〈キレイな花は嘘をつく〉
アンナの手を引いて歩く。ここにきてボクが前を歩くなんて初めてかもしれない。
「アンリ・・・やっぱり夢なのかなこれ」
「・・・夢でも覚めなきゃ現実だよ!楽しもうよ!」
ボクの笑顔。見本はアンナだ。大丈夫、このままでいよう。
「それもそうだよね・・・。ごめんアンリ!今は楽しもう!さぁ次は何がでるかな~?」
またゲンキなアンナに戻る。良かった。いつものアンナだ。安心していると突然声が聞こえてきた。周りをみると木の上に男が座っていた。男は見つけたねと言うと木から飛び降りボクらを見つめ笑みを見せた。
「オレはチェシャネコ。それで?何をしてるの?」
「これから何か起きるんじゃないかって進もうとしてたの!」
「そっか。なら良い所を紹介するよ。不思議な花園さ」
チェシャネコが木の枝を下に押す。すると木の幹が二つに割れ、大きな草花が奥に広がっていた。アンナは目を輝かせはしゃぎだす。はしゃいだことでボクはアンナの手を離してしまい焦る。それをチェシャネコは見ていたのだろう。目を細めたのが視界に入った。
「・・・君は誰なんだい?」
「・・・アンリ」
「違うでしょ。本当の君は誰なんだい?」
チェシャネコの言っていることが分からない。ボクは・・・ボクは「アンリ」だ。
「ボクはボク。ほかになんて言えばいいんだ」
「・・・ま、いいか。ほら、アンナが行っちゃうよ?」
さっきも思ったけど白ウサギもチェシャネコも当たり前のようにアンナを呼ぶ。出会って少ししかしてないのに・・・なのになんで・・・ズルイヨ。
「どうしてこんなに親し気か知りたい?自称アンリくん」
「・・・知りたくないね!!」
チェシャネコが何となく嫌いで、ボクはアンナを追いかけ走り出した。チェシャネコはため息をつくと呆れたような笑みしスルリと消え去った。
あいつと話してる間にアンナがどこかに行ってしまった。早く探さなきゃとアンナを呼ぶけど出て来ない。ふと何か声が聞こえる。
わたしの声はどこに届くの?空の上?穴の中?森の奥?すべてに響かせ声を上げるの。
わたしの腕はどこにのびるの?太陽の光?風の流れ?雨のしずく?すべて受けれるように大きく広げるの。
わたしの根はどこに向かうの?地面深く?水の清む場所?岩の上?違うわ道へ、ただ城へ向かうだけ。迷わない様に道を敷くだけなの。
優しい音と共に聞き覚えのある声。声が聞こえる方へボクは走った。ボクがついたのは花園の脇道に入った広間。ポッカリと空いた空間にアンナはいた。
「アンナ!」
ボクの声で音がやむ。花に囲まれたアンナはボクを見てびっくりしていた。
「アンリ! びっくりしたよーみんなと歌ってたんだよ?」
「うた・・・?」
空間にはアンナしかいない。どこからあの優しい音が聞こえたのだろう。とにかくアンナを連れて進もうとすると女性の声が聞こえた。
「あら、もう一人いたのね」
声は聞こえたのに誰もいない。大きな花しかいない。もしかしてと思いながらボクは花をみるとアンリが赤いバラに声をかけた。
「バラさん!アンリだよ!」
「あら、アンリ。あなたうたは好き?」
花がしゃべってる・・・。信じられない・・・。
そんなことはよそにアンナはバラに話しかける。歌うのもいいが女王様のところに行くにはどうすればいいか。そう訊いたのだ。脇道に入る前、たしか道は四方に分かれていた。
「それなら見ぎの道を行くといいわ」
赤バラがそう言うとカーネーションが声を上げた。
「ウソおっしゃい。左の道よ!」
その声に次はガーベラが反応する。
「何を言うの?真っ直ぐよ!」
「いいえ!バラの言う通りよ!」
「カーネーションよ!」
「ガーベラよ!」
様々な言葉が飛び交う。他の花に訊いてもバラが正しいとかガーベラが嘘をついているとかカーネーションは違うわとか様々だ。上に行くんだよとか木の上さとかみんな言っていることは本当だよと言う意味分からないことを言う花たちもいた。
すべての花に訊いたが全て適当なのか同じような言葉が出された。答えなんて出てきてない。アンナはため息とつくと花々の陰に隠れていた草に声を掛けた。
「ポトスさん。ポトスさん。あなたは知ってる?」
「・・・。彼女たちの足元を辿るといいよ。そうすれば城に続く道がある。君が一番知ってるでしょ?」
アンナが一番知ってる?どういうことだ?
ボクの考えなんてよそにアンナは歩きだす。それを見た花たちは声を上げた。
「私たちの話は無視するの!?」
「こんな雑草を信じるの!?信じられない!!」
「汚らわしい!私に触れないで!!」
「あぁ。。やってしまったね」
この声・・・奴だ。奴が来る!!
