正義の騎士と、未熟な勇者
「お、お邪魔しました…」
「ユス、中には誰もいませんでしたよ?」
「それでもだよ、ナビ。やっぱり言っとかないと、気分がね…」
「…変に律儀な人ですね。」
僕らは服になりそうなものを探して、廃屋を回った。
どの家も、ひどく荒らされており、なかなか服になりそうなものがなかった。
なんとか、ここで全身を隠せるローブを身につけ外に出たところだった。
「そこの人、止まりなさい。」
声のする方に視線を向けると、綺麗な女性がいた。
綺麗な鎧を身に纏った彼女は、ただならぬ雰囲気をまとっていた。
「そのローブ…どこで手に入れたの?」
「え、その、廃屋で…」
「…なるほど。状況は理解したわ」
「ユス、嫌な予感がします。」
ナビが小声で話す。
「え?」
「略奪行為ね。見過ごせないわ。」
彼女がゆっくりと鞘から剣を抜く。
略奪!?とりあえず誤解を解かなくちゃ。
「ちょ、ちょっと待って、僕はそんなんじゃなくて。」
いや待て…。彼女の言ってることは正しいんじゃないか?
「ナビ…どうしよう?」
「確かにやってる事は略奪ですね。」
フォローしてよ…
息を吐き、彼女が動き出す。
「問答無用!!
我が主ビクター伯爵の名において、あなたを裁きます!!」
襲いかかってくる!やられる!
と思ったが、攻撃が見える。と言うより遅い?
危なげなく初段をかわす。
彼女の驚いてる顔も見える。
僕はこんな力があったのか。
続けて攻撃を仕掛けてくる。
見える。これなら大丈夫そうだ。
しかし、自分でも分からない。
なんでこんなに見えるんだ?
と思っていた時、
「見えていますね。それが勇者の力です。」
ナビの声が頭の中で響く。
「今のあなたは動体視力が強化されていますね。
しかし、それ以外は普通の人間と同じです。お気をつけて。」
あ、そういうことね。
と言うより、ナビは僕の考えていることが分かるのか?
「もちろん。また、念話による会話も可能です。」
なるほど、ナビゲーターも便利なものだ。
彼女の攻撃が止まる。
息は上がっているが、鋭い眼光で睨んでくる。
彼女が姿勢を正す。
「まさか私の攻撃を全て躱すとはね。
さすがこんなところでコソ泥をするだけってことはあるわね。」
「ちょっと落ち着いて!僕の話を聞いてくれませんか…?」
「うるさい!誰が悪党の話なんか聞くもんか!!」
僕に剣先を突きつける。
「そうだ…私は悪を裁くために強くなったんだ。
悪は滅ぼさないといけない。
もう、負けていられないんだ!!」
ものすごい気迫で襲いかかってくる。
さっきよりも早い。でも何とか躱せてはいる。
「ユス、この状況、今の貴方では制圧は難しいです。
逃亡を強く推奨します。」
「待ってよ!!だた、話し合えばなんとか…」
思わず声にでてしまう。
「私を無視して、誰かと相談!?
つくづく腹の立つ奴ね!!
しかも話し合えば分かり合えると思っているの!?」
「ちょっと、本当に待ってって!!」
その瞬間、狼の遠吠えが響く。
空気が変わる。
彼女は攻撃をやめ、周りを警戒する。
すると、廃屋の陰から狼の姿をした何かが集まってくる。
前と後ろ、完全に挟まれた。
数は5匹ほど。
唸り声をあげている。
明らかに狙われている。
「ユス、これはガルムという魔物です。」
「魔物?」
「魔王の力に触れた獣は魔物に変異します。
これもその一種です。」
「もしかして、僕たちを狙ってる?」
「はい、集団で狩を行うため、
この数だとかなり危険です。
これを対処するのは
今の勇者様でもいささか無謀かと…」
「じゃあどうすれば…?」
「彼女を囮にしましょう。」
一瞬耳を疑った。
「え?お。囮?」
「彼女もユスの話を聞かずに襲いかかってきました。
彼女も敵として判断して良いでしょう。
幸運にも彼女はある程度腕が立ちそうですし、
時間を稼いでくれるかと。」
彼女の方を見る。
魔物を警戒していて、僕の方は見ていない。
さっきとは気迫が違う。
というより怯えてる?
「待ってよナビ!
僕には力があるそうでしょ。
それなら協力して戦うとか…」
「ユスは戦えますか?」
思わず息を呑む。
「力があると戦えるとは全く別の意味です。
技術もなければ、筋力もありません。
あくまで攻撃が目にみえる。
今のあなたにはそれだけしかありません。」
「そんな、そんなことって。」
改めて彼女の方を見る。
相変わらず、視線はガルムを捉えていて、
剣を持つ手が震えている。
「あなたは逃げなさい。」
小さな声で彼女が僕に告げる。
明らかに無理をしている。
「大丈夫、大丈夫、私なら大丈夫。」
口を震わせながら、呟いている。
「うおおおお!!!」
彼女がガルムに攻撃を仕掛けた。
ガルム達も応戦する。
もちろん、僕にも襲いかかってくる。
でも、攻撃は見える。落ち着けば躱せる。
今なら反撃できる!
