たちだけの秘密にしたいという思いが大きく、やはり伝える気にはなれなかった。
少し変態っぽいかとは思ったものの、俺は姉ちゃんの髪を少し自分の方に手繰り寄せ、その匂いを嗅ぐ。なんというか、気を紛らわすためにしただけであって、決して他意はない。姉ちゃんを見ているとずっと見とれていてしまいそうだったのだ。
姉ちゃんの髪はふんわりと甘い花のような匂いがして、俺はその匂いに安心感を感じて、すぐに眠気を感じて眠る。
これが、お姉ちゃんウィークの始まりだった。
次話、お姉ちゃんウィーク・破です。
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