第56話 写真の人
テストいい感じでした。
看護師さんが走っていった後、最近の写真の方に写っていた姉妹や、大人が2人来て、色々と検査を受け、今はまた病室に戻っている。
どうやら、一時的な記憶喪失らしい。暫くすれば治るんだとか。
あと、僕の名前は「七瀬優希」と書くらしい。優希……何だかしっくりとくる。
目の前で顔を埋めて泣いている2人は僕の義理の姉と妹らしく、その後ろに立っているのが両親らしい。
「ねぇ……本当に覚えてないの?」
姉である詩織さんが、顔を上げてそのように問い掛けてくる。
「ごめんなさい。今は何も……」
「いや、優希が謝る必要は無いのよ。悪いのは私なんだから……」
詩織さんはそう言うとまた泣き出してしまい、僕はオロオロとしてしまう。
なんで詩織さんが悪いのだろうか。僕は「事故」とだけ聞いているし、詩織さんに何かされて起きた事故では無いと聞いている。
それなのに詩織さんが謝る必要は無いはずだ。
「えっと、その…詩織さんが謝らなくても」
「いえ、私が悪いのよ。私が。私があの時動けてれば何か変わったかもしれないのに。私を庇ったせいで……」
「詩織姉、優希兄も困ってるから、ね?」
それまでこちらをボーッと見ていた莉子さんが詩織さんを宥める。
「優希兄、取り敢えず、もう心配しなくていいからね。優希兄に悪いことする奴はいなくなったから」
「……? 分かりました?」
「というか、敬語じゃなくても大丈夫だよ。退院したら同じ家に住むわけだし」
勉強や日常生活に関する記憶は残っていて、忘れているのは今までにあったことや人物の記憶だけだった。
数日入院したら退院し、この「七瀬」の皆さんの家で過ごし、学校などにも行っていいとの事。
記憶もそのうち何かのきっかけで思い出すかもしれないということから、必要以上の刺激を与えられなければ大丈夫らしい。
やはり何も覚えていないことから、多少の不安もあるが、それ以上に詩織さんの落ち込みようが凄いため、これで戻らないと言ったら更に沈みそうで、そちらの方が心配である。
「優希、私たちは出ていくから、詩織や莉子と少し待ってて」
「はい、分かりました」
「まだ他の人が来ると思うのよ」
両親はそう言うと病室から出ていき、それを待ち構えていたかのように入れ替わりで人が入ってくる。
この人も、最近の写真に写っていた人だ。
「優希くん、大丈夫? どこか痛いところとかは」
「特には無いです。……えっと、あなたは?」
「あぁ、ごめんね。私は中野那月。優希くんの友達だよ」
中野さん。僕の友達。
……駄目だ、思い出せない。でも、写真にも写っていたし、友達というのは本当だと思う。
「無事…じゃないけど無事でよかった。交通事故だなんて……」
「そうね、怪我が少なくてよかったわ。これで怪我までしていたら私は優希に顔を合わせられなかった」
「詩織先輩、アイツらが悪いんだよ。詩織先輩は悪くない」
詩織さんは悪くないはずなのに。僕は交通事故とだけ聞かされたし、それ以上は語られていない。きっと僕の知らない何かがあったのだろう。
何だか気まずい雰囲気になってしまったので、気になっていた数ヶ月前の写真に写っている人物について聞く。
「あの、この写真に写っている人達って?」
「……優希は気にしなくてもいいわ。はぁ、何でこんな物が残っているの……」
詩織さんはそれを見るなり顔を顰め、見たくもないと言うように電源を切った。
その後、僕に許可を取ってその写真を消去した。僕に聞くのではなく、「優希」に聞くべきだとは思ったが、何故か僕も消した方がいいと思った。
「優希兄、疲れたんじゃない? 寝ててもいいよ」
「うん、そうする。ありがとうね、莉子さん」
「じゃあ、おやすみ。優希くん」
記憶を思い出そうとするのは案外疲れ、少し頭が痛くなってきていた。
やはり記憶が無い状態で無理をするのは良くないようだ。そう思い、僕は莉子さんに言われたように寝たのだった。
☆☆☆
詩織side
優希が寝たのを確認してから、私は大きく溜め息をつく。
どうして記憶のある「優希」はあんな物を消去していなかったのか。あんな忌々しいもの、取っておく意味は無いはずなのに。
自分のミスとあのクソ野郎どもの事を考え、私はあの、優希が事故にあった日のことを思い出した。
次話、真相です。
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