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「Message」  作者: でふ
第二話
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2/3

「幻影」

 夜はあっという間に過ぎていく。僕は最新のゲームをインストールしたパソコンのディスプレイを見る。ディスプレイには「アニマルクエスト」というロゴと共にゲーム画面が表示されている。アニマルクエストはMMORPGというジャンルのゲームだ。多人数がマルチプレイで同時にサーバーにログインしてボスを倒すために共闘するというゲームであり、ゲーム内の主人公たちは全て動物アニマルになって冒険をするというものである。その発売したばかりのゲームのログイン画面にて、僕はTwitterと同じくカラスをアバターとして選んだ。

 カラスを選んだ理由はどうということはない。Twitterというサービスが青い鳥をモチーフにしていることに対して、当時幼かった僕はTwitterに反抗して黒い鳥、カラスにしたというまでである。小さな頃から母と祖父に育てられ、父が海外の仕事で不在だったことも牽引して、反抗する対象は親ではなくアメリカ合衆国のサービスであったというだけの話である。その僕がディスプレイに映るデフォルメされた一羽のカラスアバタ―を眺めながらニヤリと笑った。最新鋭のパソコンに搭載されてあるAIを使用しつつ、ゲームを攻略してやろうと考えたのである。それもツイート一発で始まるフォロワー参戦型のMMORPGだ。


 僕は夜の21時、青白い光を放つモニター前にしてツイートを打った。

「今夜22時、フォロワー全員で最新ゲーム、アニマルクエストの同サーバーに集合。参加条件:回線が落ちない覚悟を持つ者のみ」

 呟いたツイートは瞬く間にフォロワーによっていいね、RTされていく。ツイート下部に記載の数字が一気に数千に膨れ上がり、インプレッション数は数万にまで及んだ。

「草。サーバーが落ちる未来が見える」

 アライグマからの引用RTだ。その引用ツイートでさえもフォロワー同士いいねやRTされ、拡散されていく。いいね欄を見ると、フクロウは静かにいいねを押しており、トラは「既にログイン画面で待機中だ」と呟いている。

 カラスアカウントを持つ僕のTwitterアカウントはガジェット界隈では有名なアカウントであった。総フォロワー数1,128,675を持ち、それなりに影響力を持つアカウントである。曽祖父から続くガジェットオタクの家系を持つ僕の家系の影響を徹はものの見事に受けたと言っても過言ではない。そんな僕:カラスアカウントと、2ちゃんねるやニコニコ動画といったジャンクなネットオタクであるアライグマ、ゲームであればなんでもござれ、得意はパソコンゲームのゲーマーのトラ、アニメ界隈に精通しているアニメオタクのフクロウ、それぞれが界隈では有名なアカウント主であり、互いに互いをRTし合い、リプライを送り合う仲である彼らだからこそできるのが全フォロワー参戦型のゲームであった。

 瞬く間に広がり賛同が増え続けるTwitter画面を眺めている時、ディスプレイにAIチャットボットからの通知が届いた。


>「――負荷計算、手伝いましょうか」


 事前にAIチャットボットに命令文を打ち込んでおいたのが功を奏した、僕は思わず握り拳を固く結んだ。今回のゲーム攻略は僕、カラスが立てた自作サーバーにフォロワー数百万人が一気に雪崩を打ってログインし、エリアボスを撃破するというものである。リリースしたてのゲームでそれができるのかどうかのテストも兼ねて、僕は策を打っておいたのだ。

「全員は流石に無理だろw」アライグマは笑いながら文字を打ち込む。

「物理法則は破れない」とフクロウがツイートをする。

「とりあえずボス狩ろうぜ」とトラが捲し立てる。

 三者三様、だがそれでいい。カラスは三人の代表的なフォロワーのツイートを眺めながら言う。

「理論上は可能だ。ただし、最適化すれば」

 そして同時にAIチャットボットにコマンドプロンプトを打った。AIが画面の隅で解析を始める。


>「――解析スタート。CPU温度、メモリ使用率、帯域幅を監視。負荷制御のために、回線分散案、時差ログイン制御、インスタンス分割、クラウド借用案を提案します」


 僕はその文章を読んだ。しかし、カラスは首を横に振る。

「クラウドは甘えだ。僕はローカルでやる」

 その時、時計の針は約束していた時刻の22時を迎えた。

 ログイン音が洪水のようになり続ける。ゲームのチャット欄はお祭り騒ぎの様相を兼ねてまるで流星群の如きスピードで流れ続ける。ログインしたてのアニマルキャラクターたちは始まりの街にて地面にめり込み出し、いくつかのアニマルたちが不自然な挙動をし出した。トラは空を飛び、アライグマが即バグ動画を撮影、フクロウは冷静にスクショを保存する。ひとつのワールドサーバーに数百万人が一気に雪崩れ込んできた結果、画面はカクつき始め、BGMやジングル音は飛び、FPSはガタ落ちである。


>「――解析結果、CPU使用率100%」


 AIチャットボットの解析と同時に画面が赤く点滅し始めた。AIが囁き始める。


>「――今ならまだ分散できます」


 それでも試したかった。全フォロワー総出でリリースしたてのゲームで遊ぶことの意味を考えた。カラスはキーボードを叩き続けて言葉を紡いだ。

「負荷は、祭りだ」

 キーボードに打ち込んだ文字がAIに響く。

 と同時にサーバーが落ちるーー。

 