思った瞬間、白銀髪の少年が姿を現した。
「アンリ、アンリ!人だよ!白ウサギさんみたい!・・・。アンリと反対の色してるね!」
この状況で本当ノンキな・・・。でも確かにそうだ。
黒い髪に青い瞳のボク。白銀の髪に赤い瞳の奴。確かに正反対だ。けど、そんな事正直どうでもいい。
「何しにきた!!」
「教えにきたのさ。この花園のこと」
「ここのこと?」
「そう。ここの者は皆、自分の思い通りに行かない者、望んだ答えでない者は消してしまいたくなるんだ」
花が他の花たちを襲いだす。つる草が強靭な物へと変わっていく。・・・赤いバラだ。あのバラが来るっ・・・!
「捕まらない様に逃げてね。アンナ」
奴は消えると、重そうなつる草がドシンッと地面を打ち付けた。
―私ノ言ウ事ヲキカナイ子ハ、イラナイ。消えてシマエバイイワ・・・。ソウヨ、消えてキエテ消えてキエテ消えてキエテッ!!―
―消シマショウ―
つる草がうねうねと動く。これはいけない。逃げなきゃ。思うのに足がすくむ。ダメだ・・・!
その時アンナがボクの手を掴んだ。しっかりと握られた手にボクはアンナをみる。
「逃げるよ!アンリ!!」
花たちは赤バラに傷つけられボロボロになっていた。おかげで道がよく見える。
「花たちの足元見やすいけどバラにも丸見えだからきっと危ない!つるに気を付けて進もう!!」
「そ、そうだねアンナ!」
―逃ガサナイワヨ!!―
つる草が鞭のように飛んでくる。うまくよけないと当たってしまう。それだけは回避しなきゃ・・・。
「アンリ、アンリ!あの穴、思いっきり飛び込むよ!!」
「えっまってアンナ!ちょっうわああああああ!!!」
引っ張られながら穴の中へと飛び込む。中は洞窟になってるかと思いきや森だ。穴は何かでふたをされたのかバラもつる草もおいかけて来れなかった。
「た、助かった・・・」
「やばかったねアンリ!」
本当、危なかった。終わってしまうんじゃないかって焦ってしまった。まだ胸が苦しい。アンナはそんなボクをよそに土を払って屈伸した。
「次なる冒険がわたしを待ってる!さぁ行こう!」
「待ってよアンナ!」
「もう、早くきなよアンヌ!」
・・・「アンヌ」?誰だ・・・?
「?どうしたの?変な顔してるよ?」
「・・・。アンナ、ボクの名前は?」
「ん?アンリでしょ?どうしたの?」
「・・・何でもない・・・」
ボクは「アンリ」「アンリ。」じゃあ、アンヌって誰?ねぇ、アンナ。「アンヌ」って誰なの?
・・・気にしても仕方がない・・・。キキタクナイ。
訊きたいのに拒否するボクがいる。ボクはただ、アンナの手を握りしめた。それに気付いたアンナはボクの手を握り返してくれた。
「アンリ、大丈夫。わたしがいるよ!」
「うん・・・!」
「本当、仲良しだね」
また突然の声。さっきもきいた。あのわけ分からないネコだ。
「チェシャネコさん!」
「やぁアンナ。君は相変わらずキレイな白銀の髪をしているね。瞳の緋色でキレイだ。そっちの子はブラックだ。瞳はコバルトブルーかな?」
なれなれしい・・・。アンナに気安く触るんじゃない。本当、こいつ嫌いだ。
「ネコさんはホワイトゴールドなのね!瞳もスカーレットでネコさんと言うよりウサギさんみたい!」
こいつも、白ウサギもみんな、みんな嫌いだ。大っ嫌いだ!!
「アンナ行こう。女王様のところに行きたいんでしょう?」
「うん。・・・アンリなんか怒ってる?」
「怒ってなんかいないよ!ほら笑顔!」
アンナの様に笑って見せる。アンナは安心したのかボクに笑顔を見せれくれた。
「女王様のところに行きたいの?」
チェシャネコが顔をのぞかせる。それにアンナは会いたいのと答えどう行けばいいかきいた。
「女王様はハートの城にいるんだ。その道はあっちかな?こっちかな?それともそっち?」
ふざけたようにあちこち指さす。場所を知らないのかどうなのか・・・。様々なところを指差した。
「どういうこと」
「つまりね、これから先は後戻りしない限りどこに行ってもハートの城に繋がっているんだ」
だからどこに行っても変わらない。そう言うのだ。アンナは仕方がないというように道をひたすら歩くことにした。
「ハートの城ってどんなんだろ~?」
うきうき。アンナは心を躍らせて
るんるん。足を軽やかに
にこにこ。笑顔を絶やさなかった。
「さぁ、忘れ物を取りに行って来てね。アンナ」




