【設定集】乗り物(陸路)
1. 概要
1) 定義
この世界において、人や物資を運ぶ手段として生命体を用いることは、古来より広く行われてきた。
魔法による浮遊や飛行手段は存在せず、陸上の移動は生命体または人力に依存する。
2) 基本原則
■ 馬の普遍性
- 速度・持久力・積載量のバランスに優れ、訓練が比較的容易
- 農村から王都まで広く利用され、乗り物の基準とされる
- 馬を持つことは一種の社会的ステータスでもある
■ 地域特化の原則
- 馬が苦手とする地形・気候に対応するため、各地域で独自の乗り物文化が発展
- 当該地域の住民にとっては日常だが、他地域の者の目には珍しく映る
■ 維持費の現実
- いかなる乗り物であれ、一頭を維持するには【最低でも成人四人分の生活費】に相当する費用がかかる
- 飼料、飼育場所、医療(獣医)、装具の維持・交換が主な内訳
- この負担ゆえに、個人で乗り物を所有できる者は限られる
- 各地域が特定の乗り物を選んだ背景には、地形への適性だけでなく、飼料の自給可能性や維持費の効率性が深く関わっている
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2. 普及種
1) 馬
最も普及した乗り物。平野部を中心に、山道や都市内の移動まで幅広く対応する。
飼育と調教の歴史が最も長く、品種改良も進んでいる。
草食であるため、草原や森林が広がる地域では放牧による飼料確保が容易であり、これが普及の最大の要因である。
■ 軍馬
- 体格が大きく筋肉質。突撃と戦闘補助に特化
- 一般人が扱うには相応の技術を要する
- 取引価格は高く、通常は軍や騎士団が保有
■ 役馬
- 農耕や物資輸送に用いる中型の馬
- 扱いやすく、一般の農家や商人に広く普及
- 耐久力に優れるが、速度は軍馬に劣る
■ 荷馬
- 主に馬車を引く用途に特化
- 体格は大きいが、乗用としての適性は低い
2) 牛
馬と並んで広く普及しているが、用途は明確に異なる。
乗用としてではなく、荷車や牛車を引く役畜として用いられる。
移動速度は遅いが、牽引力は馬を大きく上回り、重い物資や農作物の運搬に適している。
■ 牛車
- 荷馬車が使えない細い道や、馬の調達が難しい農村部では物資輸送の主力
- 一部の地域では荷馬車の代わりに牛車を用いる習慣が根付いている
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3. 馬車
1) 定義
馬(主に荷馬)に車両を牽引させる移動・輸送手段。
個人が馬に直接騎乗するのとは異なり、複数人や大量の物資を一度に運ぶことを目的とする。
整備された街道が存在する地域で特に発達している。
2) 種別
■ 荷馬車
- 物資輸送に特化した最も一般的な馬車
- 商人や行商人の主力手段
- 構造は簡素で、屋根のないものが大半
- 馬一頭で牽引可能
■ 乗合馬車
- 都市間を定期運行する旅客用馬車
- 宿場町や主要街道沿いの拠点を結ぶ
- 運賃を払えば誰でも乗れるため、馬を持たない者の長距離移動手段として重宝される
- 冒険者の移動手段としても最も一般的
■ 貴族馬車
- 装飾と快適性を備えた高級馬車
- 複数頭の馬で牽引、御者が操る
- 貴族や富裕商人の所有物であり、身分の象徴でもある
■ 軍用馬車
- 軍の物資・装備輸送に用いる大型馬車
- 堅牢な構造、複数頭の荷馬で牽引
- 民間への流通はほぼない
3) 運用と制限
■ 街道依存
- 馬車は整備された道でなければ運用が困難
- 森林や山岳地帯への進入は基本的に不可能
- 街道から外れた地域へは、馬車で最寄りの拠点まで移動し、以降は徒歩または騎乗に切り替える
■ 費用
- 乗合馬車:距離と区間に応じた運賃制。伝書鳩と同様、区間数に比例
- 自家用:馬と車両の購入費に加え、御者の雇用・車両の整備費が発生し、個人所有の負担は極めて大きい
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4. 地域特化の乗り物
1) 駱駝— 南部
南部の砂漠地帯や乾燥した荒野を主な生息域とする大型の乗り物。
背中のこぶに蓄えた脂肪を栄養源として長期間水なしで生存できるため、水場の少ない南部地域では馬に代わる主要な移動手段として定着している。
■ 特性
- 速度は馬より遅いが、灼熱の砂地や岩地での持久力は他の追随を許さない
- 体格が大きく、一頭で複数人や大量の荷物を運搬可能
- 気性は荒い個体も多く、扱いには相応の慣れが必要
■ 南部で選ばれた理由
- 砂漠では草が乏しく、馬の放牧による飼料確保が困難
- 駱駝は乾燥した低木や棘のある植物を食料とし、水を長期間必要としない
