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月不知のセレネー35

 それから私はドライヤーの電源を切るとドアモニターを覗いた。まだ髪は乾ききっていないけれど仕方がない。時刻は二二時近く。なかなか非常識な時間帯だと思う。

「はい」

 私は名乗らずにその訪問者に声を掛けた。できうる限り不機嫌に。そして嫌悪感を込めながら。

『よぉ。遅くに悪いな……。浦井だ』

 そんな今一番聞きたくない男の声がドアフォンのモニター越しに聞こえた。モニターに映る惣介の顔は酷くくたびれていて彼の実年齢より老けて見える。

「何? こんな時間に?」

『本当に悪い。ちょっと急用でな』

「……ちょっと待ってて」

 私はそう答えると急いでジャージから少しだけマシな服に着替えた。薄手のグレーのパーカーに水色のデニム。来客対応としては微妙な服装だけれど惣介ならこれくらいで問題ないだろう。

 着替え終わるとすぐに玄関に向かった。そして念のためドアスコープを覗いてからドアを開く。

「何よ? こんな夜中に?」

 私は再びトゲのある言い方で彼を出迎えた。我ながら性格が悪いと思う。

「ああ、ごめんごめん。……とりあえず入れてくれねーか?」

「……入って」

 それから私は彼をリビングに通すと飲み物の準備をした。コーヒーとコーヒーフレッシュと角砂糖。お菓子はなし。

「これしか出せないけど」

 私はそう言って彼の前にコーヒーを差し出した。

「いや、充分だよ。ありがとう」

 惣介は塩らしくお礼を言うとコーヒーに角砂糖を二つ入れた。私はコーヒーフレッシュを一つ入れる。あの大学時代の学食みたいに。

「で? 今日は何の用事? 正直京介がいないときに来られると私も困るんだけど?」

「ああ、そうだよな。それは本当に悪いと思ってるよ……。でも、今日だけは許してくれ。一刻も早くお前にこれを見せなきゃならなくなったんだ」

 惣介はそう言うとブリーフケースからクリアファイルに入った写真を撮りだしてテーブルの上に並べた。

「これは?」

 私はそう言いながらその写真を手に取った。そしてその瞬間、今日惣介が来た意味を理解する。

「ああ、実はウチで抱えてるフリーライターが撮ってきたんだ。芸能ゴシップとしてはなかなかだろ?」

「そうね……」

 私はそれだけ返すと言葉に詰まってしまった。

「で、だ! 俺はしばらくこのネタを伏せとこうと思う。幸い社内でもこれ知ってるの俺だけだし、持ってきたライターには貸しがあるから露呈することもないと思うんだ。だからお前は……」

「分かってるよ。私にこれの裏取りさせたいんでしょ?」

 私は惣介の言葉を遮るとそう口を挟んだ。

「ああ、そうだよ。つーか、こんなことお前にしか頼めねーからさ。それに……。もしこれが本当ならお前も身の振り方考えなきゃいけねーだろ?」

 惣介はそう言うと眉間に皺を寄せたまま口元だけ笑った。最高に小憎たらしい笑みだ――。


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