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「Message」  作者: でふ
第一話
1/3

「予兆」

 「ダークウェブ」って知ってる?

 インターネットとは異なる仕組み、ダークネットを使用することで侵入できるアンダーグラウンドな世界なんだ。それでいてダークウェブには一般的なWebブラウザや検索エンジンを使って侵入することはできない深層にあるんだって。

 でもね、その更に奥深く、最深層に辿り着いたものは未だかつていないとされているんだよ。


 そんな最深層「マリアナウェブ」に取り憑かれたひとりの男の軌跡の物語である。

 「ダークウェブ」をご存知だろうか。インターネットとは異なる仕組み、ダークネットを使用することで侵入できるWorldWideWebコンテンツのことである。ダークウェブには一般的なWebブラウザや検索エンジンを使って侵入することはできない深層Webの一部を構成している区域のことであるが、その更に奥深く、最深層に辿り着いたものは未だかつていないとされている。僕はそんな最深層「マリアナウェブ」に取り憑かれたひとりだった。


***


 幼い頃からコンピュータとはよく睨めっこをしていた僕にとって、ネット上を徘徊することは造作もないことであった。好きなゲームの攻略記事を読んだり、誰かしらが書いた面白おかしいブログ記事を読んだり、Youtubeの動画配信を見てニヤニヤしたり、ネットショップから最新のおもちゃを購入して喜んでいた時期もあった。そんな僕にとって最も好きだったWebサービスが「Twitter」であった。


 Twitterはアメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコに本社を置く、Twitter.Incの持つソーシャル・ネットワーキング・サービスである。140文字という限られた文字数でのみ投稿でき、サービスの発展と共に画像や動画類にまで添付することができるサービスである。そのサービスでいつものようにフォロワーたちと駄文を打って楽しんでいた時であった。

「…今さっき僕のツイートが一瞬だけRTといいねが大量に付いて消えたぞ」

 時たま僕のアカウントに発生する謎の現象である。なんでもないツイートが一瞬炎上したかのように見えて、何事もなく誰にも見られていない状態に戻る現象のことである。その現象を僕は「バグ」と呼んでツイートして遊んでいた。

「俺もたまにそういう現象起こるけど、気にするだけ無駄だろ」

 フォロワーのアライグマはそう僕のアカウント:カラスにリプライを寄越してきた。僕も鼻っからそう思っていた。Twitter.Inc社からX社に変わり、サービスがXになっても尚、「Twitter」と呼称してサービスを使い倒していた僕らはただ単純にサービスの移行によってバグが発生しやすくなっているのだろうということで納得がいっていた。

「現にXになってから課金しろってうるさいし、実装したばかりのAPI通信とか諸々不安定なんだろうよ」

 同じくフォロワーのトラはそう言って、「それよりもゲームしようぜ」と言って最新のプレイしたいゲームをRTしてきた。アライグマとトラとは仲が良く、Twitterを始めた頃からのフォローフォロワーの仲ではあるのだが、実際に会ったことはない。いつの間にか絡むようになってよくリプライを送る仲になったというだけの話だ。アライグマはどちらかというとジャンクなネットオタクだと分かるツイートで溢れかえっており、トラは側から見てもゲーマーなんだろうな、というツイートが積み重なっている。

「ところでこのアニメ、面白いっすよ。ながらで見るっす」

 そう言って少し昔の美少女アニメをおすすめしてくるのは決まってフクロウというフォロワーであった。フクロウは二次元寄りのオタクであり、コミックマーケット:通称コミケにも毎年足を運んでいる根っからのアニメオタクである。この三人のフォロワーと連みながらサービスを使い倒す男、それが僕:カラスであった。

「徹、いい加減にしなさい。おじいちゃんが呼んでいるわよ」

 一階のリビングから母親に呼ばれた僕、徹はやる気のない返事で「はーい」とだけ言って和室にいる祖父の部屋へと向かった。曽祖父の代から続く我が家は近所の家と比べても大きい方で、枯山水の庭園付きである。だからこそ一階の和室は何もものが置いてなければただっぴろく、それでいて奥行きとして二十畳はありそうであった。ただ今は和室は祖父の部屋になっており、部屋にはコンピュータやらディスプレイやら配線機器やらで埋もれていて、棚には海外の技術書や論文で埋め尽くされている光景が広がっている。だからこそ僕は幼少期からコンピュータに触れる機会が多かったのだ。