ガルムを殴ろうと振りかぶった時。
「ーッッ!」
体が動かない。
まるで、見えない手に身体を掴まれたように。
敵はすぐに姿勢を取り直してしまった。
しかし、すぐに動けるようになる。
「ユス、攻撃するのはやめてください。
今の体じゃ拳が砕けるだけです。」
「…ナビ、今何かした?」
「私には貴方の動きをある程度制御する力が備わっています。
無謀な行動をして、死なれても困りますので。」
「僕、そんなの聞いてないんだけど?」
「えぇ、説明していませんでしたからね。」
こいつ、腹立つ…
彼女の方を見る。
彼女も何とか防御して応戦している。
しかし、守るので精一杯みたいだ。
僕を攻撃していたガルムも、狩れそうな彼女に標的を変えた。
「おそらく、彼女は対魔物戦は経験が少ない、あるいは初めてなのでしょうか?
私が想像しているより時間は稼げないですね。」
右に左に、彼女がガルムによって振り回される。
彼女を囮にして逃げるしかないのか?
また、僕は見捨てるのか?
また?
——そんなはずはないのに。
何か思い出しそうな…
「ユス!今しかありません!逃げましょう!
あなたは勇者!!ここで終わってはいけないのです!」
ナビの口調が強くなる。
意識が戻る。
彼女を置いて、逃げれば助かる。
でも、誰かを犠牲にして生き延びるのか?
それが本当に正しいのか?
それで本当に勇者と言えるのか?
◇
「落ち着け!落ち着け!」
心の中で思うが、うまくいかない。
思った以上に体が動かない。
視界がぼやける。息が吸えない。
脳内で忌まわしい記憶がフラッシュバックする。
父が目の前で倒れた日。
仲間達の声を背に逃げたあの日が。
ガルム達の猛攻に耐えるが反撃できない。
「このままじゃ。私…」
瞬間、剣が弾かれる。
その隙を狙われる!
「しまった!!」
「こっちだ!こっちを向け!」
叫び声。攻撃を仕掛けて来たガルムが横に吹っ飛ぶ。
声の方を見ると、さっきの男が石を持っている。
あれを当てたのか。
いや、そんなことはどうでもいい。
「何をしているの!狙われるわよ!」
案の定ガルムたちが、標的を変える。
自分の敵を排除することにしたのか、
一斉に襲いかかる。
彼は少し傷を負いながらも、攻撃を躱している。
「僕のことは大丈夫だから!
君は早く逃げて!
ここは僕に任せて!」
…私と違って、彼は逃げなかった。
傷を負いながら、それでも前に出ていた。
彼の姿を見て。
震えが止まる。剣を握る手に力が入る。
「舐めないでよ!私だって戦えるんだから!!」
隙だらけのガルムを切り伏せる。
彼が標的となり、
攻撃後の隙を狙って私が斬る。
彼女に標的が移りそうなら、石を投げつけて標的を移す。
偶然かもしれないが、息のあったコンビネーションでガルムを撃破していく。
「これで最後!」
そして、ついにガルムの群れを切り伏せた。
◇
「はぁはぁはぁ…」
よかった…彼女のおかげで撃破できた…
勇者の力のおかげか、最後まで躱せたけど…
流石にしんどいな…
「ユス、今回はうまくいきましたが…」
「わかってるよ…今回だけだ。
そのためにも僕が強くならないとね。」
そうだ、僕が強くなればこんな賭けに出る必要もない。
もっと強くならないと…
「…ユスは、勇者なんです。
あなたは魔王を倒さなければなりません。
そのために私はあなたを導く必要があります。」
「もちろん分かってるよ。
でも、勇者であるなら、
できるだけ多くの人を助けたい。
きっと、それが僕の勇者としての使命だと思うんだ。」
ナビは何も言わない。
「でも、ありがとうね。
今回は僕の行動を止めないでいてくれて。」
「…まぁ、いいでしょう。
それがあなたの正義なのですね…」
彼女も落ち着いたのか、
近づいてきて手を差し伸べてくれる。
「あなたがいなかったら、倒すことはできなかったわ。
…その、ありがと…」
堅苦しいやつかと思ったら、そんなことはないのか。
「いや、こっちこそありがとう。君のおかげで倒せたよ。」
「私はシア、ビクター伯爵の騎士副団長よ。」
「僕はユス。……たぶん、勇者らしい」
「へ?勇者?」
ナビがシアの前に出る。
「控えなさい。
この方のお名前はユス。
この方は、この世界を救う使命を与えられた勇者なんです。」
「ええーーー!!」
彼女の声がこだまする。