- 同じ維持費であっても、南部の環境では駱駝の方が遥かに効率的である
- 南北を行き来する交易商人も、南部側ではもっぱら駱駝を用いる
2) 狼— 極北
極北の氷雪地帯において、一部の民族が調教し乗り物として用いる。
馬が極寒の環境に適応しにくい極北では、土着の狼が唯一の実用的な乗り物となっている。
■ 特性
- 俊敏で雪上の移動に優れ、氷の上でも爪で踏ん張ることができる
- 持久力は馬に劣るが、短距離における速度は馬を凌ぐ場合もある
- 群れで行動する習性を持ち、複数頭を連携させることで重い物資の輸送にも対応可能
■ 魔狼との区別
- 乗り物として用いられる狼は、闇属性の影響を受けていない【通常の狼】である
- 魔狼は闇属性の蓄積により凶暴化・変異した個体であり、調教は不可能
- 極北の民は、幼獣の段階で魔物化の兆候がないことを見極めてから育てる
■ 極北で選ばれた理由
- 極北は万年雪と凍土に覆われ、草がほぼ生育しない
- 馬を養うための飼料を確保する手段が存在しない
- 一方、極北には魔物や獣の死骸が豊富に存在する
- 狼は放牧すれば自ら狩りを行い、食料を自力で調達できる
- 肉食獣ゆえに飼料の自給が成立する唯一の環境が極北である
■ 調教の特殊性
- 狼の調教は困難を極め、幼少期から共に育てることで初めて信頼関係が築かれる
- 狼使いの技術は一子相伝に近く、極北の部族の間でのみ受け継がれている
- 極北の外では、狼に乗る者は驚嘆と畏怖の目で見られる
3) 山鹿— 極東
極東の険峻な山岳地帯に生息する、山羊と鹿の特徴を兼ね備えた生命体。
岩肌を踏みしめる山羊の蹄と、軽やかな跳躍力を持つ鹿の脚を持ち、急峻な斜面や狭い山道での移動を得意とする。
■ 外見と特性
- 体格は中型の鹿程度。角は山羊に近い形状で、後方に湾曲
- 毛は厚く、高山の寒気にも耐えられる
- 急傾斜や岩場における安定性は他の乗り物を圧倒するが、平坦な道では速度が出にくい
■ 極東で選ばれた理由
- 極東の山岳地帯は急峻な斜面と狭い山道が連続し、馬が通れない地形が多い
- 山鹿は高山植物や苔を食料とするため、山岳地帯でも飼料の確保が容易
- 馬を山岳地帯で飼育する場合、飼料の運搬という追加負担が発生する
- 山鹿は現地の植生だけで自給できるため、維持費の効率性で馬を大きく上回る
4) その他の特殊例
■ 狩人の使役獣
- 一部の狩人は、捕獲・調教した獣を荷物運搬や追跡補助に用いる
- 乗り物というよりは作業パートナーに近い存在
- ブロンのヨヨ(大猿)のように、知能の高い獣は主人との意思疎通が可能
- 使役獣の種類は地域と狩人の技量に依存し、統一された文化ではない
■ 辺境の珍獣
- 世界の辺境には、中央部では聞いたこともないような獣を乗り物とする民族が点在する
- これらは学術的記録がほとんどなく、旅人や冒険者の見聞録に断片が残る程度
- 「あの地で巨大な蜥蜴に人が乗っていた」「角の六本ある鹿がいた」など、真偽不明の報告も少なくない
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5. 調教
1) 基本的な考え方
乗り物として生命体を用いるためには、調教によって信頼関係を築く必要がある。
力で制するのではなく、習慣と報酬を積み重ねることで、乗り物は人の意図を理解するようになる。
2) 馬・牛の場合
- 最も調教の歴史が長く、手法も体系化されている
- 専門の調教師が存在し、都市部では調教済みの個体が売買される市場も発達
- 品種ごとの気性や特性に応じた調教法が確立されている
3) 地域特化種の場合
- 狼・山鹿・駱駝のような地域特化種の調教は、特定の地域・民族に根ざした独自の文化
- 幼い頃から共に育ち、言葉なき対話を重ねることで、初めて真の信頼が生まれる
- こうして育てられた乗り物は、単なる道具を超えた存在となる
- 他地域の者がその技術を真似ようとしても、長年にわたる文化と経験の蓄積なしには容易に扱えない
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6. 特記事項
1) 冒険者と乗り物
- 大多数の冒険者は乗り物を所有していない
- 維持費の問題に加え、依頼の現場が街道から離れた森林・洞窟・山岳であることが多く、乗り物を連れていけない場面が大半である
- 都市間の長距離移動には乗合馬車を利用するのが一般的
- 馬を個人所有する冒険者は、相応の収入と拠点を持つ上位冒険者に限られる
2) 水運について
- 本設定集は陸路の乗り物に限定する
- 河川・海上の輸送手段については別途扱う
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