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月不知のセレネー30

 冬木さんの家を出る頃にはすっかりあたりは暗くなっていた。どうやら思いのほか長い時間話し込んでしまったらしい。

「今日は直帰でいいんだよね?」

「うん。戻ってもやることないしね。それに今日は役員会議だから西浦さんも忙しいと思うよ。メールは送っておいたから具体的な報告は明日にしよう」

「了解っす! んじゃ解散する?」

「そうね……。ねぇ柏木くん。もしこの後予定空いてるなら飲み行かない? ほら、君が入ってから歓迎会っぽいこともしてないしさ」

「え!? マジで!? 行く行く!」

「じゃあ決まりね。……とりあえず新宿行こうか。駅前で静かに飲める店知ってるんだ」

 私はそこまで話すとスマホを取り出して行きつけの居酒屋に電話を掛けた。我ながら手際が良い。案外、企画部より営業部の方が向いていたのかも……。そんなことを思った。

「――はい、二名です。――ええ、個室で。――はい! はい! 一時間以内には行けると思いますので。――はい! ではよろしくお願いいたします」

「予約出来た?」

「うん。大丈夫みたい。んじゃ、行きますか」

「うっす!」

 柏木くんは予約が出来たと聞くと目に見えてテンションが上がったようだ。どうやら彼は意外とノリが良いらしい――。


 新宿に着くとすぐに予約していた居酒屋に向かった。下高井戸を出た頃はまだ茜色だった空もすっかり深い青に染まっている。その青さはこれから訪れる夜を迎え入れるためのカーテンのように見えた。ネオンに包まれ、色と欲で溢れかえる街を隠すための。そんな暗幕のように。

 それから新宿駅を南口から出た。そして甲州街道を初台方面に向かって少し歩いた。すれ違う人たちは皆一様に足早で、これから訪れる夜から逃げるように歩を進めていた。ホスト風の男性やら無精髭のサラリーマンやら新卒でまだ会社に馴染み切れていない若いスーツ姿の女性やらとすれ違うたび、『この街はいつも変わらないな』という気分になった。新宿は一年を通してこんな感じなのだ。人は流動するけれど、人の種類は流動しない。そんな街なのだと思う。そう考えるとこの街が精巧に作り込まれたあ舞台装置のように思えた。演者だけがローテーションで変わるだけの。そんな舞台のように。

 初台方面に五分ほど歩くと目的の居酒屋にたどり着いた。

「俺ここ初めてだなぁ」

「だろうね。てかニンヒアでここ使うのは私とあかりぐらいだと思うよ? ほら、普通はみんな西口近くの店にするからね」

「ま、だろうね。普通は初台の方には行かないよね」

 そう。普通は南口付近の居酒屋には行かないのだ。だいたいの社員はもっとニンヒア近くの店を利用するし、何ならみんなが利用する店はほぼ同じだと思う。

「なんで陽子ちゃんこんな遠くの店選んでるの?」

「うーん……。そうね。やっぱりニンヒアの近くだと会社の連中とバッティングしやすいからかな……。ほら、アフターまで部長たちと顔合わせたくないじゃん?」

「あ! それめっちゃ分かる。俺も仕事終わりまで付き合いとかしたくないんだよねぇ。……あ! 陽子ちゃんは別だよ。普通に誘ってもらえて嬉しかったっす」

「ハハハ、ありがと。んじゃ店入ろうか」

 それから私たちはその店に入った。久しぶりのアフターファイブ飲み会だ。


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