月不知のセレネー24
それから彼女は今回の企画のために書いた歌詞のを見せてくれた。紙媒体に印刷されたそれはまるで小説のように綺麗に綴られていた。おそらくこれに校正を掛けたのは半井さんだと思う。それは文章の組み方とフォントから察することが出来た。
「どうでしょうか?」
冬木さんはそう言って私の方をを上目遣いに見た。
「うーん……。ちょっと直しがいるかもしれないですが雰囲気はバッチリだと思います」
「そ、そうですか……」
心なしか冬木さんはシュンとした。おそらく自信作だったのだろう。
「えーと。悪いわけじゃないんですよ? ただ、曲をつけるとなると少し手直しが必要なもので……。まずは弊社のアーティストに見せて仮で歌ってもらいます。それで語幹のチェックしますんで」
私は出来うる限り彼女の気分を害さないように言葉を選んで彼女に言い訳した。まぁ、控えめに言って私の言葉選びなんて中の下だとは思うけれど。
「あの……。この歌詞のタイトルはなんて読むんですか? 『つきふちのセレネー?』ですか?」
私が冬木さんに言い訳していると横から柏木くんが割って入った。
「ああ、それは『ツキシラズ』って読むんです。上野公園に不忍池ってあるでしょ? あれと同じです。『不』を付けると否定形になるのでそう書かせていただきました」
「なるほど……。勉強になります」
柏木くんは本当に関心したみたいに言うとその『月不知のセレネー』の歌詞をまじまじと眺めた。
「実はこの前に鍵山さんとお話したときにこのタイトルで歌詞を書こうって話になりまして」
「そうだったんですね……。鍵山さんとはよく連絡取り合ってらっしゃるんですか?」
「ええ。この前甲府お邪魔したときにスカイプ交換したんです。それからはよく話すようになりました」
それは知らなかったよ。いつ交換してたの? と私は思った。もはや脳内ツッコミにも慣れた気がする。実際に口から出た言葉は「それはいいですね。クリエイター同士で交流していただけると私どもとしても助かります」だけれど。
「本当に連絡先交換できて良かったです。実は京極さんが帰りがけに段取ってくださったんですよ。あの方とても親切なんですよね。高木さんと一緒によく相談にも乗ってくれますし」
ああやっぱり。と心の中で納得した。あの子は変なところに気が回るのだ。私にそのことを伝えなかったこと以外は素直にファインプレーだと思う。
「『月不知のセレネー』なんて変わったタイトルですね」
「ええ、私も彼女の話を聞かなかったら思いつかなかったと思います。鍵山さんってすごいですよね。とても独創的な感性を持ってるみたいですし」
冬木さんはそこまで話すとことの経緯を教えてくれた。