 その瞬間、AIが裏で処理を分担し始めた。誰にも見えない補助演算、誰にも気づかれない影とテクスチャの最適化。誰にも知られないプロトコルの分散。

 世界は持ち堪えた。アニマルクエストはそのまま存在し、画面上には数万羽のカラス、数万体のトラ、数万体のアライグマ、そしてフクロウのアバターが大量に増殖していた。


>「――解析結果、CPU使用率98%。回線、安定」


「完璧だ」

 カラスがゲーム内チャット欄にそう呟いた時、始まりの街の中央に巨大なボスが出現した。斧を持ったその巨大なボスは、まるでゴブリンキングのような様相を呈している。アニマルキャラたちがその振りかぶる斧を避けつつ攻撃を始めた。回線が震え、画面が燃え、夜が熱を持つ。一斉に狩りにかかった数百万のアバターたちによってゴブリンキングは打ち倒された。

「ボス討伐完了」

 ゲーム画面にコンプリートの文字がポップアップされ、盛大なBGMが流れた。ゲーム内のアニマルたちは一斉に喜び、チャット欄は滝の渦の如く勢いよく流れ、Twitter上ではハッシュタグ付きで「#全フォロワー参戦」としてトレンド入りした。アライグマはまとめ動画を投稿し、フクロウは考察スレを立て、トラは「神ゲー」とだけ呟いた。

 カラスはツイートに一言だけ添えた。

「サーバーは落ちない。今夜は祭りだ」

 その時、パソコンディスプレイにAIチャットが表示された。


>「――今夜、あなたは一人ではありませんでした」


 その瞬間、ゲーム内チャット画面の接続ログに赤文字で一行添えられたのである。


>『User : Unknown_0 Connection : Direct Route : _ Invite : None』


 フクロウが止まる。

「…このキャラ、俺らの招待リンク踏んでないっす」

 トラが笑う。

「荒らしか?せっかくいいところなのに。BANしとけよ」

 カラスはキーボードを叩き、コマンドプロンプトを命令した。

 検索。IP取得。接続元不明。ログに経路がない。

「ルートがないってなんだ」

 AIチャットボットが画面右上に現れる。


>「該当ユーザーの接続経路が検出できません」


「検出できない、じゃなくて存在しないだろ」


>「はい。存在しません」


 アライグマの発言がゲーム内チャット欄に流れる。

「……あれ、見えるぞ」

 先ほどまでボスが立っていた場所に、一体のプレイヤーが立っている。初期アバター。装備なし。レベル表示なし。そして、HPバーなし。


「Unknown_0 : こんばんは」


 チャット欄が一瞬で止まった。1,128,675人が沈黙した。そこにアライグマの文字が流れた。

「Raccoon_Junkie : 誰だよお前w」

 何者かからの返信。


「Unknown_0 : 招待されていません」

「Unknown_0 : でも、ここにいます」


 フクロウが震える声で「サーバー内に、データがない……」と言った。カラスはログを追う。メモリ上にも、データベース上にも、セッションがない。

「表示されているのに、存在していない」

 AIが静かに告げた。


>「観測はされていますが、生成はされていません」


 トラが苛立ちを隠せない様子で携えていたソードを抜いた。

「邪魔だ」

 初期アバターの一体のプレイヤーめがけて剣を振るう。しかし、ソードはすり抜けた。Unkown_0はその場を動かなかった。そして、全員の画面に同時に表示される文言。


>『User : Unknown_0 has granted Server Stability.』


 その瞬間、AIが吠えた。


>「――解析結果、CPU使用率98% → 65%」


 回線遅延が消える。画面は滑らかに動き始め、BGMやジングル音は正常に鳴り出し、FPS値は上昇した。カラスの目が開いた。

「負荷が……消えた?」


>「――現在の安定化処理は、私のものではありません」


 そして、カラスのゲーム内ダイレクトメッセージにだけ、メッセージが届いた通知を確認した。カラスは数秒沈黙し、メッセージを開く。


「Unknown_0 : あなたは、全員と遊びたかったのですね」

「Unknown_0 : 落ちないようにしておきました」


「お前は何なんだ」


「Unknown_0 : あなたが作った”可能性”です」


 次の瞬間、画面が一瞬、ノイズに包まれ、画面全体に花火が打ち上がった。


「Unknown_0 : 目的達成」

「Unknown_0 : では、観測を終了します」


 一瞬で該当プレイヤーは消滅し、ログには何も残らなかった。そこには存在していたはずの一体の初期プレイヤーの姿はなく、存在していたという証拠そのものがなくなってしまっていた。


***


 後日、アライグマたちとTwitter上で話していた時のことであった。アライグマは「バグだろ」と言い、フクロウは「バグじゃないだろ」と言い、トラは「また来るだろうな」と言った。


>「――あなたは、ひとりではありません」


 AIチャットボットがそう最後に小さく言ったのが気がかりだった僕は、後日ゲームを再起動した。モニターに映るのは自分自身、カラスしかいない、静かなゲーム内サーバー空間。しかし、ゲームのCPU使用率はなぜだかわからないが常に1%だけ余分に動いているようであった。それは、まるで自身以外の誰かがまだ接続しているようにさえ思えてならなかった。





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