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第14話 不協和音の葬列

平均律のワープが崩壊し、世界が均等なオーギュメントの光に飲み込まれていく中、ビマは自分の身体に起きている異変に気づき、愕然とした。


 これまで彼を苦しめ、同時に彼を彼たらしめていた「♭5」の鋭い疼き――あのトライトーンの不気味な振動が、嘘のように消えていく。


 宇宙の完璧な正三角形の光に照らされた彼の音は、もはや「不協和音」ではいられなかった。


「……消える」


 ビマは、自分の折れた大剣を見つめた。


「俺の『歪み』が、溶けていく……」


 かつては王宮の石畳の上で、誰とも調和できずに激しく火花を散らしたその欠けた刃が、今は宇宙の等間隔な波長の中に、静かに、無個性に従順に馴染んでいく。


「やめてくれ……!」


 彼は、叫んだ。


「俺からこの『醜さ』を奪わないでくれ! この♭5があったから、俺は『俺』だったんだ。人から石を投げられ、忌み嫌われて……でも、だからこそ俺は、この不器用な自分を愛そうと決めたんだ! 完璧な宇宙なんてクソ食らえだ。俺を……俺を、元の『間違った音』に戻してくれ!」


 隣では、ディマの真面目な顔も、アマの切ない瞳も、すべてが均一な光の幾何学模様へと分解され始めていた。


「ビマさん……体が……僕の『3度』の音が、もう、悲しいのか嬉しいのか分からないよ……」


 ディマの声から感情が消え、平坦な発振音へと変わっていく。


 ビマは悟った。


 宇宙の真理が支配する世界では、「悲しみ」も「喜び」も存在できない。すべての音の間隔が同じであるということは、誰かと寄り添う――協和することも、誰かとぶつかり合う――不協和することもできない、究極の孤独なのだと。


 彼は、消えゆく自分の意識を繋ぎ止めるように、指の皮が剥けるほど強く、折れた剣の「欠けた部分」を握りしめた。


「……支配も、解決もない、完璧な世界だって?」


 彼の声が、震える。


「そんなの、死んでいるのと同じだ。俺は……俺たちは、ズレていたかった。間違えたまま、お互いの響きを探し合っていたかったんだ……!」


 宇宙の巨大な静寂の中で、彼の泣き声だけが、消え残った最後の「不協和音」として、空しく響いていた。


**♪ 今日の音楽理論ひとくちメモ**


 不協和音は「気持ち悪い音」として避けられがちですが、実は音楽に緊張感やドラマを生む大切な要素です。協和音だけの音楽は美しくても単調になりがち。不協和があるからこそ、それが解決したときの喜びも際立つのです。


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