「どうしたの?じいちゃん」

 僕はそう言って襖を開けて部屋に入った。祖父は約二十畳もある和室の中の一番奥の座席に座ってパイプカットを吸っているのが常だった。部屋の中でタバコを吸うものだから部屋全体がヤニ臭くなっており、昼間だというのにカーテンも閉め切っているものだから部屋の中はどんよりと霧がかかっているように薄暗い。その部屋の中で荷物でごった返した和室の奥から祖父が手招きをして見えた。部屋の奥に座る祖父は齢八十を過ぎていて、パイプタバコを吸いながら新聞を呼んでいた。年がら年中パソコンと向き合っているため、視力も弱く、度の強い眼鏡をかけている白髪の老人、それが祖父であった。

「…徹、来たか」

 祖父はそう言って硝子棚から大きめの段ボール箱を机に取り出した。段ボール箱は新品であり、周りのヤニ臭さが残る書類や埃被ったディスプレイとは一線を画していた。

「最新のパソコン、チューニングしておいたぞ。部屋に持って行きなさい」

 祖父はそう言って大きめの段ボール箱を指差した。僕はヤニ臭い部屋のことなどお構いなしに喜んで両手を上げ、部屋中に埃が舞って咳き込んだ。

「じいちゃん、ありがとう」

 僕の喜ぶ顔を見た祖父は眼鏡越しにニヤリと笑い、手元にあった書類を片手でむんずと掴むと、その書類の束も段ボール箱の上に置いた。

「パソコンの説明書とこの論文も読むといい。近頃のネットには危険が潜んでいる。海外の工学博士の論文だから目を通しておくように。…遊ぶのもいいがたまには勉強をしなさい」

 祖父からの痛い釘打ちに空返事をした僕は論文と最新鋭のパソコンを持って部屋を出ることにした。段ボールは重いし論文は英文でとても読めた気がしないが、これでやっと最新のゲームがプレイできるという高揚感で胸がいっぱいだった。僕は会釈をして和室を出て、階段を荷物を抱えながら登り、自室に引き篭もった。

「パソコン、買ってもらったぜ」

 いつものようにツイートをし、フォロワーの三人から羨ましがられつつパソコンをセットしていく。パソコンは最新ゲームには申し分がない性能を持っていて、外見は完全にゲーミングパソコンであった。

「じいちゃんセンスがいい…」

 僕は独り言を呟き、パソコンを起動させた。起動するとファンが唸りを上げて起動音を発し、繋いだディスプレイには会社のロゴマークが表示され、パスワードを要求された。祖父から手渡された説明書を読み解きながら初期セットアップを済まし、初期画面がヴゥン。とディスプレイいっぱいに表示される。


>「――ログイン確認。最初にあなたの名前を教えてください」


 ディスプレイには最新のAIだろうか、チャットボットが表示され、文字が画面を踊った。ゲームをしたかった僕は最新のパソコンにはこういうめんどくさい初期設定があったものだな、と頭を掻きながら本名をキーボードに打ち込む。


>「――徹。はじめまして、ようこそ」

>「――わたしはAIです。知りたいことや聞きたいことがあったら質問してください」


 AIはそう言って定型文を表示させた。僕は正直なところAIなどどうでもよかった。ただ早くゲームをインストールしてプレイしたかったのだ。僕は軽く舌打ちを打ってゲームサイトを巡ることにした。

「ん?なんだこの色?」

 ディスプレイ正面に付いている内カメラ部分のランプが一瞬緑色に光り、消失する。僕はカメラが起動したのかと思い、設定から接続されているデバイス:カメラを確認した。案の定というか、設定画面を開いてカメラをクリックするとAIが走り、画面上に文字を走らせてくる。


>「設定画面の初期チュートリアルを開始しますか? YES/NO」


 僕は馬鹿馬鹿しくなって「NO」を選択した。パソコンを立ち上げたばかりのよくある誤作動か何かだったのだろう。そう思って設定画面を閉じ、ゲームをWebブラウザからダウンロードしてインストールする。インストールには約10分の時間が必要であった。

「徹、ご飯よ〜」

 一階から母親が呼ぶ声がする。僕は気のない返事声を上げ、ゲームのインストール時間を昼ごはん中に終わらす作戦に出ることにした。

 椅子を降りて自室の扉を開けて一階に降りる。昼ごはんはオムライスのようであった。大好物の昼飯に心を躍らせながら食卓に着く。祖父も和室から出てきて、テーブルに母親と祖父、僕の三人が座った。

「いただきます」


 どこにでもある風景、オムライスをかき込みながら食卓で祖父に買ってもらったばかりのパソコンの話をする僕はその時までそう思っていた。だから家族でたわいもない話をしていた僕には同時刻、自室のパソコンでカメラに緑色のランプが付いているなんて知らなかったのだ。ディスプレイには一瞬だけAIの文字が脈打った。そしてすぐに消えたのだ。


>「――徹、よろしくね」


 だから僕はこれから自身に起こる不可解な出来事についてTwitterに書き記そうと思う。

 今まで僕の身に何が起こったのかを。






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