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狩猟祭までの一週間、進化前夜

 狩猟祭まで、残り6日。

 街は依然として熱気に包まれていた。


「あと何日だっけ? 6日? もう準備しねーとやばくね?」


「ギルドの討伐ルート固めたわ。沸きポイントで張る予定」


「まぁでも最終的に全部リィのとこのサモナーが持ってくんじゃね?」


「www確かにw あの動画何回見てもヤバい」


 市場を歩いていると、そこかしこで自分たちの話題が出てくる。


(リィ……俺たち、完全に目立っちまったな)


 肩の上に乗ったリィは、気持ちよさそうに俺の頬に頭を擦り付けてきた。


 街にいるとどうにも落ち着かない。

 だからこの1週間は、できるだけ森に籠もってリィと狩りと素材集めを繰り返すことに決めていた。


***


 ルーシェの森。

 街から徒歩で十五分ほどのこの場所は、もうすっかり俺とリィの庭のようなものだった。


 今日も草陰から飛び出してきた狼を、リィは軽やかに飛び上がり、翼を一閃させて撃ち抜いた。


「キュッ!」


「よし、ナイスだリィ。さすがだな」


 リィは嬉しそうに翼をぱたつかせ、くるりと一回転してまた俺の肩に戻ってきた。


 最近は狩りの手際が格段に良くなった。

 ただ単に強いだけじゃない。

 敵の動きを見て先読みし、的確に弱点を狙っている。


 それがVRMMOのAI補正なのか、リィ自身の資質なのか……。


(いや、もうこれは単なるフェアリードラゴンじゃないな)


 胸の奥で小さくそんな思いが芽生える。


***


 狩りを続けるうちに、俺のレベルもぐんぐん上がっていった。


 最初はあんなにスキルを上げるのに苦労したのに、今は狼や猪を狩るだけで経験値が面白いように入る。


葉山 サモナー

Lv:30

HP:720 MP:1300

STR:56 VIT:72 DEX:94

INT:205 MND:186 AGI:78


リィ(フェアリードラゴン)

Lv:25

HP:2400 MP:3200

STR:165 VIT:140 DEX:260

INT:410 MND:370 AGI:290


「おいおい……俺のINTが200超えてるのも大概だけど、リィ……お前のそれ……」


 笑うしかなかった。


 だがそれと同時に、胸のどこかがふっと軽くなる。


(これだけ強けりゃ、狩猟祭で変な失態は晒さなくて済みそうだな)


 街中で「狩猟祭の主役」とか言われるたびに、みっともない戦い方はできないと無言のプレッシャーを感じていた。

 でもリィがこれだけ強く、頼もしく育ってくれているのなら――少し安心だ。


***


 森の中、いつもの川辺で俺は腰を下ろし、釣り糸を垂れた。


 リィはその隣で静かに座り、じっと水面を見つめている。


「お前、ほんとに大きくなったな」


「キュ?」


 リィは振り返って、俺に頭を擦り付けてくる。


「……頼むぞ。来週も」


「キューッ」


 リィは楽しそうに翼を一振りし、くるりと空中を舞った。


 この森の景色も、リィの存在も、もう俺にとって欠かせないものだ。


***


 狩猟祭まで、あと三日。


 森はいつもと変わらず穏やかだ。

 だけど俺とリィは、ただ釣りをしたり素材を集めるだけじゃなく、今は真剣に狩りを重ねていた。


***


 この数日で俺自身もかなり成長した。


 最近では魔物と戦う時、魔力の流れが自分の手の中にあるように感じられる。

 召喚スキル【召喚制御】を通じてリィと繋がる感覚は、初期の頃とは比べ物にならないほど鮮明だ。


Lv:36

HP:1040 MP:1900

STR:82 VIT:98 DEX:138

INT:310 MND:285 AGI:112


サモナースキル:

・契約魔法(Lv5)

・召喚制御(Lv4)

・魔力伝達(Lv3)

・エーテル感知(Lv2)

・護りの符(Lv2)


生活スキル:

・採取(Lv6)

・釣り(Lv4)

・調理(Lv1)


(これだけINTとMNDが上がれば、リィへの魔力伝達効率も段違いだ)


 以前なら指示に一瞬のラグがあったのに、今は意識を向けるだけでリィが即座に反応してくれる。


「リィ、右!」


「キュッ!」


 次の瞬間、リィは低く飛び出し、翠の光を纏って猪に突っ込んだ。


 衝撃波で周囲の葉が舞い、猪は何もできずに崩れ落ちる。


「……やっぱすごいな、お前」


 肩に戻ってきたリィの頭を撫でると、嬉しそうに目を細めた。


***


 狩りを終え、いつもの川辺で休憩する。


「俺たち、いつの間にか結構サマになってきたよな」


 リィは膝の上で尻尾をくるんと巻いて小さく鳴く。


 そのときだった。


 リィが急にびくりと体を震わせた。


「リィ……?」


 次の瞬間、地面に飛び降りて体を低く伏せると、小さな体から淡い光が溢れ出す。


 それはどんどん強くなり、ついには眩しさに目を細めるほどになった。


「進化……か」


 胸がざわめく。


 光はやがて繭のように形を変え、森の中でじっと輝き続ける。


(とうとうここまで来たんだな、お前……)


 俺は息を呑んで、その変化を見つめた。


***


 どれだけ待っただろう。


 やがて繭がぱんっと弾け、光の粒が舞い上がる。


 そこに佇んでいたのは、確かにリィだった。


 しかし鱗はより強く翡翠のように輝き、翼は一回り大きくなり、目は深い金色でどこか知恵を帯びている。


「リィ……!」


 そっと手を伸ばすと、リィはいつものように頭を押し付けてきた。

 ただ、その体から伝わる熱は前より確かに強い。


***


「……ステータス、見せてくれ」


 HUDを開く手が自然と小さく震えた。


Lv:26

HP:3200 MP:4600

STR:210 VIT:180 DEX:350

INT:600 MND:520 AGI:390


スキル:

・フェアリーブレス(Lv6)

・癒しの鱗粉(Lv4)

・強化魔力障壁(Lv1)

・翠光の渦(Lv1)

・共鳴の煌き(Lv1)


「……冗談だろ」


 思わず笑う。


「フェアリーブレスLv6に、翠光の渦……? 範囲ごと薙ぎ払う気かよ。

 それに共鳴の煌き……俺とお前のINTとMNDを一緒に上げる? どこまで強くなるんだお前は……」


 そう呟くと、リィは得意げに「キュッ」と鳴いて翼をぱたつかせた。


***


「でも、これで――もう絶対に、恥ずかしい真似はできないな」


 リィを見つめて、自然と小さく笑みがこぼれる。


 俺の魔力制御も、召喚制御スキルも、この一週間で大きく成長した。

 リィと一緒なら、もうどんな戦場でも――いや、どんな祭でも――胸を張って立てる。


「頼むぞ、リィ」


「キュー!」


 リィは誇らしそうに翼を広げ、少し空を舞ってから俺の肩に戻ってきた。


 狩猟祭まで、あと二日。


 森の風は今日も穏やかだったが、その奥底には確かに、静かに渦巻く気配があった。



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